4-30【冒険からの帰還】
俺が冒険者ギルドを出たのは深夜である。
何故にそんな時間になったかと言えば、ギルガメッシュがサンジェルマンとの再会を祝って宴会を始めたからだった。
一階の酒場で派閥のギルドメンバーたちと盛り上がる。
俺も強引に付き合わされたのだ。
酒の飲めない俺には拷問のような一時だった。
まったく、よい迷惑である。
まあ、約二十年ぶりの再会なのだ、男同士が酒で盛り上がっても仕方がないだろう。
でも、宴会に俺まで付き合わされるのは酷い迷惑である。
それでも酒代や食事代はギルガメッシュのおごりだったのが救いだった。
しかし俺は、最初のほうは飯を頬張りながら宴会に参加していただけだったが、最後のほうではウェイトレスの制服を着せられて御酌をさせられていた。
俺がセクハラだと騒いだら、何故かバーテンダーのハンスさんがお盆を渡して飲み物や料理を運べと言い出したのだ。
「カオス!?」
もう、会場はわけが分からなくなっていたので、俺は無理矢理ウェイトレスを演じてしまったのである。
そして、深夜だ。
やっと飲んだくれどもが酔い潰れて宴会は終了ムードになっていた。
しかしギルガメッシュとサンジェルマンは生き残り、二次会に出るぞと言い出しているが、酒場には生存者が少ない。
オヤジ二人組が潰れた者たちを強引に叩いて起こそうとしていた。
「この二人は化け物かよ……。底無しだな……。俺は、そろそろ逃げるぞ……」
そろーり、そろーり。
耐え難いと思った俺は気配を消して酒場を出たところだった。
そして、脱出成功。
「はぁ~……」
俺は酒場の店前で溜め息を吐く。
上を見れば屋根の遥か先で星や月が夜空に輝いていた。
「うむ、外の空気が旨いぜ」
その時である。
「やっと逃げられたね」
突然に声を駆けられた。
振り返ると壁に寄っ掛かっているマヌカビーが居た。
そう言えばこの野郎は宴会の途中から姿が見えなくなっていたな。
多分そうそうに逃げたのだろう。
「あんた、結構早くから逃げてたな」
「すまないね。僕もほとんど飲めないから」
「ちっ……」
俺は舌打ちを溢したあとに、地べたに座り込む。
ウェイトレス姿のまま地べたに胡座をかいた。
「まったくよ~、疲れたぜ……。あの飲んだくれどもには参ったがな」
「この冒険者ギルドは、いつもこんな感じなのかい」
「知らん。俺は酒が飲めないからさ」
「ははっ、なるほど」
「あんた、冒険者を続けるんだってな?」
「ああ、姉さんは怒ってたけどね」
マヌカハニーの姉さんは、かなり怒っていたな。
大きなオッパイをプルプルと揺らしながら往復ピンタをしてたもの。
俺もあの乳で殴られたいわ~。
あ、ちょっと胸が痛みだした。
巨乳は想像するだけで猛毒か……。
我慢我慢……。
「いいのかい、あれで?」
「僕の家は父親も冒険者で早くに亡くしているんだよ。だから姉は怒っていたんだよね」
「あら、親子揃って冒険者ですか、あらあらまあまあ~」
「あははは~。困ったもんだろ。遺伝だよ」
「俺の女装も遺伝かな?」
ウェイトレス姿の俺が茶化したが、無造作にも無視される。
ちょっと悲しい……。
「僕は父に憧れたけれど、姉は父を恨んでいたからね」
「じゃあ、冒険者なんて辞めとけばいいのに……」
「キミなら冒険者を辞めれと言われて素直に辞められるかい?」
「あー、そうか。無理だね。うんうん、お前さんの気持ちが良く分かったわ」
「だろ~」
マヌカビーが悪餓鬼っぽく微笑んだ。
所詮は冒険者なんて、こんなものかと俺も実感した。
その時である。
「よーーーーう、アスラン!!」
モヒカン頭のギルガメッシュが全裸で酒場から飛び出してきた。
「何故に全裸!?」
それに続いてサンジェルマンも全裸で飛び出して来る。
「ヒャッハー!」
「お前も全裸かよ!?」
二人の全裸魔神は獲物を探しているのだろう。
これ以上は捕まってたまるものか!
「お前も飲めや~~~!!!」
不味い!!
二人の腕先が俺に迫る。
俺は瞬時に立ち上がると一目散に走り出した。
更に──。
「魔法オーバーラン!!」
俺は魔法を唱えて全力疾走で逃げた。
この速度ならば追ってこれまい!
「ドラドラドラーーー!!!」
よし、逃げきれたぞ!
代わりにマヌカビーのヤツが全裸魔神どもに捕まってやがる。
ザマー!!
こうして俺はスカル姉さんの下宿先に帰った。
「ふぅ~~、今日は疲れたわん……。冒険に出ている時より疲れたぞ……」
建物の前から三階の窓を見たが明かりはついていない。
流石にスカル姉さんも寝てるかな。
ウェイトレス姿の俺は、疲れを猫背に表しながら階段を上った。
自分の部屋を目指す。
そして、二階の廊下を歩いていると、俺の部屋から明かりが溢れているのが見えた。
ドアの隙間から明かりが漏れているのだ。
「え、電気の消し忘れかな?」
電気なんてないのだ。そんな筈がないだろう。
誰か居るのかな?
泥棒か?
俺はスキルで忍び足を使って自分の部屋に近付いた。
すると自室の中から人の声が聴こえて来る。
しかも声は二つだ。
誰かと誰かが話しているぞ。
その声は女性のものだった。
俺はドアの前まで忍び寄ると耳を澄ました。
「うふふふ。ドクトル、良くお似合いですよ」
「そ、そうかな~」
「これがアスランくんが着ていたウェイトレスの制服ですか~。か、可愛いですね!」
「じゃあ今度はスバルちゃんが着てみる~?」
「は、はい。是非に!」
「それじゃあ脱ぐわね~」
「ドクトル、どうせ脱ぐならセクシーに脱いで下さいな~」
「ええ、ちょっと恥ずかしいわね~。でも、大サービスよ、スバルちゃん」
「有り難う御座います!」
「ちゃららららぁん~」
何をやっているんだ、あの二人は……。
呆れた俺が自室を覗き込めば、スカル姉さんが俺のウェイトレス制服をセクシーに踊りながら脱いでいる最中だった。
それを正座しながらスバルちゃんが眺めている。
スバルちゃんは俺に背中を向けて居るから表情は見えないが、その背中が完全にニタニタと笑っていた。
デレデレのヌルヌルである。
俺はスカル姉さんが背を向けてお尻を振りながら制服を脱ぎだしているシーンで、コッソリと室内に忍び込んだ。
そして静かにスバルちゃんの背後に忍び寄る。
スバルちゃんもスカル姉さんも俺には気付いていない。
「はぁー、はぁー、はぁー……」
何故にスバルちゃんは息を荒くしているのかな。
それにスカル姉さんは上機嫌で踊っていやがる。
「はぁ~~い、特大サービスダンスよぉ~ん♡」
言いながらスカル姉さんが振り返った。
着ていた制服を片手でグルグルと回している。
そして、俺と目が合った。
「がっ!!」
瞬間、スカル姉さんが絶対零度に飛び込んだかのように凍り付く。
完全に完璧に絶対的に凍り付いていた。
そしてボトリと制服を床に落とす。
「ど、どうしましたか、ドクトル……」
突然の硬直したスカル姉さんを心配してスバルちゃんが詰め寄った。
そのスバルちゃんの首をスカル姉さんが両手で掴んで無理矢理にも後ろを振りむかせる。
「はっ!!!」
「ただいま」
スバルちゃんも俺に気付いて凍り付く。
ギコギコと関節から音を鳴らして脱いだばかりの制服を畳みだすスカル姉さんは、畳み終わった制服をテーブルの上に綺麗に置いた。
そのまま下着姿で廊下に出て行く。
その間も、ずぅーーとスバルちゃんは俺を見ながら凍り付いていた。
俺がスバルちゃんに話し掛ける。
「二人で何をしとったん?」
スバルちゃんはぎこちない口調でアッサリとゲロった。
「わ、私がアスランくんの部屋を訪ねたら、ウェイトレスの制服が目に入ったから、こっそり忍び込んでウェイトレスさんの制服の匂いを嗅いでいたらね。唐突にドクトルが現れて、これ一度着てみたかったとか言い出したから、じゃあ順番に着てみようってことになって、ドクトルが制服を着て踊っていたらアスランくんがいつの間にか私の後ろに立ってました……」
「なるほど。分かったことは、最初っから最後まで全部が犯罪だな、お嬢さんよ!」
「ですよね~、あはははは~~」
「帰れ!!」
「はいーーー!!!」
スバルちゃんは、もの凄いスピードで部屋を出て行った。
畜生が……。
この異世界は変態ばかりだな!
俺は冒険と宴会で疲れて居たのでベッドに倒れ込んだ。
もう眠たくって仕方がない。
「んん?」
すると俺が倒れ込んだ先に何かある。
俺はそれを手に取って広げてみた。
それは、スカル姉さんのボディコンドレスだった。
いつも白衣の下に来ている服である。
明日の朝食には、このボディコンドレスを着て行ってやるぞ。
そう心に決めた俺はベッドに入る。
そして、不意にテーブルの上に視線をやると、ウェイトレスの制服のほかに何かが置かれているのに気付いた。
布が掛けられた小山である。
「なんだろう?」
俺はベッドから出ると布切れを取る。
すると布切れの下にはパンとスープが用意されていた。
そして、スプーンには何故か可愛らしいリボンが結ばれている。
「スプーンにリボン?」
これはスカル姉さんの趣味ではないだろう。
だとするとスバルちゃんかな?
「この食事を用意してくれたのはスバルちゃん?」
なぜ?
いろいろと疑問が湧いたがスープは旨そうだ。
たぶんビーフシチューっぽい。
「まあ、折角だから食っておこうかな。あ~、でも冷めてるわ~、残念だな~……」
それでも俺はパンとスープをすべて食べた。
夜食が終わると俺はベッドに戻り睡魔に囚われる。
疲れていたのか、熟睡するまでは、あっと言う間だった。
眠る──。
俺はウェイトレス姿のまま眠りに落ちた。
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