2-31【再降臨】

【レベル10になりましたので、特別ボーナスがあります】


俺が巨大リバーボアを倒すとレベルアップした。


その直後に今まで聞いたことがないメッセージが流れる。


すると周囲の色が失われて灰色に変わった。


瞬間的に、視界の全面がモノクロの世界に変貌してしまう。


まるでレトロな映画のスクリーンを見せられているように世界が色褪せていた。


「な、なんだ……!?」


俺は戸惑いながらも周囲を見回す。


「と、止まってる……!?」


時も止まっているようだった。


風が止まり、揺れていた草木も微動だにしていない。


空を見上げれば、飛んでいた鳥が空中で静止していた。


それにスバルちゃんは蝋人形のように固まっている。


何が起きているんだ!?


分かっていることは、いつものメッセージボイスが流れたことから、転生に絡んだイベントだと思われることぐらいだ。


それは間違いないだろう。


これも糞女神の悪戯か!?


俺がキョロキョロしていると、沼地の上空が眩く輝き始めた。


俺は目を細目ながら目映い光を凝視した。


光は四角い扉のようだった。


そして、その光の扉から光る階段が伸び下りて来る。


伸びた階段は俺の前の地面に刺さって止まった。


俺に上がって来いってことかな?


どうしよう?


上がればいいのかな?


俺が悩んでいると上空の光る扉が開いて人型のシルエットが扉の奥から浮き出てきた。


それは──。


『はぁ~~い、お久しぶりでぇ~す。美しい女神さまの降臨ですよぉ~ん♡』


ちっ……、こいつかよ。


……ぺっ。


俺は地面に唾を吐いた。


よりによって、超むかつくヤツが出てきたぞ。


糞女神は、光る階段をエスカレーターに乗るように自動で下って来る。


そして、階段の中腹ぐらいで止まった。


糞女神は俺を間抜けな笑顔で見下ろしている。


それにしても階段を上らなくて良かったわ。


俺のための階段じゃなかったよ。


俺が空気を読まずに階段を上がって行ってたら、間抜けにも糞女神と鉢合わせしていたかも知れない。


そんなドンクサイのは御免である。


それにしても何しに来たんだろう、あの糞女神は?


『あれれ~。久しぶりに女神さまに会えたのに、うれしくないのかなぁ~♡』


ぜんぜん嬉しくない。


相変わらす語尾にハートマークをつけるのね。


それが、すげー、うぜーーんだよ!!


けっ!!


『それじゃあ、再会の喜びに浸るのは、このぐらいにして話を進めましょうかねぇ♡』


この糞女神さまわよ、相変わらず人の話を聞きやしねぇーのね。


俺の悪態まで無視ですか!?


『はーい、では今回はレベル10に到達出来たのでご褒美をプレゼントしにまいりました。ラッキー♡』


今回はちゃんと説明するんだな。


少しは真面目になったのか?


また、面倒臭いとか言って説明をすっ飛ばすかと思ったのによ。


『あなたがレベル10、20、30っとアップした10おきに、私が特別ボーナスをプレゼントしに来ます。やったね♡』


へー、何をくれるの?


プレゼントを置いて、さっさと帰れよ。


『なんと聞いてビックリよ。プレゼントは望みの願いを叶えて上げる権利ですよぉ~。ほら、ビックリしたでしょう。パフパフ、どんどんどん♡』


はいはい、びっくりしたよ。


何がパフパフどんどんどんだ。


でぇ~、どんな願いでも叶えてくれるんだな?


じゃあ、あんたが掛けたペナルティーを解いてくれよ。


『へえ、 ペナルティーって、なに?』


あー、完全に忘れてるよ。


それか最初から覚えていなかったかのどっちかだな。


たぶん後者だろ、そうだろ?


『ちょっと待っててねぇ~。データを見直すからぁ~』


データ化されてるのかよ、便利だな。


最近の女神もハイテクだな。


『あれれ~?』


どうした、糞女神さまよ~?


『私の記憶だと、そんな事実はないんだけれど。不思議とデータにはペナルティーが記載されてるわねぇ。何故かしら?』


お前が完全に忘れているだけだよ!


『でも、このペナルティーって面白いわね。エロイ事すると死ぬペナルティーだってさ。ウケる~♡』


てめーでペナルティーを食らわせといて、勝手にウケてんじゃあねえよ!


『あー、でも、このペナルティーはまだ解除は出来ないわねぇ~』


なに、駄目なの!?


『このペナルティーは、レベルが100に達成する時まで解けないわぁ~』


何故だよ!


さっきさ、なんでも願いを叶えてくれるって行ったじゃんか!?


もしかして、達成レベルが低いと願いも小さなものからしか叶えてくれないとかか!?


そう言うありきたりな設定ですか!?


『それもあるけど、半分は私の気分かしらねぇ♡』


気分かい!!


やっぱりあんたは糞女神だな!!


気分で決めんなよ!!


ちゃんと仕事は仕事で割り切れよ!!


『だって、クソくそ糞って言われていたら、誰だって気分を害しますでしょうぉ~』


ああ、そうですね、ごめんなさい!


謝るからペナルティーを解いてください!


おねがいします、う・つ・く・し・い、女神さま!


『駄目よ、このペナルティーが解けるのは、レベル100って、今さっき設定したばかりだから変更は出来ないわねぇ』


勝手に設定すんな!!


それも、今さっきかよ!!


『はいはい、分かったから早く願いを言ってね。私も録画したドラマを観たり、ペットのモフモフをモフモフして愛でないとならないから、忙しいのよ』


いや、今さ、自ら暇ですって暴露してるようなもんだよな!


録画したドラマの上から糞真面目なドキュメント番組を録画してやろうか!


それにモフモフってなんだよ!


もっと具体的に言えよ!


何が何だか分かんないじゃんか!?


つっこむほうの身にもなれよ!


『ほら、いいから早く願いを言いなさいよ。じゃないと私は帰るわよ。正直なところあなたは嫌いなんだから』


俺だって嫌いだよ!


お願いだから女神さまの担当をチェンジしてくれよ、追加料金なら払うからさ!


『そんな願いは却下ですわ。私にだって立場ってものがあるんだから。私の可憐な評判がダウンするじゃないの』


評判とか気にしてんじゃあねえよ!


だからお前の信仰者が増えないんだよ!


『なんで私の信仰者が増えないことを知ってるの、あなたがさ!』


予想ぐらいできるわ!!


『もー、いいから早く願いを言いなさいよ。本当に帰るわよ!』


分かったよ、願いを言うよ!!


じゃあ、えーと……。


ん~~、ガヤとツッコミが忙しすぎて、願いまでは何も考えてなかったな……。


『あれれ~。今までの勢いはどうしたのかしら。願いの一つもなくって女神さまの私に噛みついていたのかしら~?』


お前さ、馬鹿にするポイントずれてるぞ……。


『え、そうかしら?』


俺は一度スバルちゃんの姿を見た。


灰色の世界の中で固まっている。


なあ、女神さまよ


『何かしら?』


魔法を一つもらいたい。駄目かな?


『何、エンドレスチャームとかが欲しいの?』


え、何それ、そんな魔法があるの?


『あるけど、まだあげられませ~ん。もっとレベルアップしてからかなぁ~』


じゃあいいや……。


『諦めるの早いわね。詰まらないの。もっと食いついてきてよ、がっつりとさ』


俺が欲しい魔法は、【体臭を消す魔法】だ。


『そんな魔法はないわよ』


じゃあ、それを作ってくれ。それが最初の俺の願いだ。


『作るだけでいいなら、叶えるわよ?』


出来れば、その魔法を完成させるのは、あそこに居るスバルちゃんにしてもらいたいんだけど。


そう言うのできるかな?


『まあ、いいわよ。でも、それだと未来形の言い回しだから、あなたが得するかは、分からないわよ?』


べつに俺が得するための願いじゃあないからいいんだよ。


『なるほど。じゃあ、願いは叶えてあげる。一旦退社してから、明日の出社一番で入力するわね』


今日できることは、今日やれよ!!


『うるさいわね。明日でいいのよ。じゃあ帰るわね。バイバーイ♡』


そう述べると糞女神はエスカレーターで光の扉の中に消えて行く。


すると世界が動き出す。


灰色の世界に鮮やかな色が戻った。


「アスランさん、やりましたね。見事にリバーボアの主を退治しましたね。凄いですよ、こんなに大きなリバーボアを一人で倒すなんて!」


スバルちゃんが跳び跳ねながら喜んでいた。


こうして俺の薬草取り護衛のミッションが終わった。


俺とスバルちゃんの二人がソドムタウンに戻ってからしばらくすると、スバルちゃんが体臭を消す魔法のポーションを、錬金術の魔法で完成させたと噂になった。


町の人々が、これでスバルちゃんの体臭に悩まされないと喜ぶこととなる。


鼻栓なしに薬草が買えると───。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る