6-2【激熱スープ】

俺はワイズマンの母ちゃんが経営していたマジックアイテム屋さんを出て城に帰った。


──に、してもだ。


意外だったな。


ワイズマンの母ちゃんが、あんな店をやっていたなんてさ。


どういうカラクリだろう。


年齢の計算が出来ない……。


年齢が可笑しすぎる。


でも、俺なんかが名探偵ぶって、謎を解明する必要はないだろうさ。


とにかく、名推理なんて俺の遣り方じゃあないね。


ってか、そんな威張れるほどに知恵もないしな。


悪巧みは得意だが学校の成績は、ほどほどなんだよね。


まあ、今度にでも訊いてみるさ、ワイズマン本人によ。


そんなことを考えながら城内を歩いて裏庭の詰所に俺が帰ると、裸エプロン姿のピイターさんが昼食を作って待っててくれた。


俺がパーカーさんやスパイダーさんと一緒のテーブル席に付くと、裸エプロン姿のピイターさんがルンルン気分で昼食を運んで来る。


食事を運びながらスキップまで弾ませていた。


いつも以上にルンルンだな……。


「はぁ~い、皆さ~ん、お待たせしました~。今日の昼食はパンとサラダとコーンスープですよ~」


「有り難う、ピイター。いつも済まないな」


パーカーさんが裸エプロン姿のピイターさんに感謝する。


そう言えば、いつも料理を作ってるのはピイターさんばかりだな?


何故だろう?


「ところで、パーカーさん、ピイターさん。なんでいつもピイターさんばかりが料理を作っているんだ。交代とかじゃあないのか?」


俺の質問に裸エプロン姿のまま席に付いたピイターさんが答える。


「それは僕が三人の中で一番料理が得意だからだよ~、アスランくん~」


「あ~、確かにピイターさんの料理は旨いな~」


「有り難う、アスランく~ん。誉めてもらえると、僕も嬉しいよ~」


ピイターさんは裸エプロンの前で両手の指を絡めながらモジモジと照れていた。


まあ、そろそろ突っ込むか。


「ところでピイターさん」


「なんだ~い、アスランく~ん?」


「なんで、裸エプロンなん?」


素朴な疑問だった。


何故にいい歳の野郎が可愛らしいフリフリで飾られたエプロンを裸に纏っているかが分からない。


しかし、誰もピイターさんの裸エプロン姿を見ても突っ込まないから、俺は皆が見えていないのかと自分の目を疑ったぐらいなのだ。


これは、仕方ないので訊くしかないだろう。


だが、ピイターさんは微笑みながら昼食を取り続けて答えない。


他の二人も黙ったまま飯を食べている。


しばらく我々四人は黙ったまま昼食を取り続けた。


まずったかな?


訊いてはならなかったかな?


まあ、答えてもらわなくても構わんだろう。


今日は午前中だけで、いろいろあったのだ。


全裸で拘束されたり、リックディアスに再会したり、ワイズマンの母ちゃんに出会ったりとだ。


もう、盛り沢山な午前中だったのだから、凄くお腹一杯なのだ。


これ以上の珍エピソードは沢山である。


しかし、時間差でピイターさんがボソリと答えた。


「実は、僕ね……」


あー、なんか嫌な感じの切り出しかただな……。


口調が暗いよ。


「好きな人が居るんだ……」


うわぁ~……。


めっちゃ暗い顔で言いやがったよ。


やぁ~な感じ~。


でも、恋話?


てか、裸エプロンとは関係ないだろ?


「でえ~、ピイターさん、誰を好きなんスか?」


スパイダーの馬鹿野郎、訊くなよ!!


流せよ!!


スルーしろよ!!


こんな話はドブに流しちまえよ!!


この話を進めたら、泥沼に踏み込むぞ!!


「実を言いますと……」


答えるなピイターさん!!


馬鹿野郎の問いに答えなくっていいからさ!!


「実は僕ね~。パーカーさんが好きなんだ~!!」


あー、そう来ましたかぁ~。


そっちに振りましたか~。


あれ~、パーカーさんが思ったより冷静だな?


静かですよ?


淡々とスープをスプーンで啜ってやがる。


衝撃を受けませんか、パーカーさん?


するとパーカーさんが静かにスプーンをテーブルに置いた。


「ピイター、お前まさか──」


あれ、パーカーさんも真面目に答えますか?


なに、この茶番劇?


「お前、まさか。あの晩のことを本気にしているのか?」


えっ、あの晩ってなんだよ?


どの晩ですか?


「当たり前じゃあないですか~、パーカーさ~ん!」


えっ、なに、どういうこと?


このまま話が進むのですか?


「あの晩のことは忘れてくれ、遊びだったんだよ……」


遊びだと!?


なに、どんなことして遊んだのさ!?


すげー、興味有るわ!?


「ひ、酷いよパーカーさ~ん。あの晩の激しさは嘘だったのかい~!?」


「ああっ、嘘だよ。遊びだって言ってるだろ!」


うわ~、俺とスパイダーさんが置き去りだわ。


すげー置き去りだわ~。


「あんなに激しかったのに~!!」


「馬鹿野郎が。激しいから遊びなんだよ。本気だったら、もっと優しくするだろう!」


「ひっ、酷い!!」


ちょっと待ってくれ、どこまで二人で突っ走るんですか!?


マッハの速度で独走してますよ!!


もう追い付けませんよ!!


今日はいろんな人々に追い付けない日々だわ!?


「ちょっと待ってくださいな、二人とも。恋愛話なら飯の後にしてもらえねっスか。まずは美味しく御飯を食べましょ~ぜ~」


なにこの馬鹿スパイダー!?


この修羅場で何を言ってるんだよ!?


空気読め!!


馬鹿は黙ってろよ!!


「黙ってろ、この脳タリンが!!」


パーカーさんがスパイダーさんの襟首を掴んで引き寄せた。


そのままガンをくれる。


「俺はお前のために言ってるんだぞ!」


「へっ……?」


「俺が好きなのは、スパイダー、お前なんだぞ!!」


「マジっスか……」


パーカーさんかスパイダーさんを好いてるの?


でも、ピイターさんはパーカーさんを好きで……。


じゃあ、スパイダーさんは……?


なになに、これ、三角関係かよ!?


えっ、マジで大暴走じゃあねえの!?


どこまで行くのさ!!


「いや、でも、俺はパーカーさんのこと何とも思ってないっスよ……」


「分かった。そこまで言うなら、今晩を俺と過ごそう。ベッドの中で再教育してやるぞ!」


「いやいやいや、結構っスよ。俺、彼女が居るっスから」


「な、なんだって……!?」


「俺、メイドのアンナと、付き合ってますから~」


「「「マジで!?」」」


「マジマジっス。もう付き合い始めてから、半年ぐらい経ってるっスよ」


「う、嘘だろ……」


パーカーさんが、膝から崩れ落ちたわ。


そんなにショックでしたか。


すると裸エプロン姿のピイターさんが、両膝を付いて崩れているパーカーさんに背後から抱きついた。


「パーカーさん、僕が慰めてあげます~。僕になら、何をしても構いませんよ~」


あー、そろそろこの茶番も終わりかな。


良かったは、終わりが見え始めてさ。


「だまれ、この売女!!」


「きゃ!!」


「お前みたいな汚らしい女が俺を慰めるだと。舐めるなよ!!」


「ひ、酷い!!」


えー、まだ続くの~。


もう飽きたわ~。スパイダーさん、助けてよ~。


あー、駄目だ。


スパイダーさんも鼻糞ホジってるよ。


俺、部屋に帰ろっかな~。


それともこの際だから閉鎖ダンジョンにでも入ろっかな~。


「ピイターさん、スープのおかわりいいっスか」


「あ、はいは~い。ちょっと待ってくださいね~。スパイダーさ~ん」


えっ、なにそこは普通に対応するんだ。


おいおい、そんなこんなしている間にパーカーさんが脱ぎだしたぞ!?


なんで脱ぐん!?


しかも何故、全裸になるん!?


「ピイター、ならば慰めてもらおうか!!」


いやいや、さっきと言ってることが違うじゃんか!?


「分かったよ~、パーカーさ~ん。これでも食らえ~!!」


「アチッ! アチッ!」


うわー、ピイターさんが激熱スープをお玉で飛ばし始めましたぞ!?


裸のパーカーさんが汁を掛けられて絶叫している。


もうマジで、何がなんだか分かんねえよ!?


「あー、食った食った~。腹一杯っスわ」


何を落ち着いて食い終わってるんだよ、スパイダーさん!?


そして、驚愕する俺の目線を感じ取ったスパイダーさんが言う。


「あ、これ、今度やる演劇の練習っス。気にしないでいいっスよ」


「演劇って……」


「アチッ! アチッ! 馬鹿野郎、マジで汁をかけるなよ!!」


「ぴっ、ぴっ」


「アチッ! アチッ!!」


激熱スープをかける演劇ってなんだよ?


聞いたことねぇよ……。


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