2-23【鷹の目の男】
鷹のような鋭い瞳で、ヤツは俺を見ていた。
睨んでいる……。
否、睨んではいないのだろう。
ただ普通に俺を見ているだけなのかも知れない。
だが、それだけで鷹のような鋭い瞳から強い圧迫感を受けるのである。
まるで鷹に睨まれた兎のような気分だった。
そして、そいつは手にしていた魔法使いの杖をテーブルに立て掛ける。
ヤツはリラックスした姿勢で椅子に腰かけていた。
年齢は30歳ぐらいだろうか。
もしかしたら、もう少し若いかもしれない。
座って居るから確かな身長は分からないが、俺よりは背が高いのは間違いないだろう。
全体的に痩せてはいるが、芯が確りとした姿勢であった。
椅子に腰かけていても、それがはっきりと悟れた。
おそらくローブの下の体型は、細いが減量中のボクサーのように、密集した針金のような筋肉で引き締まっているのだろう。
アスリートタイプで、ガリガリのマッチョマンだ。
だから押しても引いても動かなそうな芯の強さを感じられるのだろう。
何より存在感を露にしているのは、やはり鋭い眼光だ。
まさに鷹だ。
猛禽類の眼光だ。
そして、黒髪は肩まで長く、天然のソバージュが掛かっている。
頬は痩けているが鉄筋の頭蓋骨を有しているようだった。
堀が深く眉毛が薄いのも強面を引き立たせている。
一目で見た印象は、凄腕の冒険者だと察せられるが、善人には見えなかった。
だが、完全な極悪人にも見えない。
とにかく、存在感だけは異常なレベルだ。
そして、魔法使いの男が口を開いた。
クールな口調で言う。
「済まなかったな、キミ。我々のパーティーメンバーが迷惑を掛けた」
「い、いや……」
お、押されているな……。
こいつの威圧感に……。
ただそこに居るだけで大きなプレッシャーを掛けられている。
「キミを知っているぞ」
「おれを?」
「ウルブズトレイン事件の張本人だろう?」
「知ってるのか……」
「もう、有名な話だ。結構な大騒ぎだったと聞く。それに昨晩の火災にも噛んでいるとか?」
はや!
この人、情報を仕入れるのが早くね!?
地獄耳だな。
俺は思春期の乙女のようにモジモジしながら言い訳を述べる。
「噛んでいるといいますか、噛まれているといいますか、甘噛み状態だったといいますか、その日に部屋を借りて入居する直前だっただけなんだけどね……」
「なんだ、てっきりキミが付け火の犯人かと思っていたぞ」
「そんな怖いことしないよ、俺は……」
えーー……。
巷だとそんな噂が立ってるの~。
俺が放火魔だと!?
いゃ~ん、濡れ衣もいいところだよ。
てか、町での俺のイメージって悪いのかな?
だとしたらショックだわ~。
そりゃあ、ゴリラにも絡まれるよね。
「ところでどうだいキミ。私のパーティーに入らないか?」
えっ、勧誘……?
ここに来て意外なお誘いだな。
「パーティー募集中なのか?」
鷹の目の男は、床で倒れ込んで寝ているゴリラ男を見ながら言った。
「何せ丁度良いタイミングで斧戦士が欠番になったのでな。戦士クラスを募集し直そうかと考えていたところだ」
あんたが魔法でゴリラを寝かし付けたんじゃないか。
こいつは、良く言うよ。
てか、スリープクラウドってさ。
確か範囲魔法だったよね。
ピンポイントで一人を寝かせる魔法じゃあないよね?
集団を眠らせる範囲魔法だよね。
それなのに何故?
この人は、どうやったの?
「ほほぅ。キミはさっきのスリープクラウドを不思議がってるな?」
「ぬぬっ!?」
心を読まれたぞ!?
この人はエスパーか!?
ファンタジーの魔法使いじゃなくて、SFのエスパーかよ!!
そうなると作風が変わってくるぞ!
もしかしてこれから異能者バトルの新展開なのか!
いや、心を読まれているとなると、かなりの心理戦を含んだ熱いバトルになりそうだ!
ならば、まさに、驚愕の新展開が勃発だぜ!!
「驚くほどのことじゃあない。ただ魔法を強化して効果範囲を広げるのと真逆のことをやっただけだ」
「真逆?」
「そう、魔法の効果を弱らせて、小さくしただけだ」
サラリと簡単に言ってるけどさ、普通はそんなの出来ないよね。
もしかして、この人は魔法の天才なの?
ふざけたぐらいの高レベルな魔法使いなの?
とりあえず、こいつの名前が知りたいな。
ならば若輩者の俺から名乗るのが筋か──。
「遅くなったが、先に名乗らせてもらうぜ。俺の名前はアスランだ。それで、あんたの名前は?」
「魔法使いのアマデウスだ」
うむむ、また何処かで聞いたことがあるような名前だな。
誰だっけな?
なんか音楽の授業中に聞いたような、聞かなかったような……。
確か音楽室の上の方に写真で並んでなかったっけな……。
まあ、いいか。
「で、先程の返答は如何に?」
「パーティーの誘いのことか?」
「当然だ」
「お断りしますわん♡」
ギロリッ!!
ひっ!
俺がおふざけ混じりに断った瞬間、鋭い眼光が更に殺伐と鋭利に光って俺を睨み付けてきたよ!!
怖かったよ!
怒ったかな!?
不味かったかな!?
今度はマジで俺を睨んでいたものな……。
「ほほぅ、断るか、何故かね?」
「だってあんたさ、ヤバそうだもの」
だろー、ヤバそうだろー。
この人さー、近寄ったら良くない人物じゃんかー。
そりゃー、断るよねー。
「ふぅ、ハッキリとした若者だな。振られるとは、実に残念だ」
今までの状況を見守っていたクラウドが俺に小声で耳打ちをして来た。
その小声には何やら僅かな怯えが聞き取れる。
「いいのかよ、アスランくん……」
「なにが?」
「アマデウスさんは、次のギルドマスターの候補だぞ」
「えっ、マジ?」
それが本当ならば、俺、マズったかな?
椅子から立ち上がったアマデウスが言う。
「まあ、いいさ。今回は駄目でも、次の依頼でパーティーを組む機会だって来るやも知れないからな」
「そう言って貰えると助かりますわ~……。大人の対応有り難う」
卑屈に俺は、そう言った。
するとアマデウスがクラウドに指示を出す。
「じゃあクラウドくん。明日の朝から出発だ。悪いがこいつの面倒を頼めるか」
言いながらアマデウスは足元で熟睡しているゴリラ男の巨漢をスタッフで突っつく。
「こいつとキミとで、戦闘時はツートップで頑張ってもらうのだからな。今のうちに親睦を深めておくといいぞ」
アマデウスに睨まれたクラウドが緊張の声色で返す。
「わ、分かりました、アマデウス先輩!」
シャキッと背筋を伸ばしてクラウドが敬礼をする。
俺にはクラウドが完全に犬に見えた。
まさに忠犬だ。
長い物にはぐるぐる巻きになるワン子だな、本当にさ。
こいつは出世するかもしれないぞ。
いや、無理かな。
そのあとアマデウスは冒険者ギルドを出て行った。
その後ろにフードを深々と被った若い女性がついて行く。
ローブの下はセクシーなレザーアーマーだったが、俺はアマデウスの緊張感でエロイ事を考える余裕はなかったから胸も呪いで傷まなかった。
その女性は、おそらくパーティーのシーフだろう。
怪しげな空気感の女シーフだった。
「さて……」
それから俺も二階に移動する。
それにしても、何だろう──。
他の冒険者たちの視線が冷たいな。
こそこそと話しているしさ。
まあ、気にしないで置こう。
そのあとに俺は、二階の掲示板を眺めた。
しかし依頼書は全部パーティーメンバーの募集しかない。
依頼全部が、すべて先にパーティーを募集しているヤツらに取られたようだ。
仕方ないのでパーティー募集の紙を見てから一階の酒場に戻る。
ここのパーティー募集にも仕組みがあるのだ。
パーティー募集の紙には依頼内容と報酬の他に、どのクラスを募集しているかが書いてある。
それとテーブル番号だ。
あとからパーティーに加わりたい冒険者が上の階で募集のテーブル番号を見て、一階の酒場の番号席に行ってからパーティーにくわえてもらえるかを交渉するのである。
要するに下の酒場は、パーティーが揃うまでの待ち合い席の役目も果たしているのだ。
そして俺が募集を見て、パーティーに加わりたいと述べるが、すべてのパーティーに断られた。
条件が合う募集が6パーティーもあったのにだ。
えぇ~~と、これは噂に聞いたことがあるイジメかな?
仲間外れのイジメですか?
なんで、イジメられるの俺が?
無視されてますか、俺?
でも、心当たりが幾つかあるな……。
たぶん、一番の理由はアマデウスの誘いを断ったからだろうな。
だって、次のギルマス候補だろ。
権力ありそうだもんね。
こりゃあ、マズッたかな~、マジで──。
でもさ~、あいつ重くね?
この作品はスナック菓子を食べているような気軽な感覚でサクサクと話が進んで行く軽い軽い作風が売りじゃあないの?
なのにあんなマジなキャラが登場してもいいのかな。
大体さ、ヤツが出てきてから俺がムリクリに茶化していたから、何とかお笑い的に精神を繋ぎ止めていた感が強くね?
でしょー。
ならば隙見て早めにあいつを潰しちゃおうかな。
あいつが潰れてもさ、誰も文句なんて言わんだろ。
絶対にあいつさ、周りにも嫌われているよね。
よし、潰すぞ!
そしてホチャラカした軽い軽いストーリーを取り返してやるぜ!
まずはあいつのローブに、後ろからウ◯コを投げつけてやるぞ!
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