8-11【ロード・オブ・ザ・ピット】

『ぐぅぅぁぁがあああああががががが!!!!!』


ひぃーーー!!!


「なに、こいつ!?」


頭は黒山羊で上半身は裸の男性。


下半身は獣で背中に蝙蝠の羽が生えてますがな。


恥ずかしくないのか、チンチロリンを丸出しですよ。


それにやや小さめだしさ。


なんか黒山羊の額に魔方陣が赤々と光ってるしさ。


目なんてギョロリとしてて血走ってますよ。


しかも汚ならしい涎を垂らしながら吠えてるしさ。


まさに野生の魔獣っぽいがな。


やべーよ、こえーよ!!


「はいはい、落ち着いてください。ロード・オブ・ザ・ピットさま~♡」


『ぐぅぅぁぁがあああああががががが!!!!!』


魔女が宥めているけど、ぜんぜん落ち着かないじゃんか!?


吠えまっくってるよ。


こいつは獣か!?


それとも魔物か!?


マジでバーサーカーだよ!!


『ぐぅぅぁぁがあああああががががが!!!!!』


「オラっ、落ち着けよ!!」


バシンって尻を蹴った!?


魔女が悪魔を蹴ったよ!?


主じゃあねえのかよ!?


『あ、ああ、済まない……。ちょっと調子に乗りすぎました……』


「分かってもらえればよろしいですわ♡」


あら、落ち着いた……?


悪魔さんは落ち着きましたか?


なんか急にしおらしくなっちゃったよ。


『でえ、今日はなんで呼んだの。俺はもう寝るところだったんだけど?』


やたらフレンドリーな口調だな。


第一印象とギャップが激しいぞ。


「夜分ですが済みませんでした」


魔女がペコリと頭を下げた。


それにしても悪魔って早寝なんだな……。


まだ夜は始まったばかりなのにさ。


「本日お呼びになったのは、こちらの贄を見てもらいたく、お呼びしました」


魔女は悪魔に対して片膝を付いて礼儀を正していた。


悪魔は吊るされた四体の死体を眺めながら言う。


『あー、もうさー、晩御飯は食べたんだよね~。生け贄だったら明日の朝御飯に貰って帰るよ。だから包んでくれないか』


「いえ、そちらでは御座いません。こちらの生きた贄で御座います」


そう言いながら魔女が倒れている俺を指差した。


『んん~?』


寝ている俺に背を向けて居た悪魔が蹄を返して俺を見下ろす。


俺を野獣の眼差しで見下ろしていた。


その眼光は凶気。


黒山羊のシルエットに赤い瞳だけが光って見えた。


『えっ、こいつがどうしたん?』


「この贄の奥をご覧くださいませ」


『んん~~?』


悪魔は黒山羊の顔面を俺の顔に近付けた。


獣の眼で俺の双眸を覗き込む。


うわ、臭っ!!


すげー、獣臭いぞ!!


獣特有の臭いが俺の鼻に届く。


『ああ~~、これはこれは……』


悪魔は黒山羊の頭を放すと、顎を撫でながら言う。


『キミ、面白い者を見付けたね~』


もしかして、俺が異世界転生者だってバレたのかな?


こいつの鑑定眼は侮れんぞ。


ただの黒山羊野郎じゃあないな。


「私も戦うまで気が付きませんでした。ですが、これは貴重なサンプルだと思います」


サンプル?


サンプルってなんやねん?


『キミならどうする?』


「しばらく泳がせるのはどうでしょう?」


『遊ばせて置いて大丈夫かい?』


「おそらく収穫はまだまだ先の話だと推測できます」


『時期は?』


「早くても、十数年。遅ければ数十年かと」


『ん~、時間は少ないね』


「人間の時間なら速いほうです」


なんだろう?


わけの分からん話を始めましたよ?


俺は置いてきぼりじゃんか……。


よし、勇気を出して訊いてみるかな。


「あのー、ちょっといいですか?」


すると黒山羊頭の悪魔が苛烈な腱膜で吠えた。


『だぁまぁれぇぇええ、いまぁはぁ、はぁなぁしぃいちゅううだぁああ、頭からバリバリと食うぞぉぉおおおお!!』


「ごめんなさい!!!」


うわっ!!


メッチャ怒られたぞ!?


なんか感情の上下が激しい悪魔だな……。


そして魔女が俺の顔面に包丁を近付けながら言う。


「今は黙ってらしてね。私と主様との相談中なの♡」


包丁の先っぽが、俺の眼球の寸前で揺れていた。


こわいよ、こいつらは!?


なんか和やかに話してるから行けるかなって思ったけど、俺が話し掛けたら態度を急変させるんだもの。


マジでキチぴーだわ……。


『えーと……。どこまで話したっけ?』


「この四体の生け贄は朝御飯に持ち帰るってところじゃあありませんでしたっけ?」


おい、だいぶ戻ったな……。


またリピートパターンか……?


『いやいや、違うだろ。確か、次の飲み会はどこでやるかじゃあなかったっけ?』


「それは昨日の話ですよ、やだな~♡」


マジでこいつら何を話してるんだ?


さっぱり分からんは……。


『あっ、そうだ。こいつだよ』


悪魔が俺を指差した。


やっと話が元に戻るのかな。


「ああ、この人の話ですね。そうそう、この人って、けっこう私の好みなんですよね~♡」


おっと、逸れたぞ……。


ってか、こいつは俺に惚れてるのか?


それは困った恋愛感情だな。


流石の俺でも受け止めきれないぞ。


俺より強いキチぴーは流石に御免だわ。


『ええ、マジマジ!? どの辺がいいわけ~?』


「私って、そんなに面食いじゃあないですから、素朴なところって言いますか、平凡ってところが……。ぽっ♡」


何が、ぽっ♡だよ!!


無いから、俺的には絶対に無いからな!!


そもそも、カオティックなオカルト満載なかっこうしながらガールズトークを繰り広げてんじゃあねーぞ!!


こいつらは乙女かよ!?


悪魔と魔女なら、もっとおどろおどろしく会話を繰り広げやがれ。


『あー、あんた昔っから、平均点が低い子がタイプだったもんね~。ダメンズウォーカーってやつね』


「褒めないでくださいよ~♡」


『褒めてなんてないぞ……』


うわー、ツッコミてー!!


メッチャツッコミてーー!!


それに俺ってそんなに平均点が低いのか!?


嘘つけや!!


少なくとも平均点は突破してると思うんだが……。


『じゃあさ~、あなたがこの子を飼うの?』


「それは無理です。私のマンションはペット禁止だもん……」


マンションって、この世界にあるんかい!?


あるんなら俺も住みたいぞ。


『それならさ~、ボーナスが出たばっかりなんだから、ペット有りのマンションに引っ越して、このワンちゃんを飼っちゃえば?』


ボーナスとかもあるの!?


俺はボーナスなんて貰ったことないのにさ。


「でも、私にちゃんと飼えるかしら?」


えっ、なに??


俺、飼われるの??


ペットになるの??


それって女の子と同棲生活を過ごすことだよね??


マジで!?


初めての同棲が可愛いけどサイデレとですか!?


悪くないけど、こえーよ!!


んん?


それって紐かな?


紐なら少しは憧れる職業だよね。


ならばペットも悪くないかも。


『じゃあ、飼えないならどうするの?』


「ビーコンを付けて放し飼いかな~」


『あー、それがいいんじゃあない。餌も与えなくてもいいし、散歩に連れてかなくってもいいからさ』


「うん、じゃあそうします♡」


魔女は明るく答えると無空から指輪を取り出した。


今のは異次元宝物庫だな。


この魔女も異次元宝物庫を持ってやがるのか……。


『そんな旧式の探知機しか無いの?』


「まさかこんなことになるなんて考えてもいなかったから、ビーコンの予備がこれしか無いんですよ」


指輪だな。


あれが探知機だかビーコンだと言うのなら、俺の指に嵌めるのか。


『ちゃんと心臓に嵌められるの?』


「たぶん出来ますよ♡」


ちょーーと待て!!


今、サラリと心臓に嵌めるとか言いましたよね!!


マジですか!?


指輪なんだから指でいいじゃんか!!


なんで心臓に指輪をはめちゃうかな!?


その発想が悪魔だわ!


ジョジョの観すぎだぞ。


「じゃあ、始めますね~♡」


魔女は俺の胸の上に指輪を置いた。


「いざ、投入~♡」


そして、魔女が指輪を俺の胸に押し付ける。


すると指輪は俺の胸の中に落ちるように入って行った。


体に痛みはない。


だが、指輪が体に入ったのは感じられた。


そして、すぐに指輪が心臓に到達して、動脈の一つに引っ掛かる。


コツンっとした違和感。


そう俺には感じられた。


『上手く行ったみたいだね』


「はい♡」


『じゃあ、あとの監理は頼むわよ』


「はい、畏まりました。ロード・オブ・ザ・ピットさま!」


『さー、私も寝ようかな~。明日は朝から忙しいのよね~。同僚とゴルフなのよ~。じゃあバイバーイ。おやすみ~』


そう言うと悪魔は出て来た血黙りの中に飛び込んだ。


そして消える。


さて、再び魔女と二人っきりになったよ。


これからどうなるの?


「さ~て」


魔女が黒山羊のマスクを外した。


黒山羊の下からポニーテールの美少女が現れる。


このビジュアルで魔女なんだもんな……。


勿体無い……。


実に勿体無い……。


ポニーテールの美少女は柔らかく微笑みながらしゃがみ込むと俺に言った。


「あなたの命はしばらく生かしておいてあげるわ。だから、もっと強くおなりなさい♡」


わけが分からん……。


それよりもだ。


俺の眼前でしゃがみ込んだ彼女のパンツが見えてますがな!!


白だ!!


純白だ!!


ぐっぁだたただだだだだただっだだだあああ!!!!!


心臓がぁぁぁあああああ!!!


マジで怖い魔女だけどパンツに罪はないぞぉぉおおお!!!


純白ならば俺の呪いが発動するよねぇぇええええ!!!


お、落ち着けよ!!!


でも、パンツから目が放せないィイィイィイ!!!


てか、魔女さんよ、パンツを見られているのに気付けよな!!!


そこまで俺に拷問したいですか、あなたは!?


「あら、あなたは女神にペナルティーをもらっているのね♡」


なにぃ!?


そんなことまで分かるのか!!


そこまで分かってるなら、パンツが見られているのぐらい気付けよな!!


こっちは苦しくったって、目が放せないんだからよぉぉおおお!!!


「じゃあ、私も帰るわね。あっ、ロード・オブ・ザ・ピットさまったら、朝食を持って帰らなかったわ。四体も私一人じゃあ食べきれないわよ」


魔女は立ち上がると四体の死体を眺めながらぶつくさ言っていた。


てか、俺の頭の真横で立つなよな!!


見上げれば、まだパンツが見えてますがな!!


もうスカートの中を下から覗き放題ですわ!!!


もう、心臓が爆発するぅぅううう!!!


マジで拷問だぁぁああああがかががきぃぎぃ!!!


「よし、じゃあ一体だけ持って帰るわ。あとの死体はあなたにあげるから、好きにしていいわよ♡」


魔女は俺の側から離れると、吊るされていた死体の一つを下ろして異次元宝物庫に入れる。


あれ、異次元宝物庫内なら死体は腐らないはずだろ?


四体全部持ってかないの?


もしかして、魔女の異次元宝物庫は俺のと機能が違うのかな。


時間停止機能がないのかな。


それとも収納スペースが少ないとかなのかな?


「じゃあね、また会いましょう♡」


そう言うと魔女は納屋を出て行った。


夜の闇に姿を消した。


「ふぅ~~……」


とりあえず命拾いしたな……。


「た、助かった……」



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