5-26【祝レベル20達成】

「うむ、こりゃあ派手に転がったな、あの大怪球わさ」


鋼鉄の大玉が転がって行った通路の坂道は結構いろんな物がペチャンコになっていた。


大玉はスケルトンウォリアーの遺体を踏み潰し、崩れ落ちていた岩なども木っ端微塵に粉砕して転がって行ったのだ。


まさに転がる鑿岩機である。


「どれどれ~」


俺はショートソードにマジックトーチを掛けると辺りを照らしながら捜索した。


周りにはスケルトンの残骸が散らばっている。


「よーし、マジックアイテムの回収だ。あっ、ウォーハンマー発見」


これは俺がスケルトンに投擲したやつだ。


でも、ポッキリと折れてますわ……。


「魔法感知でも光らないぜ。もうこのマジックアイテムは死んだのか、南無南無南無~」


どうやらマジックアイテムなどの武器は折れてしまうと魔法の効果が消えてしまうようだ。


「残念だが、このウォーハンマーは諦めるか。さて、他には魔法感知に引っ掛かる物はないかな」


俺はスケルトンウォリアーの残骸を漁って装備品を一つ一つ確認していく。


「おっ、このレザーアーマーは輝いてますね」


更に──。


「おおっ、このショートソードも光ってるぞ」


更に更に──。


「おおおっ、このダガーも光ってますね。おおう、ドンドン出て来ますわ~!」


更に更にの更にである。


「あっ、部屋の隅で何かが光ってるぞ。とりあえず見てみようか──。あ~、居たわぁ~~」


ジャイアントグールさんが居ましたわ。


もう、ほとんど大玉に潰されてますね。


残っているのは頭部と左腕だけだわ。


他の部位は完全にミンチですよ。


キモイ……。


それでもジャイアントグールさんは生きてますね。


何とも逞しいことだわ。


流石はアンデッドだね。


頭が生きていれば死なないんだね。


ジャイアントグールは俺が述べた通り、頭部と左腕だけを残して動いていた。


他の部分はペシャンコである。


もう戦える状態ではない。


魔法の甲冑もペシャンコだ。


残っているのは左腕部分だけである。


ヘルムも脱げて見当たらない。


それでも残った左腕の甲冑が輝いていた。


魔力感知の光である。


この部分だけでもマジックアイテムとして生きているようだ。


「成仏してくれ、勇者様……」


俺はショートソードを逆手に持ってジャイアントグールにとどめを指す。


頭にショートソードを突き立てた。


ザックリと刀身が頭を貫くと、ジャイアントグールは死人のように動かなくなる。


ってか、最初っから死人なんだけれどね。


いや、最初は生存していた人間かな。


まあ、どうでもいいや。


どちらにしろ俺の勝利には変わらない。


うし、これで英雄クラスのアンデッドを一体倒したぞ。


絶対にこいつが三体の英雄の一人だろう。


だってかなり強かったものね。


残るは二体だ。


【おめでとうございます。レベル20になりました!】


おおう、レベルアップしたぜ!


しかもレベル20だわ。


これで二回目のボーナスタイムだぞ。


すると有り得ない高さの場所に光の扉が輝き出す。


その位置は明らかにダンジョンの天井部分を越えていた。


これは空間を歪めているな。


だから天井と重なっているんだ。


そして光の扉から階段が伸び降りて来る。


「出て来るな、糞女神……」


俺は強くショートソードを握り締めた。


すると光の扉が開いて乙女のシルエットが浮かび上がる。


俺はダッシュで階段を駆け上がると糞女神にショートソードを突き立てた。


「おおらっ!!」


『な~に~!?』


ガシッと俺の繰り出した刀身が真剣白羽取り去れる。


この糞女神、やりやがるな!?


「ちっ、畜生!!」


『ちょっと何するの~!?』


「ちょっとあんたを殺そうと思ってな!!」


『もう、やだぁ~。信じらんない~』


俺の身体が軽々と持ち上げられる。


そして階段から投げ落とされた。


「ぬおっ、この糞女神、怪力か!?」


『も~、飛んでけ~』


俺は糞女神に投げ捨てられた。


滑空する、俺。


「ひぃーーーー!!」


そのまま階段の下まで放り投げられると床に背中から激突して落ちた。


「ごぱっ!!」


痛い!?


なんかどこかの骨が折れる音が聞こえましたよ!!


ボギって言った、ボギってさ!!


こ、骨折したよ、絶対!!


「この糞女神がぁ~……」


俺は悪鬼羅刹の表情で立ち上がる。


まだ闘争芯の炎は燃え尽きていない。


そんな俺の様子を見ていた糞女神が呆れた表情で溜め息を溢す。


『はぁ~、あなたはどこまでも反抗的ね。もう、さっさと願いを言いなさいよ。私も速く帰って録画したドラマを見たいんだからさ~。私だって暇じゃあないのよ』


イライラとした悪意の感情で俺の額に青筋が無数に浮かび上がる。


「この糞女神が。俺と録画積みドラマと、どっちが好きなんだよ!」


『堂々と剣を突き立てて来る信者なんて好きなわけないでしょう~』


「誰が信者だ、この糞女神が!」


『じゃあ~、さっさと願いを言ってよね~』


「俺の呪いを解いてくれ!」


『あなたに呪いなんか掛かってないわ~。前にも言ったでしょう』


「ペナルティーだよ、ペナルティー! テメーが掛けたペナルティーを解けって言ってるんだ!!」


『それはレベル100まで無理ですってばさ~。他の願いにしてよね』


「他の願いだと……」


俺は胸の前で腕を組ながら考え込んだ。


「畜生、なんも考えてなかったぜ。上手く行けば糞女神を暗殺できるかなってことばかり考えていたせいでよ……」


『もっと前向きに考えましょうよ~。ほら、ハッピーライフをエンジョイしましょうね♡』


「あー、もー、こう言うところが超ムカつくんだよな。とにかく語尾にハートマーク付けるのやめれ!」


『てへぺろ♡』


さて、それはそうと、願いはどうしよう?


マジで考えていなかったぜ。


『考えてなければ、私が勝手に選ぶわよ~♡』


あっ、また勝手に心を読みやがったな!?


覗きだ、セクハラだ!


『私は麗しい絶世の女神ですよ~。ゲスな人の心ぐらい読めますわよ~っだ♡』


誰が麗しい!


それに人をゲス呼ばわりすんな!


『もう面倒臭いから、願いは私が勝手に気ままに決めるわよ』


ふざけるな、糞女神!!


『それじゃあこれを差し上げますわ~。やったね♡』


「えっ、マジで選択肢無しかよ!!」


『もたもたしているからですわ~♡』


そう言い残すと糞女神が踵を返す。


背中!


今だ!


俺は異次元宝物庫からロングボウ+1を取り出すと引き金を引いた。


糞女神の背中を狙って矢が発射される。


「俺の一撃よ、間に合え!!」


だが、俺が矢を放った時には糞女神の光は扉ごと消えてしまっていた。


放たれた矢は天井に跳ね返って落ちて来るだけである。


俺は糞女神を逃がしてしまった。


「くそ、畜生が──」


レベル30になった時には確実に殺せる作戦を考えておこうかな。


それとも次のサービスタイムの願いはあいつに死ねって願おうかな。


「おや、何か置いてあるぞ?」


俺は露骨な感じで床に置かれた置物を見つける。


それは金の馬がヒヒ~ンっとウィリーしているトロフィーだった。


何これ?


これがレベル20の祝い物ですか?


どうやらマジックアイテムのようだな。


んん~……。


まあ、いいか。


とりあえず貰っておこう。


俺は金馬のトロフィーを異次元宝物庫に入れた。


その後にジャイアントグールが身に付けていた左腕の甲冑を外すと回収する。


プルプレートメイルが左腕だけになっちゃった。


残念だわ。


まあ、よしだ。


今日は疲れたし、そろそろ帰ろうかな。


午後から閉鎖ダンジョンに入ったからさ、今日はあまり長居も出来ないだろう。


俺は坂道を下って引き返す。


あれ、出口が大玉に潰されて、通れないぞ……。


これは遠回りしないと……。


俺はもう少し捜索しながら出口を目指した。



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