6-3【激熱な拷問】
場所はいつも食事を取る詰所の厨房だった。
俺たち三人は、胸の前で腕を組ながら怖い顔で仁王立ちしている。
俺、パーカーさん、ピイターさんの順に横一列に並んでいた。
ピイターさんは裸エプロンのままだし、パーカーさんは全裸のままである。
俺たち三人は、スパイダーさんを椅子に縛り付けながら、彼の前で厳つくも腕を組み、忌々しい表情で拘束された間抜け男を睨み付けていた。
スパイダーさんは猿轡をされて喋れないでいる。
表情も怯えて若干ながら震えていた。
パーカーさんがスパイダーさんの顔に強面を近付けて言う。
「スパイダー、良く聞けよ。イエスなら首を縦に振れ。ノーなら首を横に振れ、いいな?」
怯える素振りのスパイダーさんが首を縦に数度振った。
どうやらチャラ男も理解したようだ。
「じゃあ、質問に入るぞ」
パーカーさんが顔を離して問うとスパイダーさんが頷く。
「お前、さっき俺らが演劇の練習中に、サラリと舐めたことを言ったよな」
スパイダーさんは何が言いたいのか分からずに首を傾げた。
「忘れたかい。そうか、忘れたか……。ピイター、お前は覚えているよな?」
「イエッサー!」
「よーし、じゃあさっきスパイダーが何気無く言った言葉を反芻してみろ!」
ピイターさんがスパイダーさんの物真似をしながら述べる。
「俺、メイドのアンナと付き合ってるっスから~。っと述べてました!」
「「「ギロリッ!!」」」
俺たち三人が、怒りの眼差しでスパイダーさんを睨み付ける。
その眼差しには嫉妬が燃料と化してメラメラと燃え上がっていた。
「これはどう言う意味だ。なんでお前だけ彼女ができてる!?」
「そうですよ~、スパイダーさ~ん。僕やパーカーさんに長年彼女が出来なくて寂しい想いをしているのにさ~!」
俺も八つ当たりのように怒鳴る。
「俺なんて呪いに掛かってるから、エロイことも出来ないんだぞ! 想像すら禁止されてるんだぞ! エロイ行為を働いたら死ぬんだぞ!
なのになのに、なぁ~のぉ~にぃ~~! 貴様だけ……」
「「えっ、マジで!?」」
パーカーさんとピイターさんが驚いて、真横に立つ俺を見た。
「あれ、言ってなかったっけ?」
「うん、初耳……」
「俺、呪われた冒険者アスランですから!」
「それでか……。アスランくんは女の子と遊べないんだ……?」
「そうそう、だってエロイことをしようとすると、心臓が爆発しそうになるんだもの」
「それは残酷な呪いだな……」
「困った呪いですね~……」
「なるほど、デブな彼女でも幸せなスパイダーが妬ましいわけだな」
「そうなんですわ~」
「よし、では、質問に戻るぞ、スパイダー!」
パーカーさんの矛先が椅子に縛り付けられているスパイダーさんに戻った。
「お前、彼女と夜な夜なやってるんか?」
遠慮のないドストレートな質問だった。
その質問にスパイダーさんが首を縦に何度も振るった。
答えはYesだ。
やってやがる!!
「「「イラっ!」」」
俺たち三人の額に怒りと嫉妬の血管が浮き上がる。
それが稲妻のように顔全体に走り広がった。
更にパーカーさんの質問が続いた。
「お前はアンナと結婚するつもりなのか?」
再びスパイダーさんが首を縦に何度も振るった。
またまた答えはYesだ。
婚約済みなの!?
「「「イライラっ!!!」」」
俺たち三人の顔面に、浮き上がった血管の数が更に増えた。
もう真っ赤なメロン状態である。
三人は歯を食い縛り引きつっていた。
我慢もそろそろ限界だろう。
完全に憤怒が露になっていた。
別にスパイダーさんがアンナをゲットしたことが羨ましいのではないのだ。
あのような肥満デブが彼女なんて羨ましくもない。
ないが───。
彼女が出来たって言う事実が羨ましいのだ。
ただ他人の幸せが、悔しくも妬ましいのだ。
デブ専野郎だけが幸せになるのが妬ましいのだ。
「なあ、スパイダー……」
言いながらパーカーさんが振り返る。
パーカーさんはスパイだーさんに尻を向けて天井を見上げながら言う。
クールに振る舞おうとしていたが、肩が小刻みに震えていた。
怒りは冷めてはいない。
「この詰所の決まりは知っているよな」
スパイダーさんが静かに頷く。
なんだろう、俺は知らないぞ?
「この詰所は独身専門の職場だ。結婚したら、詰所を離れて別の勤務に付かなければならない。分かっているよな?」
スパイダーさんはコクリと頷いた。
なるほどね。
スパイダーさんがアンナと結婚したら、この詰所から出て行くのか。
「お前は、ここで一番の後輩であり、一番の年下だ。なのに先輩や目上を差し置いて結婚して出て行くのかね?」
パーカーさんは少しだけ体を動かして背後を確認していた。
スパイダーさんの顔色を窺っている様子である。
そのパーカーさんを見詰めながらスパイダーさんは強く頷く。
「はぁ~、仕方がないか……。ピイター、アスラン。彼のズボンを下ろせ!」
「「イエッサー!」」
「んっんっんっ!!!」
俺とピイターさんは、激しく抵抗するスパイダーさんのベルトを外すと、履いていたズボンを足首まで下ろした。
全裸のパーカーさんが踵を返して前を向く。
「もう一度訊くぞ、スパイダー?」
半裸状態のスパイダーさんは怯えながら全裸男性を見詰めていた。
「お前は、本当にアンナと結婚するつもりなのか?」
スパイダーさんが何度か頷いた。
「仕方ない、ピイター」
「はい、なんでありましょう。パーカー隊長!」
「グツグツに煮込んだコーンスープをここに持て……」
「は、はい……」
裸エプロンのピイターさんがグツグツに沸騰しているコーンスープの鍋を差し出すと、木のお玉をパーカーさんに手渡した。
パーカーさんはグツグツの鍋をお玉で掻き回しながら問う。
「俺たち先輩が結婚も出来ないで、こんな隅っこで燻っているのに、お前は本当に結婚して先に出て行くのかね?」
もう脅しである。
しかし、怯えるスパイダーさんが一つ頷いた。
どうやら脅されてもアンナとの結婚は諦めないようだ。
するとパーカーさんがお玉で掬ったコーンスープをスパイダーさんの太股の上に持って来る。
パーカーさんは満面の笑顔で言う。
「そうかそうか~」
言いながらパーカーさんは、熱々グツグツのコーンスープを一滴だけスパイダーさんの太股に垂らした。
「んんーーーーーッ!!!」
絶叫するスパイダーさんが椅子の上でバタバタと跳ねた。
そりゃあ一滴でも熱かろう。
あのコーンスープは沸騰してたから100度はあるだろうからな。
「なあ──」
お玉を持ったままのパーカーさんがもう一度スパイダーさんに問う。
「本当にお前はアンナと結婚したいのか?」
スパイダーさんは鼻息を荒くしながら頷いた。
「そうか……。たらぁ~~ん」
再びコーンスープが垂らされる。
「んんんんッんんんんッ!!!!」
椅子に縛られたスパイダーさんがバタバタと暴れた。
もう顔は汗だくで涙目である。
鼻水も垂らしていたし、少しチビっているようだ。
椅子が少し濡れている。
「なあ、スパイダー。次はチンチロリンに直接熱々のコーンスープをかけちゃうぞ」
スパイダーさんは必死に首を左右に振っていた。
それは辞めてくれと仕草だけで懇願している動き。
もう、そろそろ心が折れても可笑しくないころだろう。
チンチロリンが激熱コーンスープで味付けされたら使用不能になりかねない。
それは男としては最悪の恐怖である。
俺なら想像すらしたくない。
「これが三度目の問いだ。お前は本当にアンナと結婚するんだな」
汗だく汁だく状態のスパイダーさんは、それでも必死に頷いた。
ああ、この人は本当にあのおデブちゃんを愛しているんだなって思えたわ
本物のデブ専だ。
だが、そんなの俺たちには関係無い!
「そうか……」
ここまで来てパーカーさんがコーンスープを掬っていたお玉を鍋に戻した。
そしてお玉をピイターさんに返す。
「だ、そうだぞ」
言いながら全裸のパーカーさんは部屋の出入り口に向かって歩いていった。
そして、扉を開く。
そこにはデブなメイドさんが一人ポツンと立っていた。
アンナだ。
表情は唖然としている。
初めて見るけどアンナだと分かったぜ。
だってかなりのおデブちゃんなんだもの。
絶対にレスリングが強いよね、この女性ならばさ。
「うわぁ~~ん。スパイダー!!」
アンナは泣きじゃくりながら椅子に縛られたスパイダーさんに抱きついた。
その光景を見ながらパーカーさんとピイターさんが笑顔で述べる。
「「スパイダー、アンナ。結婚おめでとう!」」
なに、祝いの言葉ですか?
えっ、ドッキリ?
全部仕組まれたドッキリ劇場ですか!?
なんだよ、これ……。
茶番じゃあねえか!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます