6-20【大小のつづら】
俺はテイアーの魂と一緒に、ホワイトドラゴンの体が眠る最奥の大部屋まで戻った。
『あらあら、懐かしい私の身体だこと』
なに、自分の身体を二百年ぶりに見ての感想が、それですか?
なんか冷めてない?
ドラゴンって良く分からない種族だわな。
『私に言わせれば人間の中でも冒険者って人種が良く分からないですよ』
へえ、なんでさ?
『冒険なんてして、何が楽しいのですか?』
冒険……、楽しいじゃんか?
『私に言わせれば、他人の家に勝手に上がり込んでタンスや壺の中から小銭を盗んで行く、ちんけな泥棒さんですよ』
あー、ドラゴンから見ての冒険者って、その程度の害虫扱いなのね。
てか、それはテレビゲームの話だろ。
そもそも冒険者は勇者とは違うぞ。
こいつレトロゲーのやり過ぎじゃあねえか?
『まあ、あなたは行儀が良い害虫ですけどね』
やっぱり害虫なのは代わらないのね……。
種族間差別だな。
『じゃあ、そろそろ私は身体に戻りますわよ』
おっ、待ってました。
魂が本体への帰還ですね。
これは見逃せないレアイベントですよ。
ドラゴンの魂が二百年ぶりに己の身体に返るんですよ。
ある意味でエロくね?
エロイよね。
はあはあ……。
「いや、エロくはないですよ……」
なんでだよ?
エロイぞ、エロイビックイベントだよ。
興奮とかしないのか?
『ならば何故にあなたの胸が痛みませんの? エロイことを考えると痛むのでしょう』
あー、本当だ~。
全然胸が痛まないってことは、テイアーが意見するようにエロくないってことか?
ドラゴンの魂が身体に戻るのにエロくないなんて……。
残念だ……。
ガッカリだわ~。
「いや、聞いてて意味が分かりませんよ」
じゃあ、さっさと身体に戻れよ。
そしたら、次はベルセルクの爺さんに謁見してくれよな。
「分かりました。それは約束なので果たしましょう」
テイアーの魂が身体に歩み寄って行く。
財宝の山をザックザックと音を鳴らして登って行くのだが、魂も重量があるのかな?
まあ、いいや。
この辺は気分の問題だろうさ。
気分作りの演出だ、演出。
細かいことは気にしない、わかちこわかちこ~。
そして、テイアーの魂は自分の巨大な龍頭に手を当てると何やら呟いた。
一瞬だがテイアーの魂が輝くと、小さな光と変わってドラゴンの体内に吸い込まれて消えて行く。
帰還、いや同化だ。
するとドラゴンの身体が小刻みに震えだした。
グラグラと音を鳴らして首を上げる。
眠たそうな眼がうっすらと開く。
それから大きな欠伸を一つ付いた。
周囲の空気がドラゴンの口内に凄い速度で吸い込まれて行く。
ほら、やっぱりエロイじゃんか。
ドラゴンの寝起きシーンだよ。
官能満点じゃあないか。
『おはよう、アスラン』
「やあ、おはよう、テイアー。数百年ぶりのお目覚めだ。気分はどうだい?」
『ちょっと長い冬眠みたいなもんだったからね。あまり何ともないよ』
そう答えたテイアーのドラゴンボディーが光出すと人型に変形する。
俺が見慣れた貧乳美女に変わったが、以前よりも輪郭がハッキリとしていた。
魂のようなぼやけた感じがない。
幽体のビジュアルと実体があるボディーとの差だろう。
そして、貧乳美女型のテイアーが財宝の山を降りて来る。
すると念力を使って財宝の中から二つの箱を取り出した。
二つの箱が宙を舞って俺の目の前に置かれる。
「なんだ、これは?」
『褒美よ。どちらか一つをあなたにあげますわ』
箱は二つ。
大と小である。
大きいつづらと小さなつづらなのかな?
「褒美をくれるのは嬉しいが、いいのか。俺は三体の英雄アンデッドを倒す条件として、お前さんにベルセルクの爺さんと会ってもらうと言う報酬をもらうんだぞ?」
『ええ、それも引き受けますわ。これは僅かな褒美ですよ。私の気持ちです。要らないなら、下げますが?』
「要ります。じゃあ大きな箱をくださいな」
『何故に大きな箱のほうが欲しいのですか?』
「小さいより大きい物を求めるのは、小さく産まれた生き物の性だ。ドラゴンのように大きく産まれた生き物には、ちょっと理解しずらいかな」
『なるほど、面白いわ。では、中身を受け取りなさい』
ワッヒャー!!
ご褒美だーー!!
お宝だーー!!
『うわ、子供みたいね……』
なんとでも言いやがれ。
冒険者ってヤツは大きくなっても子供なんだよ。
『やっぱり冒険者ってわからないわ』
ワイワイとはしゃぐ俺は大きな箱を開けて中身を確認した。
大箱の中には二枚のカーペットが巻かれて入っていた。
古びた絨毯がロール状に巻かれて綴の中に収納されていたのだ。
しかも、ちょっとカビ臭い。
おそらく長い月日の間、この綴に押し込められていたのだろう。
「なに、このカビ臭い絨毯?」
俺は一枚を取ってその場に広げてみた。
1.5メートル四角形の赤いカーペットには細やかな刺繍の魔方陣がデカデカと描かれている。
「マジックアイテムだな。でも俺よりレベルが高いアイテムだから鑑定ができないぞ。なんなんだ、これは?」
『転送絨毯よ。その二枚の絨毯の魔方陣が互いの上の物を転送してくれるの』
俺は二枚を床に敷いてみた。
瓜二つの絨毯が醸し出すマジックアイテムとしてのオーラとは異なり安物にも見える。
それから俺自らが魔方陣の上に乗った。
しかし、何も起きないな……。
「どうしたら使えるんだ?」
『まずは絨毯に合言葉を登録するの。そして登録した合言葉を述べれば瞬間移動するわ』
「どうやって合言葉を登録すればいいんだ。マニュアルとかないの?」
『それは難しい作業だから、私が登録してあげますわ。好きな合言葉を決めてちょうだいね』
「じゃあ、チ◯コで頼むわ」
『えっ……、本気?』
「うん、マジだよ」
『本気で、いいの?』
「マジでマジだ」
『後悔しない?』
「しないしない」
『じゃあ登録するわよ』
「頼むは」
『本当にいいのね!?』
「ああ、いいから早くやれよ!」
『本当にチ◯コでいいのね!?』
「うぜーよ、いいから登録しろよ!」
『大人になってから後悔しないわね!?』
「諄いぞ、テイアー!!」
『わ、分かったわ。それじゃあチ◯コで登録しますわね』
こうして転送絨毯の合言葉が決まり登録が済んだ。
よし、試しに転送を実体験してみるかな。
「チ◯コ!」
すると俺が瞬間移動した。
もう一つの絨毯の上に一瞬で飛んでいる。
「おお、これは凄いな!」
うむ、かなり便利だぞ。
この一枚を家に置いておけば、もう一枚を使って冒険先から直帰ができるぜ。
んん、待てよ?
そうなると冒険先に絨毯が残るから、また取りに戻らなければならないのか?
えーと、それって結局帰りはちゃんと旅をして帰らないとならないのかな?
んんーー……。
まあ、野宿しなくて済むだけでも、ましなのかな。
うんうん、便利ってことにしておこう。
貰い物に罪はないしね。
俺は転送絨毯を異次元宝物庫に仕舞うと、もう一つの小さな箱をチラ見した。
「ちなみに小さな箱には何が入ってたんだ?」
『惚れ薬のポーションです』
「すみません。このカーペットを即刻返品しますので、そのポーションをくださいな!?」
『それは駄目でしょう……』
俺はしばらく駄々を捏ねたが無駄だった。
一度決めた掟は曲がらないらしい。
流石はドラゴンである。
ヘッドまで堅物だ。
いや、テイアーが頑固なだけかも知れない。
それから俺たち二人は、ユルユルと地上を目指す。
そして地上に近付いたところで通信リング+5を使ってベルセルクの爺さんに報告した。
これからドラゴンの幽霊だったドラゴン本体と一緒に、そちらに向かうと。
ベルセルクの爺さんは、かなり慌てていたな。
何せ、憧れのドラゴンさんとの再会だもの。
そりゃあ、慌てたり、緊張だってするよね。
まあ、そろそろ、この話もクライマックスである。
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