2-30【リバーボアとの戦い】

俺の目の前に現れたのは超巨大なリバーボアだった。


水面から出ている首の長さだけで5メートルはある。


だとするならば水中に隠れている胴体を含めると20メートルは超えているはずだろう。


絶対にこの辺の主レベルのサイズだぜ。


あまりにも大きすぎないか……?


しかもお腹が空いているのか、シャー!っとか言って凄く狂暴そうに威嚇しているしさ!


多分だけど俺ぐらいなら一口でパックリと飲み込めるだろう……。


きっと、前のリバーボアは、こいつに獲物を譲ったんだ。


ここは真剣に戦わなければならん。


俺はショートソードを前に構えながら水の中を後ずさる。


まずは陸に上がらなければフットワークが使えない。


今は足が沼の泥に取られてまともに動けやしないのだ。


俺がソロリソロリと後ずさりを始めると、リバーボアが襲いかかって来た。


大口を開けて俺に迫る。


俺は片手をリバーボアに向けて叫んだ!


「マジックアロー!」


魔法の矢がリバーボアの口中に突き刺さる。


その痛みでリバーボアが僅かに後ずさった。


「アスランさん、ウィザードの魔法が使えるのですか!」


「そうだよ、俺はプチレアな職業の魔法剣士だよ。格好いいだろ!」


「はい、少し格好良いですよ!」


スバルちゃんが驚いていたが、今はそれどころではない。


今はこの大蛇を速やかにどうにかしなければ。


「スバルちゃん、支援魔法だ。俺にありったけのエンチャントを掛けてくれ!」


「あ、はい!」


スバルちゃんが連続して支援魔法を俺に向かって唱える。


「ワイルドストレングス、ディフェンスアーマー、フォーカスアイ、ポイズンレジスト!」


次々と俺の体が光って魔法の効果を感じる。


感じるが……。


「最後のエンチャントのポイズンレジストって、毒の抵抗力向上だよね!?」


「はい、そうですが!?」


「こいつは毒を持ってるの!?」


「はい、持ってますよ。しかも猛毒です!」


「えぇーーーー!!」


聞いてないよ!


毒とか聞いてませんでしたよ!


しかも猛毒かよ!


てか、今ごろ知っても遅いけれどね!


てか、パクリと行かれたら毒とか関係なさそうだけどさ!


とりあえずエンチャントを貰って少し体が軽くなる。


俺は後ずさる速度を僅かに早めた。


そこにリバーボアの二度目の攻撃が迫る。


リバーボアが再び大口を開けて飛び掛かって来た。


あっ、口の中を見たら確かにすげー牙が生えているよ。


あれだね、猛毒の牙はさ。


「ファイヤーシャード!」


俺は二発目の魔法を口の中に目掛けて撃ち込んだ。


リバーボアは口から煙を吐きながらよろめく。


その隙に俺は踵を返して走った。


水を掻き分けて陸に駆け上がる。


「よし、上陸成功!」


俺は上陸直後に振り返る。


「凄い、アスランさん。ウィザード魔法のほかにもシャーマン魔法も使えるのですか!」


「ははぁ、俺ってば天才だからさ!」


俺は照れ臭く頭をかいた。


スバルちゃんの眼差しが輝きながら俺を見ていたからだ。


すげ~、照れるぜ、も~。


そこにリバーボアの三度目の攻撃が迫っていた。


だが、今度のリバーボアは口を開いていない。


そのアタックは頭突きに近い体当たりだった。


「シャァアア!!」


「げふっ!!」


俺はその攻撃を上半身でモロに受けてしまう。


そして、大きく飛ばされた。


3~4メートルは飛ばされただろうか。


「なんの!」


それでも俺は着地に成功する。


転倒だけは免れた。


更に俺を追い立てるリバーボアの猛攻。


今度は地面をクネクネと進みながらリバーボアが俺に迫って来た。


また、頭突きだ。


この野郎は獲物をいたぶり弱らせてから補食するつもりなのだ。


ネチネチとしてるが、賢いハンターだな。


しかし、今度は俺も頭突きを回避する。


回避するだけではない。


身を横に躱した後にリバーボアの首筋をショートソードで切り付けた。


ガンッと重々しい音が響く。


「なっ!?」


だが、俺の一撃はリバーボアの堅い鱗に弾かれた。


「すげー堅いな!」


まるで鋼の鱗だ。


思わず俺の口から愚痴が吐かれた。


しかし、愚痴っている暇はない。


リバーボアが俺の周りを回りだした。


「これって?」


ヤバイ!!


周りを見ればリバーボアの太くて大きな巨体に囲まれていた。


その輪が縮んで俺に迫り来る。


「巻き付かれる!」


錦蛇やアナコンダは馬や牛のような大型の家畜すら、その長い体で巻き付いて絞め殺すと聞いたことがある。


それなのに、それより大きなリバーボアに俺なんかが絞められたら一貫の終わりだ。


巻き付かれたら、俺の中身がいろんな穴からムニュムニュって出てしまうぞ。


捕まったら完璧にアウトだな。


「ならばっ!」


俺は全方向から迫る巨体をジャンプで飛び越える。


走り高跳びの選手のように空中で身体を捻りながら背を反らして、大蛇の巨体スレスレの高さで飛び越えた。


「げふっ!」


背中から地面に落ちたが窮地は脱出できた。


なんか回避方法がカッコ良くね!


スバルちゃん、今の見ていてくれたかな!?


それはさて置き、俺は直ぐに立ち上がった。


するとリバーボアは俺を巻き取ったと勘違いしているのか、更に身体を丸めながら蠢いていた。


それにしてもショートソードだと駄目だな。


あの堅い鱗に通じない。


攻撃力が低い。


軽いんだ──。


バトルアックスなら通じるかな?


でも俺は直ぐに武器チェンジをしなかった。


少し考えがある。


やがてリバーボアも俺を巻き取っていないことに気付いたようだ。


鎌首を高く上げてから俺の姿を探し始める。


「ここですよ、マジックアロー!」


俺はリバーボアの片目を狙って魔法の矢を放った。


「シャッ!!」


ナイス、命中である!


片目を負傷して悶えるリバーボア。


しかし、目蓋をパチパチとしていた。


潰すまでは行かなかったのかな?


でも十分だろう。


そして怒り狂うリバーボアが俺を片目で見つけると、大きな口を開けて襲い来る。


俺はその大口に向かって自ら飛び込んだ。


「よっこいしょ!」


毒の牙を避けながらショートソードを持った腕を、リバーボアの口の中に突っ込んだ。


ショートソードの刀身を下に向けて、つっかえ棒にする。


「よし、またまた成功だぜ!」


つっかえ棒作戦が成功した。


リバーボアはショートソードが口の奥でつっかえ棒になって、顎を閉められないでいた。


そのつっかえ棒をはずそうと頭を振って暴れ出す。


その様子を眺めながら俺は背中からバトルアックスを取ってゆったりと構えた。


高々とバトルアックスを振りかぶる。


そして狙いを定めてタイミングを待つ。


「さあ、こい──」


首を振ってつっかえ棒を取ろうとしているリバーボアの頭が俺の側を過ぎた。


そこを狙って俺は力一杯バトルアックスを振り下ろす。


全力でリバーボアの頭をぶん殴る。


頭を殴られたリバーボアが顎を地面に打ち付けた。


更に俺の強打が続く。


俺がリバーボアの頭をぶん殴る度にリバーボアの口が少しずつ閉まって行った。


リバーボアは身体をバタつかせていたが、頭の位置は動かさない。


それもそのはずだ。


俺が仕掛けた口の中のショートソードが下顎を貫通して、地面に杭のように突き刺さり頭部を固定してしまっているのだ。


これもすべて俺の作戦通りだ。


やったね!


そして俺はリバーボアの身体が動かなくなるまで、とことん頭をバトルアックスで殴り続けた。


流石にリバーボアの頭蓋骨が割れて鮮血が飛び散り始めると、リバーボアは動かなくなる。


勝ったかな?


【おめでとうございます。レベル10になりました!】


おっ!


レベルアップしたってことは、俺の勝ちだ!!


リバーボアの主に勝ったぞ!


【レベル10になりましたので、特別ボーナスがあります】


更にメッセージが流れた刹那に、周囲の景色が灰色に染まった。


えっ?


なにかくれるの??


てか、時間が止まった???


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