第六章【閉鎖ダンジョン後編】

6-1【謎の店】

うぁ~~、疲れた……。


もう朝からゲッソリだわ……。


結局南極大冒険的に六日目の朝を過ごしていますわ。


あのこそ泥野郎リックディアスに逃げられるしよ。


二時間も走り続けて追っ掛けた挙げ句、結局逃げられただとさ……。


もう、すげーたまらんな。


最悪だぜ……。


なんか町の反対側まで走ってきたしよ。


それにしてもだ──。


なんだか貧富が激しい街だな。


ここは貧民街か?


すげーボロ屋が多いぞ。


どこの町にもあるんだな、こんな場所ってよ。


恐らくこんな遠くまで誘導されたってことは、リックディアスの野郎は今ごろ宿屋に帰って荷物を纏めてバックレてるころだろうしよ。


たぶん町を出ただろうな。


もう、あいつには出合わないかな?


まあ、もういいけれど──。


どうせ取られた物が帰って来るなんて甘いことを考えてなかったしさ。


さて、城にでも帰ろうかな。


それとも、まだちょっと昼飯には早いから、どこかで遊んで帰ろうかな?


でも、遊ぶって何処で何をしたらいいか分からんし……。


俺ってこの異世界に転生してから冒険しかしてないよな。


この異世界で遊び方も知らないや。


そもそもさ~、酒は飲めない、女遊びも出来ない。


あと博打ぐらいだろうけど、あまり賭け事は趣味じゃあないしな。


そう言えばお金の使い道も分からないや。


冒険以外は食っちゃ寝ばかりだもんな~……。


お金も稼ぐが使わないから貯まる一方だしさ。


なんか新しい趣味を見付けようかな~。


ラノベ、ゲーム?


どちらもないしな~。


ならば、自分で作る?


無理無理無理の無理って感じだわ。


官能小説なら書けるかも?


しかも需要はめっちゃありそうだしさ──。


そんなこんなを考えながら歩いていると、露店が並ぶ賑やかな通りに出た。


さほど広い道でもないのに人の通りが激しい場所だった。


混んでるし賑わってるな。


バザールでござ~るって感じである。


なんか珍しい物でも売ってないかな。


スバルちゃんやスカル姉さんにお見上げでも買っていくってのも悪くないだろう。


ちょっと見て回ろうか。


露店に並ぶのは食料、食器、衣類、日用品、ほとんど売られている物は私生活用品ばかりだ。


別に珍しい物は見当たらない。


スカル姉さんは宝石とか好きそうだからと思ったが、流石に宝石の露店までは見当たらなかった。


スバルちゃんにはどんなお見上げが良いだろうか?


スバルちゃんなら、なにで喜んでくれるのだろう?


趣味とか分からんしな……。


まあ、適当な置物でも構わんだろ。


熊が鮭を取っているような木彫りの置物とか売ってないかな?


こけしでもいいや。


それともなんか珍しい置物とかないかな~。


掘り出し物か~。


ちょっくら魔力感知でマジックアイテムでも探してみるか。


ん?


なんだ?


あの通りから魔力の空気が大量に流れ出てるぞ?


行ってみるか。


そこは細い道だった。


四階建ての建物に挟まれた細い道は、人が一人やっと通れそうな裏路地である。


この細い道から魔力が流れ出ていた。


俺は恐る恐る薄暗い細道に入って行く。


細道は15メートルほどで行き止まりとなる。


その行き止まりには古びた扉があった。


その古びた扉の隙間から魔力が溢れ出ていた。


扉の上には看板がある。


俺は声に出して店の名前を読み上げた。


「選ばれし者たちの魔道器堂……。気取った店名だな。ダサ」


俺が店の名前を読み上げると扉が僅かに開いた。


鼓膜の奥にカチャリと音が届く。


とても深い音だった。


心にフック付きの違和感がカッツリと引っ掛かったような重みを感じる。


なんだか怪しげな店だな。


これは入れと言っているのかな?


ならば入ってやろうじゃあないか。


そして俺が扉のノブに手を伸ばすと、扉が素早く引かれてバタンと閉まる。


「なんで!?」


俺はノブに手を伸ばして引いてみるが、扉はビクともしない。


なに、やっぱり入るなと?


「じゃあ、いいよ~だ」


俺は悪態を吐いてから踵を返す。


すると背後からカチャリと再び扉が開く音が聴こえた。


再び扉が僅かに開いたのだ。


俺の足が止まる。


「畜生……」


俺は深呼吸をしたのちに、スピーディーに振り返るとドアノブに手を伸ばした。


だが、俺がドアノブに触れるよりも速く扉が閉まる。


「こんにゃろう!」


俺がガチャガチャとドアノブを捻りながら何度も何度も乱暴で強引に引くが扉は開かない。


固く閉ざしたままである。


「なーーろーー!!」


おちょくられているのか!?


俺はおちょくられているよね!?


落ち着け!


そうだ、落ち着こう……。


別にこの店に入りたいわけではないのだ。


無理して入らなくていいんだ。


無視無視の無視だ──。


「ふぅ~~」


俺は溜め息を吐きながら踵を返した。


すると再び背後から扉が開く音が聴こえた。


カチャリと……。


「俺、おちょくられてるな……」


やっぱり無視なんて出来ない。


おちょくられていると分かれば尚更だ。


「糞っ」


俺は背中に背負っていたバトルアックスを手に取った。


そして、扉に告げるかのように、俺の意思を言葉に出した。


「その古びた扉ごと、ぶち破ってやるぞ!」


決めたぞ。


もう、今日は冒険に出ない。


ならばスキルを使ってでも、カッコ良く豪快に扉をぶち破ってやるぞ。


俺は振り返るとバトルアックスを頭上に振りかぶっていた。


すると扉がバタンと閉まる。


「食らえ、ヘルムクラッシャー!!」


全力で扉を打ち破ってやる!


「りぃぃぁああああ!!!」


俺が力一杯にバトルアックスを振るうと扉が全開した。


「ええっ!?」


俺はバトルアックスを空振りながらよろめくと、店内に転がり込む。


「おっとっと……」


来店できた?


俺は薄暗い店内を見渡す。


凄く狭い店だった。


5×10メートル程度のスペースで、両壁にはいろいろな物が置かれた棚があり、何だか怪しげな物品が並んでいた。


武器、防具、置物と、いろいろだ。


そして、正面の小さなカウンターには萎れた老婆が一人、しょんぼりと腰かけていた。


皺だらけで矮躯な老婆である。


そして、老婆が掠れた声で言う。


「空気の入れ替えをしていたのに、変な坊やが入って来たよ。困ったもんだねぇ」


扉の開け閉めは、空気の入れ替え中だったのか?


舐めんなよ!


それよりなんだ、この婆さんは……。


魔力感知をして見れば、店内に並ぶ品物すべてがマジックアイテムじゃあねえかよ。


この婆さんは、何者なんだ?


「ここは会員制度のお店だよ。あんたは何も買えないし売れないわよ」


買えない、売れない?


それよりもだ。


まるで挑まれたかのようだぜ。


喧嘩を売ってる?


俺が見ため通りの貧乏人だと思っていやがるな。


俺は結構稼いでいるぞ!


決して貧乏人ではないのだ。


ならば俺は婆からマウントを取るために全力で会員になるのみだな。


「どうやったら、会員になれるんだ?」


「この店は潜りのマジックアイテム屋だよ。だから会員になりたくば試験があるわねぇ」


「試験か、なら受けよう。で、どんな試験だ?」


「なあに、簡単さ。マジックアイテムを持ってきなされ、+3以上のね」


「+3以上の?」


「そう、無理かしら。そりゃあ無理でしょうとも、何せ+3のマジックアイテムなんて、レア中のレアですものねぇ。ほっほっほっ」


なんだか婆さんは、高飛車に言いやがるな。


それが異様にムカつくぞ。


でも、+3か……。


一つだけ、あるにはあるな。


俺は左腕のプレートメイルを外してカウンターの上に置いた。


【プレートメイルの左腕+3】

耐火向上。魔法耐久向上。体術向上。


「今現在持っている+3はこれだけだがよ、如何かな?」


「へぇ~……」


婆さんは俺が置いたプレートメイルの左腕を手に取ると、細かった目を見開いて眺めた。


「こ、これは、何処で……?」


なんか驚いているな?


じゃあ、自慢げに述べてやるか。


「閉鎖ダンジョンで空手を使うアンデッドから貰った物だ」


「か、空手だと……」


「そうだ。あれは空手だったぞ」


「ほ、ほかのパーツは、どうなされた!?」


「フルプレートの他は、全部大玉鉄球に潰されたわ。残ってたのは腕だけだ」


「そうかえ……」


婆はプレートメイルの左腕をカウンターに置くと俺のほうに差し戻した。


「これは昔おった、ゴンザレスって言う武闘家の甲冑だよぉ。50年ほど前に閉鎖ダンジョンに挑んで以来、帰って来なかったがのぉ……」


「へぇ~。で、試験は合格なのか?」


「ゴンザレスの代わりに合格だよ。彼もここの常連だったからのぉ」


そう言いながら婆さんは、プレートメイルの上に、一枚のプレートネックレスを置いた。


この町に来た際に、ベルセルクの爺さんから貰った貴族のプレートにも似ていた。


しかも、これにも何やら魔法の文字が刻まれている。


「会員証だよ。ただしこの店は高額だから、気を付けなはれや。破産しなはるなぁよ」


「見て回っていいか?」


「どうぞどうぞ……」


俺はフルプレートの左腕を装着すると店内を見て回った。


棚に並ぶ商品をすべてアイテム鑑定をしてみると、ほとんどが+3のマジックアイテムばかりだった。


しかも、どれもこれも使える能力のマジックアイテムばかりだ。


しかし、一つあたりの値段は10000Gを越えている。


使えそうなマジックアイテムは、30000Gから50000Gばかりだ。


高価な物は100000Gとかもある。


「たけーなー……」


でも、なんだろう。


ちょっと冷めちゃうな。


良い店だが、俺は自分で拾ったマジックアイテムしか使わないって決めてるんだよね。


じゃないと俺のご自慢なハクスラスキルが意味をなくす。


何よりロールプレイングが詰まらなくなる。


「婆さん、悪いが何も買わないわ」


婆さんは、少し驚いた表情で言う。


「何故かね。やはりお金がないかのぉ?」


「お金なら余ってる。俺は自分で拾ったマジックアイテムしか使わないって心に決めてるんだよね」


婆さんは俺の言葉を聞いて沈み込み、皺だらけの口を閉ざした。


俺は何気無く言う。


「まあ、売るのもワイズマンに頼むから、その会員証も要らないや」


「なに、あの馬鹿者と知り合いか?」


「えっ? ワイズマンを知ってるの?」


「知ってるともさ。お主はあの坊やとどんな関係なのじゃ?」


「友人みたいな関係かな」


「そうかえ、そうかえ……」


俺は店の出口に進んだ。


「じゃあ、帰るわ」


俺が店を出たところで、婆さんが最後に述べる。


「じゃあの、馬鹿息子に宜しくな」


「えっ!?」


俺は店内に速足で戻った。


カウンター前までスタスタと駆け戻ると、婆さんの皺だらけの顔に、俺は自分の美しい顔を近付けながら問うた。


「婆さんは、ワイズマンの母ちゃんか!?」


「そうだがね?」


「なにを!?」


婆さんが、ワイズマンの母親だって!?


マジでかよ!?


「婆さん、幾つだよ!?」


「108歳だがのぉ」


「超後期高齢者じゃん!?」


って、ことは、ワイズマンは幾つなんだ?


人生歴108年のしわくちゃ婆さんの息子だろ、ならばワイズマンも70歳か80歳ってことか!?


まだ精々40歳か50歳ぐらいだと思ったのにさ。


「じゃあ、婆さん。息子のワイズマンは幾つなんだよ?」


「あの子は私が80歳を過ぎたぐらいのころの子供だから、今は25歳ぐらいだったかのぉ」


「25歳ぐらいって!?」


マージーでー!?


うそぉ~~~ん!?


絶対にこの婆さんはボケているぞ!!


あのモッチリワイズマンが25歳ぐらいなわけがないだろう!!


ってか、めっちゃ老けてるじゃんか!!


それにモッチリだしさ!


もう、この店より謎だわ!?


てか、80歳で子供を産めるのか!?


女って、すげーな!?


てかよ、待てや。


そうなると、80歳の婆さんを抱いた男が居るってことだろ!?


そいつも凄いぞ!?


それってレジェンダリー級のストライクゾーンを有した勇者じゃあねえか!


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