6-22【家族会議】

ああ、眠い……。


何故に閉鎖ダンジョンでセルバンテスと激闘を繰り広げたあとに、こんな陳腐で幼稚な家族会議に参加させられなきゃならんのだ。


しかも俺とパーカーとテイアーの三名は立たされたままだぞ。


マジ疲れてるんだけどよ。


俺やパーカーはベルセルクの坊やからしてみれば下民だからいいけれど、テイアーはドラゴン様だぞ。


本当にそれでいいのか?


無礼で失礼じゃね?


まあ、なんにしろ、眠い……。


そもそも時計がないから今が何時ごろか分からないけれど、周りの空気からして今が深夜なのは間違いないだろう。


ってか、マジで一回寝たいわ……。


そして、詰所から場所を移動した俺たちは城内の君主一家が食事を取る食堂に、ベルセルク坊やの家族たちと一緒に集められていた。


豪華な長テーブルを囲むベルセルク坊やの家族たちも眠たそうだった。


ベオウルフの髭オヤジと奥さんは正装しているが、アルビレオとポラリスは寝巻きのままである。


四人は眠たそうだが、冷静だった。


君主であり一家の長たるベルセルク坊やが6歳の小僧に変貌していてもだ。


ベオウルフの髭オヤジが述べる。


「でぇ、父上が若返ったのは、そこのテイアー殿の秘薬を飲んだからと?」


ベルセルクの坊やが答える。


「そうだ。テイアー殿の秘薬のお陰で若返った」


ベルセルク坊やの椅子の後ろに並んでいるテイアーが真相を語り出す。


『正確には30歳ぐらい寿命を伸ばすつもりで作ってあった秘薬なのですが、効果が安定せずに、今回はこのような結果が出たわけです』


溜め息を一つ吐いた後にベオウルフのオヤジが言った。


「要するに、若返り過ぎたと?」


『はい……』


「要するに、秘薬は失敗作だったと?」


『そうとも言いますね』


「でぇ、父を元通りに戻せるのですか?」


『可能だが、これから秘薬の研究に専念しなければならないでしょう』


「要するに、時間が掛かると?」


『そうとも言いますね』


「いかほどの時間が掛かるのかね?」


『千年あれば足りるかと』


千年か……。


千年も人間が待てるわけがない。


寿命で死んでまうがな。


うん、ナイスなドラゴンジョークだぜ。


絶対に人間には通用しないギャグだけれどもね。


「はぁ~~……」


眉間を摘みながらベオウルフの髭オヤジは深い溜め息をついた。


それから父親に問う。


「事情はわかりました。で、これからどうなさるつもりですか、父上?」


豪華な椅子に腰かけるショタキャラのベルセルクが声変わりしていない幼声で返答する。


「とりあえず、この姿では国民の前に立てないと思うのだ」


「ですね。間違いなく、良からぬ噂が囁かれますな。呪われたなどね」


なるほどね。


呪いか──。


ベオウルフの髭オヤジの言うことは間違いないだろうさ。


平和ボケした国民とは、ネガティブ思想な者が少なくない。


理解できない現象は恐怖する。


そうなれば間違い無く、良からぬ噂の一つや二つは立つだろうさ。


「どうなさいます、父上。これが民に知られたら、パニックが起きますよ?」


「うぬぅ~……」


あらあら、困っているようだから、悪知恵でも注いで見ましょうかね。


俺は「はい!」っとキリッと腕を伸ばして手を上げた。


「何かね、アスランくん?」


「じゃあ、ベルセルクの爺さんは急死したとかにすればいいんじゃあね。以前の年齢ならば、朝起きたらベッドの中で死んでいたとかでも話しは通るだろ」


「なるほどのぉ~……」


おお、真面目に俺の提案を聞き入れてますがな。


ちょっと笑いそうだわ。


堪えないとな。


「ワシを急死させたとして、病名は?」


「年齢からしても、ありふれた心臓麻痺とかの急死で良くね?」


「遺体はどうする?」


「そんなもの、家族葬で良くね? 遺体なんて国民に晒す必要すらないだろう」


「でも、今生きているワシはどうしたらいいんじゃあ。隠れて子供の姿のままヒソヒソと生きろとでも言うのか?」


「ベオウルフの隠し子を、養子にしたとかで良くね?」


ベオウルフの髭オヤジが驚いた。


「ええ! 私の隠し子!?」


「貴族どもなら良くある話だろ」


「まあ、ない話ではないがのぉ……」


ベルセルク坊やが話を戻す。


「君主業務はどうする?」


「ベルセルクの爺さんが死んだんだから、ベオウルフの髭オヤジが継げばいいだろ。その後はベルセルク坊やが養子なんだから、また君主をやれば良くね。そうしたらアルビレオもポラリスも君主を継がなくて良くなるしさ」


全員が顎を摘まんで考え込んだ。


そして、アルビレオが手を上げる。


「僕は賛成します。もともと君主なんてやりたくなかったですし」


続いてポラリスが手を上げて発言する。


「わたくしはアスラン様と結婚させてもらえるなら問題ありません」


こいつは寝ぼけているの!?


結婚なんてしねーよ!!


ポラリスの発言を無視して、ベオウルフの奥さんが手を上げて発言する。


「わたくしは夫が君主になれるなら、お父様を養子に迎えるのは反対しませんわよ」


しかし、ベオウルフが妻に反論する。


「ええ、いいのお前は? だって我々が父上の両親になるんだぞ!? しかも隠し子だよ!?」


「そうね。貴方はお父様の父上になりますね。しかも隠し子を引き取って」


「それって、意味分かんなくないか!?」


「ですが、これでやっと貴方は君主になれるのですよ。しかも事実上はお父様が養子になれば、君主の血筋は絶えないことになるんですよ」


「あ、ああ……、確かにそうだけど……」


うむ。理屈で考えるタイプはベオウルフの髭オヤジだけのようだな。


あとの連中は感情的と言うか、各々の利害と目的が一致しているようだ。


ベルセルクの坊やは、若返ったことで希望にしか満ちてないし、アルビレオとポラリスは君主の後継者から外れることで自分の欲求が叶うと知れて、ゴリゴリの煩欲だけに満ちてやがる。


奥様は夫が君主になれれば良いだけのようだ。


息子や娘に希望を持ってないのだろうか?


てか、子供が幸せに育てばいいのかな?


まあ、混乱しているが、一番常識人のベオウルフを丸め込めば、この詰まらん家族会議も終わるだろう。


俺としては早く終わらせて眠りたいのだ。


何せ馬鹿馬鹿しい。


付き合ってられんぞ。


すると、ベルセルクの坊やが述べる。


「どうだね。このアスランのプランは私としても賛成だ。何せ息子のベオウルフは君主をやりたがっているが、孫のアルビレオは君主を継ぐのを嫌っている。ここはアスラン案に家族全員で合意してみないかね?」


アルビレオとポラリス、それに奥様が手を上げて言う。


「「「賛成~」」」


よしよし、多数決では半数を超えたぞ。


あとはベオウルフの髭オヤジが落ちれば文句なしだな。


よし、もう一押しするか。


「なあ、ベオウルフの髭オヤジ。ここは皆の意見を飲んで20年から30年ぐらい君主に励んでみたらどうだい?」


俺は年月の部分を強調して言った。


このオッサンだって20年や30年も君主をやれれば満足できるだろう。


ベオウルフの髭オヤジは少し考えてから答える。


「分かった、その案に乗ろう。ただし、お前とポラリスの結婚は許さんからな!!」


「誰もそんなこと望んでねーよ!!」


ポラリスが頬を赤らめながらボソリと呟く。


「またこやつは照れおってからに。このツンデレキャラめが」


「誰がツンデレだ!!」


ここまで黙っていたパーカーさんが発言する。


「って、ことは。私とアルビレオ様との結婚は許して頂けるってことですね!」


ベルセルクとベオウルフが声を揃えて突っ込んだ。


「「それは許さんぞ!!」」


まあ、そうだろう。


そもそもボーイズラブ婚って、この国で認められているのかな?


まあ、俺には関係無いけれどさ。


ここでテイアーが恐ろしいアドバイスを入れる。


『ならば、どちらかが女に成れば良いのではないのですか。私のところに女体化薬もありますぞ』


今度はアルビレオとパーカーが声を揃えた。


「「ください!!」」


しかし、ベルセルク坊やが言う。


「その秘薬を飲むのは、勿論パーカーだよな。アルビレオは飲まないよな!?」


「「何故?」」っと二人が首を傾げた。


「だってほら、このテイアー殿の秘薬って危ないぞ。女体化って言いながら、ゴリラに変貌するかも知れんぞ!?」


確かに実体験者が言うと真実味が深いわな……。


「「ゴ、ゴリラ……」」


『うむ。可能性はなくはない』


製作者がそれを言ったら駄目じゃんか……。


アルビレオが戸惑いながら述べる。


「ぼ、僕はパーカーがゴリラに変わっても愛せます!!」


「お、俺は無理かな……」


パーカーさん、正直ね!!


てか、眠いんだから、お前らの恋話まで解決してられねーぞ!!


とにかく、話を進めるか。


「まあ、二人の話は置いといてだ。ベルセルク坊やの案件は、これで解決でいいな?」


渋々だがベオウルフの髭オヤジも頷いた。


これで家族全員が合意したことになる。


大団円である。


『では、ベルセルクを養子に迎えるならば、改名ぐらいしないとならんのではないですか?』


「そうだな~……」


そんなの後で自分で考えろや!!


いつまでも家族会議ごっこをやってられるか!!


俺はもう寝るぞ!!



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