第七章【魔王城へ旅立ち編】

7-1【ソドムタウンに帰還】

俺はゴモラタウンから黒馬に乗ってソドムタウンに帰って来た。


行きは歩きで三日掛かった道のりも、疲れ知らずの黒馬を使えば一日程度で帰って来れたのだ。


普通の馬よりも馬力に優れて走る速度も速い。


金馬のトロフィーとは、なかなか使えるマジックアイテムである。


そんなこんなでゴモラタウンを朝出て、次の日の昼にはソドムタウンに到着したぜ。


本当に疲れ知らずのお馬さんですわ。


休憩も取らず、水も飲まずに走り続けて帰って来れたのだ。


普通の馬なら心臓が破裂して死んでいるよね。


まさにマジックアイテム様々だぜ。


俺は馬上から黒馬の顔を眺めた。


「黒馬ねぇ~……」


そうだ、この黒馬に名前を付けてやろう。


それがいいや。


何がいいかな~。


やっぱりかっこいい名前がいいよね。


赤兎馬!!


いやいや、赤くねーよ……。


黒馬だってばよ。


それにウサギですらないしな。


もっと真面目に考えよう。


でも、適当でいいよね。


ガチで考えすぎると厨二臭い名前になりかねない。


それだけは避けないとならん。


スカル姉さんに知れたら大爆笑されてしまうわ。


それにしても、なんかこの黒馬は目が冷めてやがるしよ。


あー、そうだ。


この際だからセルバンテスでいいかな?


「どうだ、お前の名前はセルバンテスだ!」


俺がそう言うと黒馬は、ぶるるるるぅ~って言いながら首を左右に振りやがったぞ。


嫌なのか?


NOですか?


てか、俺の言葉が分かるのか?


こいつ、もしかして頭が良いのかも知れん。


コミュニケーションがとれちゃいますか?


ならば、少し知的な名前に寄せてみるか。


「じゃあ、エクスフロイダーでどうだ?」


また黒馬は、ぶるるるるぅ~て言いながら首を左右に振りやがった!?


こいつ、やっぱり俺の言葉が分かっていやがるな!?


「じゃあ、どんな名前がいいんだよ?」


黒馬は蹄で土を蹴りながら何かを描く。


文字だな……。


やっぱりこいつは意志疎通ができるぞ!!


すげー馬だな。


でぇ、なんて書いたのかな?


抉れた土には、はっきりと分かる文字が書かれていた。


「アキレス……」


俺は読み上げてから黒馬を宥めるように言う。


「おまえ、分かってて言ってるのか?」


黒馬はぶるるるぅ~と首を縦に振った。


まあ、ローマの英雄アキレスから取ってるんだろうけど、こいつはアキレス腱を切って馬刺になりたいのかな?


めっちゃ脚が弱点ですって言ってるような名前だぞ……。


「まあ、いいか。本人がアキレスがいいなら、俺も反対しないわ」


黒馬から名前を改めたアキレスは、勇ましく首を縦に振った。


「じゃあ今度からアキレスって呼んだら来るんだぞ」


そう言うとアキレスをトロフィーに戻す。


それから異次元宝物庫に仕舞うとソドムタウンのゲートを目指した。


う~ん、久々のソドムタウンのような気がするな。


実際には11日しか経ってないのだがね。


それにしてもソドムタウンは、やっぱりピンク色が濃い町だよな。


本当、俺に目の毒が多い町だわ。


やっぱりフードで目線を隠して歩かないと心臓が痛み出してしまうぜ。


キラキラの揚羽蝶みたいな姉ちゃんたちがわんさか過ぎるわ。


まあ、とにかく、まずは冒険者ギルドに顔を出して、ギルガメッシュに仕事の完了を報告しよう。


ついでに昼飯も食おうかな。


ずっと馬を走らせていたから俺のほうが空腹だぜ。


走っているアキレスは疲れなくても、乗ってる俺はちゃんと疲れるんだもん。


なかなか万能じゃないわな。


俺は冒険者ギルドの酒場に入ると、ハンスさんが立つ前のカウンター席に腰掛けた。


「ただいま、ハンスさーん」


「やあ、アスラン君じゃないか。やっとゴモラタウンの仕事が終わったのか……?」


あれ、なんだか暗くね?


ハンスさんの口調も表情も薄暗いぞ。


「ああ、何度か死んだけど、やっとこ終わったぜ」


「え、死んだ……?」


「まあ、生き返ったけどな」


俺が笑いながら言うとハンスさんは怪訝な表情をしていた。


あれ、もしかしてこの異世界って、死んだら生き返らないのか?


ハンスさんは俺の言葉を冗談と受け止めたのか笑いながら何を食うか訊いて来た。


俺は「おまかせで」と適当に答える。


するとしばらくして、おまかせのメニューが運ばれて来た。


鶏肉とジャガイモのスープに硬い黒パンだった。


「うん、不味い」


俺が笑顔で言うとハンスさんは不思議そうな顔をしていた。


まあ、ピイターさんの料理の腕が良かったのかな?


あの人は寂れた詰所で番兵なんてさせておくには勿体無い逸材だ。


どこかの町でレストランでもオープンさせれば絶対に繁盛するだろう。


でも、この不味い飯も懐かしくて悪くない。


なんだろう、最近になって、舌が退化しているのかな。


不味い食べ物に慣れてきているぞ。


これはヤバいのかな、ヤバくないのかな?


まあ、どっちでもいいや。


この異世界にも慣れて来たってことにしておこう。


俺は昼食を終えると二階に上がる。


仕事が終わったと受付に話してギルマスのギルガメッシュに面会を求めた。


そして、少しするとギルマスの部屋に通される。


「ただいまー、今さっきゴモラタウンから帰ったぜ~」


俺が元気良くギルマスの部屋に入ると、ギルガメッシュはマホガニーの机でいつものように書類の山を処理していた。


相変わらず仕事熱心な変態モヒカンだぜ。


「おう、帰ったか、アスラン」


ギルガメッシュは手にした書類から視線を外さずに、そのまま俺と会話を続けた。


「でぇ、どうだった、ゴモラタウンは」


「上の世界は平和だったよ。下の世界は大変だったがね~」


上とはゴモラタウンで、下とは閉鎖ダンジョンのことだ。


「そうか。良い経験は積めたか?」


どうやら俺の例え話は通じたらしい。


流石は冒険者ギルドのマスターだ。


この人も一度ぐらいは閉鎖ダンジョンに入ったことがあるのだろう。


「ああ、死後の世界も体験できたぐらいだぜ」


「それは貴重な体験だったな」


俺たち二人が話していると、パンダのゴーレムがお茶を運んで来た。


俺はソファーに腰掛けると、パンダゴーレムが運んで来てくれたお茶を啜る。


すると読んでいた書類を机にほおったギルガメッシュがこちらに歩み寄って来た。


いつものモヒカンヘアーに上半身裸のサスペンダー姿だった。


いつもながら変態臭いヒャッハーなスタイルだぜ。


「じゃあ、大仕事も終わったからしばらく休むか?」


「いや、気を使わなくってもいいぞ。どんどん仕事を回してくれ」


ギルガメッシュが俺の顔を見ながら言う。


その表情が僅かに暗い。


「おまえ、ドクトル・スカルの診療所には帰ったのか?」


「なに、可笑しな表情しやがって?」


ギルガメッシュは溜め息を吐いてから俯いた。


「とりあえず帰れ……」


「えっ?」


「とにかくだ。ドクトル・スカルのところに帰ってやれ……」


不吉な空気を感じ取った俺は、ソファーから立ち上がると、何も言わずに部屋を飛び出した。


一目散にスカル姉さんの診療所を目指す。


「何かあったのか!?」


俺は息が切れるのも忘れてひたすら走った。


そして、建物の前に到着する。


しかし、建物の前に到着したはずだったが……。


「な、なんじゃ、こりゃあ……」


そこにはスッポリと建物が抜け落ちていた。


三階建ての診療所であり、俺の下宿部屋がある建物がないのだ。


両サイドと後ろの建物は、そのまま建っていたが、スカル姉さんの診療所だけがスッポリと失くなっているのだ。


そう、空き地である。


綺麗な更地の空き地である。


「な、なんで……」


俺は呆然としながら空き地に歩み寄る。


あれ、空き地の隅に、小さくてボロい三角テントが建ってますぞ……。


「ど、どうなってるんね……」


俺が驚愕しながら呟くと、三角テントの中からスカル姉さんが四つん這いで出て来た。


スカル姉さんは微妙に汚くね?


なんか長い髪もボサボサだし、白衣も真っ黒だ。


そして、四つん這いのスカル姉さんと俺の視線が合う。


「スカル姉さん……」


「アスラン……」


「何がどうしたの……?」


「うわぁぁぁあああんんん!!」


スカル姉さんが大声で泣きながら俺に抱き付いて来た。


「くさっ!!!」


俺に抱き付くスカル姉さんは、生ゴミのように超臭い。


それはもう反吐が出そうになるぐらい臭かった。


「スカル姉さん、何があったんだ!?」


「燃えた、全部燃えてもうたぁぁああ!!」


えっ、なに?


なんなの、この怒涛の新展開!?


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