2-22【新たなる展開】
俺の借りたての家が燃えたのは、大屋さんの寝タバコが原因だったらしい。
堅物っぽかったミセスでも、寝タバコってするんだなって思った。
てか、寝タバコで家が全焼とかって怖い話である。
俺はタバコを吸わないけれど、吸う人は気を付けなはれや!
って、感じであった。
三階建ての家は全焼したが、死傷者は居なかったらしい。
炎もほかの家に燃え移る前に魔法使いギルドのメンバーによって消化されたらしいのだ。
どうやったかは知らないが、とにかく魔法の不思議な力なのは間違いないだろう。
この異世界の大きな町では、火災を消すのは消防士ではなく、魔法使いギルドの役目らしい。
水の魔法とかで炎を消すのかな?
とにかく魔法って、凄く便利だよね。
消火作業にも使えちゃうんだもの。
まあ、そんなこんなで、もうしばらくスカル姉さんの診療所に、お世話になることにした。
スカル姉さんも、文句は言っていたが俺をすんなり受け入れてくれたのである。
俺的にも元の鞘に収まった気分が強かった。
そうと決まれば俺がやることは一つである。
荷物を置く場所が決まったので、これからは冒険者の仕事に励まなくてはならない。
住まい探しは一旦中断である。
何故にそうなるかは俺も良く分からないが、思考が告げているのだ。
冒険をしなさい、と──。
それから俺は、今後から冒険者らしい身形でギルド本部に行くことに決めていた。
と、言いますか。
ギルメンの皆がフル装備でギルドに集まっているからだ。
何故かと理由をスカル姉さんに尋ねたら、流石は元冒険者である。
的確に俺の疑問を解き明かしてくれた。
「冒険者がちゃんとフル装備でギルドに居るのは、パーティーを組みやすいようにだ」
「パーティーを組みやすいって、何でだ?」
「身形でどんなクラスか、何が出来るのかが、装備を見れば訊かなくても大体分かるだろ」
「あー、なるほどね~」
そう言った理由らしい。
なので俺もフル装備を整える。
レザーアーマーの上にローブを羽織り、視線隠し用のフードを被った。
腰のベルトには、ショートソードとダガー三本を装着。
背中には矢筒とショートボウを背負った。
そして、手にはバトルアックスを持つ。
うむ、ちょっと欲張りすぎかな、この装備数は……。
なので俺はショートボウを諦めて矢筒も外す。
代わりにバトルアックスを背中に背負った。
此れぐらいで装備は良いだろう。
重量的にも動けるしな。
バトルアックスの重量軽減が大変助かっている。
この効果がなければ、俺には大きなバトルアックスなんて重すぎる武器になる。
装備すらしないだろう。
よし、これで冒険者ギルドに行ってみるぞ!
「スカル姉さん、行ってきま~す」
「はいは~い、行ってらっしゃいな」
俺はやる気のないスカル姉さんに見送られて診療所をあとにした。
それとこの前のウルブズトレイン事件の際にレベルアップしていたんだが、その際に新スキルも習得していたので報告いたします。
新スキルは二つでした。
【バトルアックススキルLv1】
戦斧の戦闘力が向上する。
【ノットランLv1】
走る速力が向上する。
走る速力って、単純に言うと足が速くなるってことだろう。
まあ、この前の事件からして覚えそうなスキルであった。
ともあれ、どちらとも役にはたつスキルだろう。
だから、ありがたく貰っておく。
そして、しばらく歩くと俺は冒険者ギルドに到着した。
一階の酒場を眺めて見たら、多くの冒険者に混ざって知った顔が一人だけ居る。
この町で、数少ない俺の知人の一人である。
見習い冒険者戦士のクラウドだ。
クラウドも俺に気付いたようで、こちらに笑顔で歩み寄って来た。
だが、少し顔が赤いし、アルコールの臭いもする。
このガキは、昼間っから酒を飲んでいるようだ。
「よー、アスランくん。元気だったかい?」
俺は鼻を押さえながら返した。
「まあ、それなりにな」
「これから僕さー、冒険に出るんだ。初パーティーを先輩冒険者さんと組んでね」
あー、こいつ、俺らと組んだパーティーをカウントから除外しているよ。
まあ、俺だって忘れたい記憶でもあるがな。
何せスカル姉さんにはパーティーの失敗を隠しているからね。
だから俺もクラウドには突っ込まない。
なんやかんや言っても俺ってば優しいぜ。
するとクラウドが酔いどれ顔で言ってきた。
「キミも早く冒険に出れるといいね、アスランく~ん」
なんか見下されてるな、俺。
何故か上から目線ですねクラウドさんよ。
ならば、ちょっと構ってやるか。
「この前のゴブリン退治の依頼なら、あのあと俺一人で終了させといたぞ。元々ゴブリン退治ぐらいなら、俺一人で依頼を受けるつもりだったからさ」
嘘ではない、事実だ。
「え、本当に……?」
クラウドは、可愛らしく目を点にさせていた。
「本当本当、これが戦利品だ。ホブゴブリンが持ってた戦斧だぞ」
俺は言いながら背中に背負っていたバトルアックスを片手で翳した。
「うわぁ……。ホブゴブリンなんか倒して来たんだ……」
「ゴブリンシャーマンも居たぞ」
「そ、そうなの……。それは本当に凄いじゃんか……。ほ、本当に一人で?」
「ああ、一人でな」
「す、凄いね……」
クラウドは信じ込んでいる。
まあ、嘘は一言も言っていないし、騙してもいない。
それにしてもこいつは簡単に人のことを信用してしまうな。
だから騙されて装備を全部盗まれるんだ。
あ、俺もか……。
そうかぁ、俺って純粋無垢なんだなぁ~。
「ちょっと、どけや」
「うわっ!」
唐突だった。
クラウドの後ろから大きな男が顔を出す。
大男は大きく太い手でクラウドを押し退けた。
「坊主、立派な戦斧を持っていやがるじゃあねえか」
大男はゴリラみたいな顔をしていた。
巨漢には、鉄鎧を纏っている。
そして腰には俺と同じぐらいの戦斧を下げていた。
俺が戦斧を腰に下げたら、地面に付いて引き摺って歩いてしまうが、このおっさんは違う。
武器のサイズと、身体のサイズが一致している。
それだけ体格が俺とは違うのだ。
「ぷはぁ~~」
「ぅぷ!」
ゴリラ男が行きなり息を吹き掛けてきた。
酒臭い上に生臭い。
最悪だ。
反吐が出そうになる。
「良い戦斧を持っているな、坊主」
「ああ、今のところお気に入りだ」
「でもよ、ちょっとデカ過ぎないか?」
「そうかな。扱えるから気にはしていないぞ」
「いやいや、デカいって、お前さんの口と一緒でな。がはははははー!」
あー、馬鹿にされてるね、俺。
ビックマウスってことか。
でも、ここでは揉め事を起こしたくないから、俺はグッと堪えた。
ギルメン同士で喧嘩なんて馬鹿らしい。
だが、まだゴリラ男は俺に突っ掛かって来る。
ウザイな、本当に。
「なんだ、坊主。馬鹿にされたのに言い返しもしないのか?」
構ってられないので俺は踵を返した。
「ちっ、デカい斧を持ってる割りにはキャンタマが小さいのかよ」
キャンタマだと!
俺のキャンタマを見たこともないくせに!
実のところ俺のキャンタマは、スゲービッグなキャンタマなんだぞ!
俺は背を向けたまま呟くように言った。
「お前のほうこそ体格よりキャンタマのほうが小さいだろ」
「なんだと、ごらぁ!」
あ、やばい。
ちゃんと聞こえたようだ。
てへぺろ。
俺が咄嗟に振り返るとゴリラ男が殴り掛かって来る。
早いな、暴力に訴えるのがさ。
超野蛮人かよ。
でも、パンチは遅い。
俺はヒラリとゴリラパンチを回避した。
「よっと──」
なんとも沸点が低いおっさんである。
「捻り潰してやるぞ、ガキ!」
いやいや、掴まず捻らずに、殴り掛かってるやんか。
そして振るわれる二発目のパンチ。
俺はバトルアックスを盾代わりに拳を防いだ。
すると拳で叩かれたバトルアックスから除夜の鐘のようないい音が響く。
「ぐぁぁ……」
痛めた拳を押さえながらゴリラ男がよろめいた。
だが、その次には腰の戦斧を取ると振りかぶる。
「この糞ガキがぁ!!」
マジですか?
武器を使っちゃうの?
それだともう戻れませんよ?
「こうなったら 殴り殺してやるぞ!」
いやいや、もう切り殺す段階だよ!
台詞が一つ遅れてますよ!
まあ、仕方ないので俺も戦斧を構えた。
それにしても、何故か自信があった。
ゴリラ男には負けないと───。
しかし、ゴリラ男が切りかかろうとした時である。
ゴリラ顔の前に、フワッと白い霧が出たように見えた。
「ふぅぁぁ~ん……」
するとゴリラ男は、突然前のめりに倒れる。
「気絶した?」
いや、違う。
良く観察してみれば、寝ている。
鼾をかいて寝ていやがる。
「酔いつぶれたのか?」
「違うぞ──」
言ったのはテーブル席に座っているローブの男だった。
男は木のスタッフを持っている。
身体の線は細いが視線は鋭い。
まるで刃物のような双眸である。
「魔法のスリープクラウドだ」
この男は、魔法使いのようだ。
だが、それ以上に、ヤバそうだ。
鷹のような猛禽類の瞳である……。
ハンターの眼差しであった……。
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