6-4【木刀の対決】

全裸のパーカーさんが舞い上がるアンナに対して強めの口調で言った。


「お前、そろそろ帰ろよな……」


「嫌よ、私はスパイダーさんと一緒に、今日と言う幸福な一晩を過ごすのよ!」


「んっんんんんッ!!!」


パーカーさんとアンナ、それにスパイダーさんが厨房で揉めていた。


あれから一時間ぐらい過ぎているが、未だにスパイダーさんは椅子に縛られたまま口は猿轡されているし、パーカーさんは全裸のままだ。


なんだかアンナは縛られているスパイダーにベタベタしながらパーカーさんと言い争っている。


「ここは女禁制の職場だぞ、デブは帰れよ!」


「嘘を言わないでよ、そんな話は聞いたことがないわよ!」


「今日から女禁なんだよ。あとデブも禁止だ!」


「デブは関係ないでしょう!?」


「いいよ、もうスパイダーを連れてっていいからさ、はよ帰れよ!」


「スパイダーさんはまだ勤務中なんだから帰れないの。だから今日は休みの私がスパイダーさんに付き合うのよ!」


「休みのヤツは家に帰れよ! こっちは仕事中なんだからよ!!」


全裸のパーカーさんとモッチリなアンナが口喧嘩を続けているとピイターさんが食器を洗いながら呟く。


「パーカーさんも今日は休みなのにね~」


あー、そうなんだ。


この人は家に帰りたくない派なのね。


俺のクラスの担任も、時々家に帰りたくないとか生徒に愚痴ってたっけな。


なんか家で嫌なことでもあるのだろうか?


俺ならさっさと家に帰ってベッドの上でぐーたらしていたいのにさ。


だから俺には家に帰りたくない大人の気持ちなんぞ微塵も理解できない。


俺はピーナッツに塩を振っただけの摘まみを食べながら皆の様子を眺めていた。


面白いな~、っと考えながらだ。


すると廊下からドタドタと地鳴りが響くとポラリスが怒鳴り込んで来た。


「また五月蝿いのが来やがったぞ」


「ちょっとアスランさまはいらっしゃいますか!?」


俺はピーナッツの皿を持ってテーブルの下に隠れた。


しかし、アッサリと裏切るピイターさんが俺の居場所を暴露する。


「アスランくんならテーブルの下でピーナッツを食べてるよ~」


「ここにいらっしゃいますのね!」


するとポラリスがテーブルの下に潜り込んで来る。


ポラリスは俺と一緒にテーブルの下に立て籠った。


「な、なんだよ……」


「ちょっとわたくしにもピーナッツをくださいませ」


「お、おう……」


ポラリスはスケールメイルを着込んでいる。


早朝の謁見室のように鮮やかなドレスではなかった。


俺たち二人はテーブルの下でピーナッツをポリポリと摘まんで食べた。


しばらくしてから俺が問う。


「何か用かよ?」


「あ、そうだったわ。貴方に勝負を申し込みたいのじゃ」


「なんでだよ?」


「私が勝ったら結婚してもらうからよ」


「お前は馬鹿か?」


「お父様にも同じことを言われましたわ」


「そりゃあ言われるわな……」


「もっとピーナッツはないの?」


「ピイターさん、ピーナッツのおかわりをくださいな」


俺がテーブルの下から腕を出しておかわりを求めると、ピイターさんが無言で皿にピーナッツを入れてくれた。


俺は皿をテーブルの下に引っ込めるとポラリスに言う。


「大体俺になんの得が有るんだよ、お前と勝負してよ?」


「わたくしが貴方に勝ったら結婚してもらいますわ!」


「じゃあ、俺が勝ったら?」


「仕方ないのでわたくしが貴方と結婚してあげますわ!」


「どっちに転んでも結婚じゃあねえかよ!?」


「あら、そうね。ってことは、これは運命なのかしら?」


「お・ま・え・は・ば・か・かっ!」


俺は七回ほどポラリスの壊れた頭を指で突っついてやった。


「いいから勝負しなさい!」


「俺が勝ったら諦めるならいいぞ~」


「分かったわ!」


ムシャムシャ……。


俺とポラリスはピーナッツを食べ終わってからテーブルの下から出て裏庭に移動した。


俺たち二人に連なって他のメンバーも観戦に出て来る。


しかし未だにパーカーさんは全裸だし、スパイダーさんは椅子に縛られたまま猿轡も外されていない。


それに今度はアンナがピーナッツを食べていやがる。


しかも一口を鷲掴みした量で頬張るのだ。


だから太るんだよ。


俺は鼻をホジリながらポラリスに問う。


「でぇ~、ルールは?」


「木刀での一本勝負よ!」


「木刀でも人は殺せるから早めにギブアップしろよな~」


「分かったわ!」


そう元気に返事をしたポラリスが手を叩くと、何処からともなくメイド二人が二本の木刀を持って来る。


一本は長く、一本は短い。


「俺は小刀でいいぞ。お前は大刀を使えよ」


「有り難うございますわ」


「ハンデだよ、ハンデ」


俺は短い木刀をメイドから受け取ると、軽く何度か振るった。


まあ、ポラリスぐらいなら小刀で十分だろう。


いざとなったら魔法でも何でも使って勝ってやるぞ。


だって魔法は禁止されていないもんね~だ。


卑怯とでも何とでも言いやがれってんだ。


勝利こそが正義なのだよ!


くっくっくっ~。


俺が心中で嘲笑っていると、長い木刀を持ったメイドがポラリスに木刀を渡さずに走り去って行く。


あれ、なんでポラリスに木刀を渡さないんだ?


俺が疑問に思っていると、2メートルの丸太を四人のメイドたちがワッセワッセと背負って運んで来た。


その丸太をポラリスに手渡す。


「えっ……?」


ポラリスは受け取った丸太を軽々と片手で持ち上げるとブルンブルンと豪快に振るった。


丸太に煽られた微風が俺の前髪を激しく揺らす。


「えぇ………」


「よし、なかなかのサイズじゃの!」


「あのぉ~、ポラリスの武器は、それなの?」


「ええ、木刀で勝負だからのぉ」


「おいおいおい、それはもう木刀ちゃいますがな、丸太ですがな!!」


「えっ、それが?」


小首を傾げながら可愛らしく惚けるポラリスがムカついた。


しかし、短い木刀対丸太の勝負だ。


間合いも破壊力も天地の差だろう。


有り得ないわ。


「マジで、それでやるの。俺を殺す気か!?」


「大丈夫じゃぞ。死なない程度に手加減は出来るかも知れないからのぉ!」


「元気に不透明なことを抜かすなよ!!」


「なに、怖じけづいたのかえ?」


「い、いや~……」


「なんならわたくしの不戦勝でも構わぬぞ。勝ちなら譲られてやる」


「抜かせよ、この馬鹿プリンセスが!」


こうなったら剣技で戦ってなんてやらんぞ。


今日は冒険に出ないと決めているんだ。


奮発しまくりで魔法を乱射してやるがな。


それで難なく決着だぜ。


丸太に対して魔法攻撃だ。


うん、妥当な攻め手である。


「分かったよ。じゃあピイターさん、開始の合図を頼むわ」


「ああ、了解だよ~、アスランく~ん」


俺とポラリスが向かい合う。


まだポラリスの丸太が届かない距離だ。


あの丸太が届くには五歩か六歩は進まなければならない。


それだけの時間があれば魔法で決着がつけられるはずだ。


だから俺には負けは無い!


そして、ピイターさんがゆっくりと手を上げた。


腕を振り下ろせば始まりだ。


「始め!!」


ピイターさんが腕を振り下ろした。


俺は即座に魔法を放つ。


「マジックアロー!!」


「クスッ」


えっ!?


ポラリスが嫌らしく微笑むと魔法の矢が大きく逸れて背後に飛んで行く。


狙いを外すだと!?


レジストされたのか!?


いや、違うな!?


マジックアイテムか!?


魔法の効果で魔法攻撃を無効かされたのか!?


勝ち誇るように微笑みながらポラリスが述べた。


「わたくしは税金泥棒ですの。これも財力の力ですわ」


「マジックアイテムかぁ……」


「ご・め・い・と・うッ!」


「ズルイぞ!」


「当然の戦略ですわ!」


「そんな人の揚げ足を取るような戦略を認めるか!」


「うりゃ!」


ポラリスの豪腕で丸太の横振り攻撃が飛んで来た。


俺はしゃがんで躱す。


ブルンと音を唸らせながら俺の頭上を猛スピードで丸太が過ぎて行った。


こーえーー!!


頭を狙ってきやがった!!


「こんなの頭に直撃したらスイカのようにグチャグチャに砕けてまうわ!」


「ふんッ!!」


直ぐさまポラリスが丸太を切り返した。


俺は戻って来た丸太を今度はジャンプで躱す。


しかし、三度目の素早い切り返し。


三往復目の丸太は、まだ俺がジャンプから着地する前に戻って来た。


俺は着地と同時に丸太を頭に食らってしまう。


ゴンっ!


「げふっ!!!」


凄まじい衝撃に俺の体がグルリと一回転半した。


俺は着地したばかりの大地に頭から激突してしまう。


丸太で強打された衝撃と、地面に激突した衝撃の二つに俺の意識がとこか遠くにふっ飛んで行った。


「やったー!!」


動かなくなった俺を見てポラリスがガッツポーズを取ってはしゃいでいやがった。


この野郎が!!


俺を気絶まで追い込んで何を喜んでいやがる!!


俺は意識を失ってるんだぞ!!


えっ……?


なんで気を失っている俺が気を失っている俺を見ているんだ?


どういうこと?


なにこれ?


あれれれれれ???





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る