6-21【ベルセルクとテイアーの再会】
肉体と一体化したテイアーを連れて俺が閉鎖ダンジョンから地上に出ると、裏庭の詰所にはベルセルクの爺さんがソワソワしながら待っていた。
お供に連れているは詰所に勤める三人だけである。
ベルセルクの爺さんが待っていたのは俺が通信リングで、テイアーを連れて、これから閉鎖ダンジョンを出ると連絡したからだろう。
君主の前だからか、珍しくパーカーさんもピイターさんも畏まって片膝を付いている。
窓の外を見たら夜だった。
深夜なのにベルセルクの爺さんは一人である。
この町の君主様が、こんな真夜中に警護を付けずにやって来るなんて無用心だな。
ベルセルクの爺さんは俺の後ろに立つテイアーの姿を見て震えていた。
いい歳こいて眼が潤んでいやがるぞ。
「あ、あなたは……」
『久しぶりですね、ベルセルク』
微笑みながらテイアーが答える。
俺は黙って端に寄った。
壁に背を付けて見守ることにする。
『あれから70年ぐらい過ぎましたか。あなたは随分と老けましたね』
「あなた様は、何も変わらない。私がこんなに老けたのに、私が子供のころのままですね……」
『ドラゴンに取っての70年なんて、一瞬の時ですから』
「だが、私はあなた様に助けられ、その70年を全力で生きましたわい。もう老いて残りの寿命も僅かです。最後の最後で、あなた様に再会できて本望ですぞ」
『何を言っているのですか、あなたはまだまだ生きますよ』
「いえいえ、もう十分に生きました。この町の君主は息子に譲って隠居します」
『いやいや、本当にまだあなたは生きますよ。あと60年ぐらい生きますね』
「えっ……。あと60年って、今私は76歳ですよ。136歳まで生きると言うのですか?」
『ええ、私は生き物の寿命が見えますから、間違いありません』
「ええっと……」
『しかも、息を引き取る直前まで元気に動き回れるぐらい健康にすごせますわよ』
「ほ、本当ですか!」
『なんでしたら私が作った秘薬を飲めば、更に30年ぐらいは寿命が伸びますが、要りますか?』
「その秘薬は、いかほどで?」
『そうね~。あなたとは縁もありますから、無料で差し上げますとも』
「ほ、本当に……」
あー、なんか感動とは、程遠い展開に転がってませんか?
生きるか死ぬかの話だけど、なんだかズルっぽくね。
寿命を伸ばす秘薬とかってインチキだぞ。
『まあ、その代わりといいますが、私はこの下の閉鎖ダンジョンに住み続けますわよ。本当は引っ越しも考えていたけれど、もう1000年ぐらい過ごすのもいいかなって思い始めましたわ』
「そ、それは今まで通り、どうぞどうぞ……」
『じゃあ、これをあげますね』
そう言うとテイアーは、彼女専用の異次元宝物庫からフラスコに入った赤い秘薬を取り出した。
あー、ドラゴンって普通に異次元宝物庫を各自で持ってるのかな?
ドラゴン文化って凄いね。
「こ、これが、長寿の秘薬……」
『長寿ってほどでもないけれど、人間には長寿の秘薬なのかしら』
ベルセルクの爺さんはテイアーからレッドポーションを受け取った。
ガラス瓶の中身をマジマジと眺めている。
「これを飲めば……」
『さあ、飲んでみてください。それを人間が飲めば、どのぐらい寿命が伸びるか見てみたいのよ』
おいおい、人体実験じゃあねえか。
その秘薬とやら、本当に大丈夫かな?
なんだか怪しい薬じゃあねえの?
てか、やっぱりテイアーってマッドサイエンティストっぽいところがあるよな。
「で、では、頂きます……」
ベルセルクの爺さんは、フラスコに入っている赤い液体を一気に飲みほした。
うーーわ、躊躇無いね。
俺なら簡単に飲めないよ。
「う、うぅうぅ………っ!!」
ほら、苦しみだしたよ。
予想通りやっぱりヤバくね?
「ぐっあぁっっあぁ!!!」
あれ、なんか少しずつベルセルクの爺さんの身体が小さくなってませんか?
髭もポロポロと抜け落ちて行くし、顔の皺もなくなり肌に艶が出てませんか。
寿命が伸びたといいますか、若返ってませんか。
しかも子供に戻ってますよね?
『あら~、失敗か……』
テーイーアーさーん!!
今何気なくヤバイ言葉を吐きませんでしたか!?
失敗とかぬかさなかったかい!?
「ぅ…………っつ!!」
おお、ベルセルクの身長が縮まる速度が止まったぞ。
でも、随分と小さくなりましたがな……。
「な、何が起きたのじゃあ……」
若返りましたがな。
しかも6歳児ぐらいですわ。
これって30歳ぐらいって言いますより、70歳ぐらい若返っちゃいましたがな。
パーカーさんも、ピイターさんも、やっぱり驚いてますね。
うん、こりゃあ、ある意味で君主を引退せざるをえないかな。
「テ、テイアーさま、これは……」
幼児化したベルセルクが可愛らしい声でテイアーに問う。
『秘薬の副作用で若返ったようですね』
副作用のせいにすんなよ。
さっきポロリと失敗って言ったじゃんか、お前がさ。
「わ、若返った……」
ベルセルクの元爺さんは、自分の小さな手を見ながら驚愕に震えていた。
まだ混乱に襲われているようだ。
『まあ、良かろうて。第二の人生だと思ってエンジョイしなさいな』
「第二の人生……」
『じゃあ私は閉鎖ダンジョンに帰るから……』
うわ、無責任に逃げやがるよ、こいつ。
バックレる気満々じゃあねえか。
『それじゃあね~』
手を振りながら笑顔で踵を返したテイアーが閉鎖ダンジョンに下りて行く。
完全に逃げる気だわ。
逃亡だよ、逃亡。
まあ、俺はベルセルクの爺さんが幼児に変わっても構わんけれどね。
今度からベルセルクの坊やって呼び直せばいいだけだしさ。
よし、早速呼んでみるか。
「ベルセルクの坊や、若返ってよかったな。俺より若いじゃんか」
「あ、ああ……。若返って良かったのかな?」
「ちょっとチンチロリンを見せてくれ。毛は生えているのか?」
俺に言われてベルセルクの坊やはブカブカな服を捲って自分の下半身を覗き見た。
透かさず俺も覗き込む。
「生えてないな」
「う、うん……」
「ツンツルてんだな」
「う、うん……」
「しかも、かなり可愛いぞ」
「チンチロリンは立つのかな……?」
「暴れん坊だったら最高なんじゃが」
どうやらまだベルセルクの坊やは頭が混乱しているようだ。
冷静に物事が考えられない様子である。
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