4-31【100000G】

朝が来る。


窓の隙間から朝日と鳥の五月蝿い鳴き声がピーチクパーチクと届いて来た。


俺はベッドから起きると両腕を高く上げながら背を伸ばす。


「ああ、眠い……」


眠いが俺には目的があった。


この目的を果たすために今日は寝坊が出来ない。


俺は必ずこの目的を果たすと昨晩寝る前に誓ったのだ。


俺はテーブルの上に置かれた赤い着物を取ると、ゆっくりと着こむ。


何せ初めて着るタイプの洋服だ、勝手が良くわからない。


着物は赤いボディコンドレスだ。


スカル姉さんの物である。


えっと、こっちが前かな?


よいしょっと……。


何だろう?


結構と胸のところがブカブカだな。


もしかしてスカル姉さんって乳がデカイのか?


んー、そんなはずはないよな。


いつも眺めている限りでは貧相だもん。


あれはきっとAサイズだ。


たぶんさ、俺のオッパイのほうが小さ過ぎるんだよ。


うん、そうだそうだ。


絶対そうだわ。


まあ、なんやかんや考えながらも俺はボディコンドレスを着込んだ。


「よし、これで良いだろう!」


バシンっと腰を一つ叩いて気合いを入れた。


俺は朝から爆笑を取るためにスカル姉さんが昨日残して行った赤いボディコン衣装を着こんだのだ。


このボディコン衣装はバスタオルを体に巻いた程度にしか裸体を隠していない。


両肩が肌けていて、胸元もスースーする。


それにスカート部分もかなり短い。


下手な感じでしゃがみこむと下着の股間部分が丸見えになってまう。


着込んで見て分かったが、なんともふしだらな服である。


「いつもスカル姉さんって白衣の下は、こんなに大胆な服を来ていたのか……」


なのに何故にスカル姉さんはセクシーに見えないのかが不思議だった。


やはり内側から滲み出るお色気が微塵もないのだろう。


それとも歳のせいだろうか?


もう干からびてる?


カビてるとかか?


まあ、何よりだ──。


これで三階まで上がって朝食を食ってやるぞ!


「ぐははははは~~」


俺は自信の籠った薄ら笑いを上げながら三階に向かう。


スカル姉さんの嫌がる顔が思い浮かぶぜ!!


「これで朝から爆笑の獲得率が100%だぜ!」


俺はルンルン気分で三階に上がった。


そして、スカル姉さんといつも飯を食べている部屋に飛び込んだ。


ビックリさせてやるぞ!


「お~は~よ~う~、スカル姉~さ~ん!」


俺がルンルン気分で部屋に飛び込むと、二つの返事が戻って来た。


「おはよう、アスラン」


「お、おはよう、アスランくん……」


何故に声が二つなの?


しかも一つは男だったよね?


誰か居るのか?


お客さんなの?


俺が目を見開き凝視してみると、テーブル席にはスカル姉さんとゾディアックさんが向かい合って腰かけて居た。


「なぜ!?」


何故にいつも居無い野郎がここに居る……?


しかも、俺がボディコン衣装の時に限ってさ……。


「ア、アスランくん、朝からハイカラな服を来ているね……」


笑顔を引きつらせるゾディアックさんの向かいでスカル姉さんが必死に笑いを堪えていた。


いや、ほとんど堪えきれていないな……。


顔を反らして両肩を上下に揺らしてやがる。


畜生、こうなったら開き直ってやるぞ!!


「なんだ~、昨晩は、ゾディアックさんがスカル姉さんのところにお泊まりでしたか!」


「えっ、そんなわけないだろう!」


慌てているのはゾディアックさんだけだった。


スカル姉さんは椅子から転げ落ちそうなぐらいに笑いを堪えている。


キィーー!!


なんか俺が負けた見たいで悔しいじゃあないか!!


「ア、アスラン。朝食を食べるだろ。早くそこに座りなさいよ……。くっくっくっ」


笑いを堪えてやがるぞ、この糞女は!!


俺は悔しがりながらも、ゾディアックさんの隣の椅子に腰かけた。


コーヒーを啜りながらゾディアックさんが訊いて来る。


「と、ところでアスランくんは、なんでそんな格好なんだい?」


「ああ、これね。昨日の夜にさ、スカル姉さんが俺の部屋で脱いで忘れて行ったんだよ」


「ぶっーーー!!!」


「きぃぁぁぁああああ!!!」


ゾディアックさんが飲んでいたコーヒーを吹いた。


その吹いたコーヒーシャワーがスカル姉さんの顔面に浴びせられて年増が悲鳴を上げていた。


面白いな、この兄ちゃんは。


なかなか、やりおるわい。


「ちょっと汚いわね、ゾディアック!!」


「す、すまない。ドクトル・スカル!!」


二人がワーワーギャーギャー騒ぎ立てるなか俺は準備されていた朝食を食べ始めた。


まあ、このぐらいで勘弁してやろう。


俺はゾディアックさんに冗談だと告げる。


俺の戦意がなくなると、そこからは静かな朝食会と変わった。


「なんで今日はゾディアックさんが居るんだ?」


俺の質問に答えたのはスカル姉さんのほうだった。


「今日の朝からゾディアックがゴモラタウンに旅立つから、お使いを頼もうと思ってな。それで朝から寄ってもらったんだよ」


「なるほどね~。で、なんのお使いなんだ?」


「薬草だ。スバルのところには置いてない薬草が切れてな。それを頼んだんだ」


「へぇ~。で、ゾディアックさんは何でゴモラタウンに?」


「僕は魔法使いギルドの会議でね。ゴモラタウンで近隣の魔法使いギルドの中堅クラスが揃うんだよ。それに参加しに出向くんだ」


「なるほどね~。社会人って大変だな~」


三人の朝食が終わってスカル姉さんが食器を片付け始める。


俺はコーヒーを飲みながらゾディアックさんに訊いてみた。


「ゾディアックさん。見えない時空の扉って知ってるかい?」


先日、俺やマヌカビーが潜った時空の扉だ。


魔法使いギルドの中堅さんなら何かしら知っているだろう。


「時空の扉、かい?」


「そう、透明なヤツだ。目に見えないが、そこにあって別の離れた場所に繋がっているヤツだよ」


「あ~、それは多分だが、インビシブルゲートじゃあないかな」


「なんだい、インビシブルゲートってさ?」


「魔法のゲートだよ。ドルイド系の高レベル魔法で、もう使える者も少ないかな」


あのドデカイババァ~はドルイドだったのか。


筋肉質で巨体だったけれど、あれでも魔女なんだよな。


「それにしても、原理は分からないが便利な魔法だな」


「周囲の自然エネルギーを利用して構成される魔法で、ただ唱えればいいってもんじゃあないから、使える者も少ないんだ。魔法のスクロールがあれば習得できるってもんでもないからね」


「なるほどね~」


俺が使うには、ちょっと難しそうだな。


「へぇ~、キミはインビシブルゲートを見たのかい?」


「キルケって言う魔女が使ってたぜ」


「なに、キルケだって!?」


「んん?」


あー、何かな?


すげー、ゾディアックさんの表情が怖いけど?


「キミは魔女キルケに出会ったのかい!?」


「ああ、殺したぞ」


「うそ~~ん……」


なんだろう。


凄くゾディアックさんが脱力しているわ?


もしかして、殺したらアカン人物でしたかな?


食器を片付け終わったスカル姉さんが、コーヒーカップを片手にテーブル席へ戻って来る。


「魔女キルケって、魔法使いギルドが賞金首に掛けているヤツよね?」


「へぇ~、スカル姉さんも知ってるんだ」


「確か賞金額が100000G だったわよね?」


俺はムクリと椅子から立ち上がるとボディコン衣装を脱ぎ捨てる。


俺は全裸のまま言った。


「俺、あのババァ~の首を拾って来るわ!!」


スカル姉さんは俺が脱ぎ捨てた衣装を拾いながら言葉を返す。


「行ってらっしゃいな。頑張って稼いでくるのよ~」


全裸の俺は部屋を飛び出すと自室に戻って旅の支度を整える。


直ぐに支度が済んだのでスカル姉さんの下宿を飛び出した。


100000Gだぞ!


あの糞ババァ~の首が100000Gなのだ!


これを拾わずには要られるか!!


それにしてもあの巨漢の魔女は何をしでかして賞金首になったのだろう?


そうとうな悪なのか?


いや、今はそんなことどうでもいいや。


それよりも早く100000G の首を回収しなくては!


すると建物を出たところでゾディアックさんとまた出会う。


そしてゾディアックさんに言われる。


「アスランくん、急ぐのはいいんだが……」


「なに!?」


もう、うざいな!


俺は急いでるんだぞ!!


そして、やっとゾディアックさんが語った。


「服ぐらい、着ようね……」


「あ、全裸だ。服を忘れてたわ!!」


全裸に慣れたせいか、服を着るのを忘れてしまった。


人の習慣って、怖いよね~。


もう一度俺は下宿に戻った。


服を着直してから出直す。


そして、二日間掛けて初心者ダンジョンまで到着したが、インビシブルゲートは消えていた。


ゾディアックさん、この魔法が消滅するならするって先に教えて置いて下さいな……。


俺は往復での四日間を無駄にしたのだ。


何より100000Gを無駄にしたのが痛すぎる。


精神的にも立ち直れないわ~……。




【第四章】ショートシナリオ集パート①・完。


【第五章に続く】




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