7-2【連続付け火事件】

三方を三階建ての建物に囲まれた空き地。


正面の道は人通りが少ない。


しかし、まったく人が通らない寂しい道でもない。


元々はスカル姉さんの診療所が建っていたスペースなのだが、今は何もないただの空き地である。


その空き地の置くで、隣の建物の影に潜むようにボロいテントが建っていた。


人が二人なら並んで寝れそうな小さいテントだが、中には鞄に詰められた荷物が押し込まれていて狭苦しい。


一人が寝そべるともういっぱいいっぱいだ。


おそらく火災から免れたスカル姉さんの僅かな荷物だろう。


俺とスカル姉さんは、ボロテントの前に焚き火を炊いて向かい合いながら座っていた。


だが、スカル姉さんは元気が微塵もない。


最近満足に飯すら食べていないような窶れた顔でしょぼくれていた。


俺が憔悴しきったスカル姉さんに問う。


「何があったんだよ?」


しかし、スカル姉さんが質問に質問で返してきた。


「それよりあんた、何か食べ物を持ってない……?」


「保存食ならあるぞ」


俺がバックパックから保存食を取り出すと、即座にスカル姉さんに奪われた。


まるで獣のように保存食を奪い取ったスカル姉さんは餓鬼のように干し肉に食らい付く。


「がぶがぶがぶッ!!」


「うわ、卑しい……」


俺は野良犬のように保存食を食らうスカル姉さんをしばらく見守った。


「げっぷぅ~……」


「落ちついたか?」


「うん……。水……」


「慌てずに飲めよ」


「うん……」


これではまるで老人の介護のようだ。


「でえ、何があったんだ?」


俺が心配そうに訊くと、スカル姉さんがトボトボと語り出す。


「五日前に、寝てたら突然火が出たの……」


「突然か?」


「火元は一階の診療所前よ。火の気が無い時間だから、放火ってされてるわ……」


「犯人は?」


「捕まってない……」


スカル姉さんは深い溜め息を吐いた後に語り続ける。


なんか凄く老けた感じがした。


「この二ヶ月ぐらいの間、ソドムタウンで不審火が続いてたのよ……」


「不審火。それが放火ってことか?」


「あんたが家を借りた時も燃えたでしょ……」


「ああ、確かに燃えてる」


でも、あれは、大家の寝タバコが原因だって聞いてたが……。


まあ、いいや。


「二ヶ月で七件目よ。しかも前回の付け火から、私の家に放火するまで四日だったらしいの……」


「完全にペースが早くなってるってことか。放火犯も調子に乗り始めたってことかい」


「ええ……」


「でぇ、スカル姉さんはこれからどうするんだ?」


「昨日やっと火事場の片付けが終わったの。でも、もうほとんどお金は無くなったわ。貯えてた貯金がほとんど燃えたからね……」


「あらら~」


「今は食べるのがやっとよ。新しく家を建てるお金なんて微塵も無いわ……」


いやいや、食えてもいないじゃんか。


めっちゃ窶れてるしさ。


「う~~む……」


それにしても困った話だな。


これは俺としても困った感じだ。


呪いのせいで一般の宿屋に泊まれないからスカル姉さんのところに住んで居たのに、本拠地を失ってしまったことになる。


俺にも貯えはあるが、流石に家を建てるほどの貯金は無いしな。


「スカル姉さん、仕事はどうなってるん?」


「医療は薬が無いからやっていない。たまにヒーラーとして治療はやっているが、ほとんど稼ぎにはなっていないわ……」


収入も無しかよ。


マジで極貧のようだな。


「じゃあ、冒険者に復帰するかい?」


「無理。もう現役を離れているし、装備も無いわ。何より今の私に気力が残ってないの。絶望で何もやる気が出ないのよ……」


あらら~。


気力を失ったパターンですか。


一番駄目なパターンだよね。


気力が無い人は救いようもないからな。


「さて、どうするかな~」


俺がゴロンと寝そべると、スカル姉さんもゴロンと寝そべった。


二人は三方向から囲む屋根の隙間を流れていく雲を眺めながら語り合う。


「どうしましょう……」


「まったく、どうしたもんかね~」


少し考えてから俺が問う。


「ゾディアックさんに頼ってみたのか?」


「もう、お金を借りたわ……。でも、住まいまでは頼れなかった……」


「なんで?」


「私には、この土地が残っているのに、そこまであいつに頼れないわ……」


この女、無駄にプライドが高いな。


むしろゾディアックさんと結婚したら良かったのにさ。


そして、一緒に暮らせばいいじゃんか。


あの人もスカル姉さんのことを好きなんだからさ。


そう言うところがさ、この二人は不器用なんだよね。


まあ、女の弱みに漬け込みたくない男と、自分の弱みに漬け込まれたくない女の性なんだね~。


男女の関係って難しいわな。


結婚って、俺には無理だわ。


だが、もしもスカル姉さんとゾディアックさんが結婚したら俺の居場所はやっぱり無くなるな。


まさか新婚の中年夫婦の家に俺が転がり込むわけにも行かないしね。


中年とは言え夫婦なのだ。


年甲斐もなく毎晩子作りに励まれたら俺のほうが居心地が悪い。


でも、いつまでもこうしてもいられないか。


現実的に考えて、ソドムタウンでの暮らしを立て直さなければなるまいな。


まずは何よりも寝床を確保しなければなるまい。


「スカル姉さん?」


「なぁにぃ……?」


「この土地はまだスカル姉さんの物なんだよね?」


「そうよ……」


「じゃあ、まだここはスカル姉さんの土地なんだ。なら俺も隣にテントを建てていいか?」


「お金を取るわよ」


「絶望しててもがめついな……。まあ、それはそれでいいや」


寝そべる俺がスカル姉さんのほうにコインを一枚だけ投げた。


「うわぁー!、お金だぁお金だぁ!!」


うーわっ!!


マジすげー卑しいぞ!!


ちょっとビックリしたわ……。


引くわ~……。


俺は起き上がるとせっせとテントを建てた。


まあ、とりあえず寝るスペースがあれば良いだろう。


俺はテントを建て終わると寝そべるスカル姉さんに訊いた。


「スカル姉さんは、これからどうしたい?」


「どうしたいって……?」


「まずは、ちゃんと生活できるスペースを確保したいか?」


「屋根と壁は必要だろうね……」


俺は更に二つ目の質問を投げ掛ける。


「それとも放火犯をぶちのめすほうが先かな?」


俺の質問を聞いたスカル姉さんが上半身だけをムクリと起き上がらせた。


そして冷めた目で俺を見上げながら言う。


「私はこの土地から出て行かないわよ。この土地は父が残してくれた土地なんだもの。それと放火犯はぶん殴りたいわ。私が育った家を燃やしてくれたんですもの。復讐は当然の義務と権利よ!」


うわ、冷めた視線と冷えた台詞が怖いですわ……。


この人はマジだよ。


絶望して落ち込んでても、復讐心は消えてないのね。


むしろそれだけが燃料で生きてるのかな?


「でも、あんた、犯人を見つけられるの?」


「そうだな~」


俺は三階建ての建物に囲まれた空を見上げながら呟いていた。


「放火犯のほとんどは男性って聞いたことがある」


「ふむふむ……」


「だいたい男性が六割で、女性が三割ぐらいだとか……」


「ふむふむ……」


あれ?


あと一割は、なんだっけ?


ジェンダー?


まあ、いいや。


とにかく、いろいろ事件を探ってみるかな。


あと、ちゃんとした住みかも築かないとな。


そう、作るんだ──。


スカル姉さんは、この土地にこだわっているから意地でも動かないだろう


ならば考えないといかんぞ。


まあ、策はある。


まずは、放火犯を捕まえることからかな。


捕まえて全裸の亀甲縛りで町中を引き回しにしてやるぞ。


じゃあそうなると、情報収集からだ。


うん、今回は推理小説的な展開だぜ!!


俺が探偵になって放火魔捜査だ。


なんか格好良くね?


よし、頑張ろう。


「じゃあ、スカル姉さん、俺は放火犯をとっ捕まえてくるからな~」


「はいはい、いってらしゃ~い……」


この人は、俺が放火犯を捕まえられるなんて考えてもいないな。


そう言う態度だわ。


こんちくしょう、あてにされてないぞ。


そうなると逆に燃えてくるぜ。


絶対に放火犯を突き止めてやるぞ。


冒険者を舐めるなよ。


俺はメラメラと燃えながら町に出て行った。


これから犯人捜しの大捜査だぜ!!



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