1-10【殺伐とした世界】

パルテノン神殿っぽい廃墟を出た俺は山を下って麓の村を目指す。


山と言っても、ほとんど草木は生えていないゴツゴツとした岩場ばかりだ。


なんだか富士山の頂上の付近を思い出す。


まあ、富士山には登ったことはないけれど……。


俺が登ったことがある山と言ったら、小学生のころに歩き遠足で行った弥彦山ぐらいだ。


あっ、地名を出すと出身地がばれてまうな。


気を付けよう。


とにかく、俺は真っ直ぐ斜面を下って麓の村を目指した。


下る岩肌は岩ばかりがゴロゴロしていて足場が悪い。


足を滑らせたら大惨事の転落事故になりそうだ。


ここを落ちたら確実に死んでまうな。


慎重に下ろう。


しばらく岩山を下っていると、随分と人里に近付いた。


あと100メートルぐらいで村にゴールインである。


何軒かの煙突から煙りが上がっているのが見えたから、人が住んでいるのは間違いないだろう。


それにしてもボロい家ばかりだ。


馬小屋と間違いそうなぐらいのボロボロな家しか見えない。


ここは旧世界のファンタジーだから、これが普通なのかも知れないな。


もしかしたらこの世界は、俺がアニメで見るような文明が鮮やかなぐらい進んだ可愛らしい萌え萌えロリロリのジャパニメーションなファンタジーじゃなくて、リアルを追及した海外の殺伐とした血と骨と邪悪な魔法が無惨なまでに発展したダークファンタジー映画のように厳しい世界観なのかも知れないぞ。


「あり得る……」


それだと怖いな……。


とにかく、どの建物も貧乏臭いボロ屋ばかりだ。


風が吹けば倒れて崩壊しそうな家もある。


壁や柱がつっかい棒で支えられているよ。


マジで本当に人が住んでいるのだろうか?


もしかしたら無人のゴーストタウンだったりして……。


いや、村だからゴーストビレッジだろうか?


まあ、なんにしろ、なんだかスゲー不安になってきた。


しかし、よくよく家の屋根を見てみれば、煙突からうっすらと煙が出ている家もある。


っと、言うことは人の営みがあるのだろう。


ならば住んでいる人が居るのは間違いない。


よし、これで生き残れたと思う。


水と食料を分けて貰おう。


できたら一泊でいいから寝る場所を提供してもらいたい。


甘いかな?


甘いよね?


だって、ここはファンタジーの世界なんだろ。


いきなり見ず知らずの可愛らしい少年ボーイがやって来たからって一晩の寝床と晩飯をご馳走してくれるような甘い世界ではないだろうさ。


しかも娘を差し出して俺を婿に取ってくれる優しい住人ばかりだとは思えない。


たぶん村人に会っても厳しい対応が待っていそうだぞ。


出ていけっとか怒鳴られて石を投げられたりしたりして……。


まだまだ人種差別や性別差別、産まれの差別や階級差別、ジェンダー差別、とにかく差別と言う差別が激しい時代かも知れないしね。


まあ、でも、どうにかなるさ。


どうにもならなかったら自力でどうにかするさ。


そして、村に向かって岩山を下っていると、大きな岩陰から村を覗き見ている怪しい二人組と遭遇する。


二人が居るのは30メートルほど先の距離である。


俺が道無き山頂から下って来たせいで、二人組は俺から見て丸見えであった。


村のほうから見て岩に隠れているが、俺のほうから見ると背中を見せている形の二人組は、こちらに気付いていない。


まさか山頂側から人が来るとは思ってもいなかったのだろう。


そして、二人組は村をヒソヒソと監視しているようだった。


実に怪しい──。


怪しさがプンプンしている。


何せコソコソしているもの。


「あいつら、何者だろうか?」


盗賊?


野盗?


とにかく犯罪の臭いが奴らの背中から悪臭のように臭ってくる。


俺もコソコソと近付いてみることにした。


時には大岩に隠れて、時には忍者のように、忍び歩きで接近を試みる。


俺は残り15メートルほど近付いたところで二人組が人間じゃあないことに気付いた。


胴体は服を着た人間だが、頭部が動物だった。


頭に三角形の耳が付いている。


鼻から口が前に出ている。


全身から灰色の体毛が生えている。


箒のような尻尾も生えている。


それらが被り物やコスプレとは思えなかった。


見るからにリアル過ぎる。


あれは狼かな?


いいや、犬かな?


犬っぽいな、ありゃあ。


ハスキーっぽい頭である。


要するにモンスターだ。


コボルトってヤツだな。


うん、間違いない。


頭が犬で身体が人間なモンスターでコボルトって言うファンタジー界のモンスターキャラだ。


ヒューマノイド系モンスターの中でもゴブリンと並んで殺られ役のザコに位置する種族である。


更にゴブリン同様に邪悪で残忍な魔物だ。


そして、二匹は粗末な服だが俺より良い物を着ているぞ。


生意気だ!


人間の俺がスケルトンから追い剥ぎしたボロボロな服しか着てないのにさ!


それにコボルトたちの腰には、鞘に収まったショートソートらしき武器を下げていた。


俺の鞘代わりの靴に収まったボーンクラブよりは、かなりましな装備に窺える。


殺られキャラ代表のコボルトの癖に超生意気だな!


でも、俺のボーンクラブはマジックアイテムだもんね!


ボーンクラブ+3だもんね!


どんな魔法が掛かってるかは分かんないけれど……。


アイテム鑑定スキルで解読できなかったんだ。


情けない……。


それよりも勝てるかな?


あいつらに勝てるかな?


相手はモンスターだから襲ってもいいよね?


殺られキャラのコボルトだよ。


悪だよね、きっと?


ぶっ倒してからコボルトが善人でしたとか言う落ちはないよね。


これからあいつらは、あの村を襲うつもりだよね。


二匹だから、家畜を襲うぐらいかな?


でも、それを未然に防いだらさ、村人から見た俺の第一印象はパーフェクトに近いぐらいの好印象だよね。


それって間違いないよね!


勇者様とか言って、ちやほやしてくれるよね。


村人全員で歓迎の宴とかしてくれるよね!


村の女子たち全員で「勇者さまは、私の彼氏になるんだから!」「いいえ、私と結婚するんだからね!」「私はさっき見詰められたから、もう子供を孕んじゃったわ!」とか言い合って、強引に取り合い奪い合いをしてくれ、る、よ…………ぐぁぁぁあああ!!


く、苦しい!!


ペナルティーが、糞女神の呪いが!!


ちょっとでも如何わしくハーレム行為を妄想しただけでペナルティーが発動するのかよ!!


くそ、なんだよこれ!!


「ばう?」


あ、コボルトが振り返ってこっち見てるや。


ちょっと騒ぎすぎた。


気付かれちゃったよ。


てへ♡


「がるるるるるッ!!」


ひぃー、気付かれた上に襲い掛かって来たぞ!


なんたる血気盛んな!


やっぱりこいつら悪じゃんか!


人間を見ただけで襲ってくる魔物じゃんか!


コボルト二匹が鞘からショートソードを引き抜いて、振りかざしながら坂を駆け上がって来やがる!!


犬の顔が牙を剥いて怖いわ!


眉間とか鼻の上とかに、めっちゃ怒りの皺を寄せてるやん!


狂暴で狂犬そのものだ!


やっぱり悪だ!


コボルトはイービルモンスターだ!!


逃げるか?


戦うか?


考えろ、二択だな。


まずは逃げる。


逃げるってどこに?


村まで遠い、逃げ込めるか?


足場が悪い坂道を走って逃げきるのは難しいぞ。


ならば、後退する?


山の上に?


無理じゃねえ?


頂上まで逃げきれても、そこからどうする?


逃げるは却下だ。


ならば、戦うか?


そっちかな。


戦うほうが生き残れる可能性が高いかも。


こうなったら俺も応戦するぞ。


どうせ逃げ場はないんだから。


でも、敵は二匹だ。


こっちは一人。


しかも、装備の差もある。


あっちはコボルトのくせしてちゃんとした装備だ。


それぞれがショートソードを持ってやがる。


こっちは人間なのに貧乏装備だぞ。


ボーンクラブなんて下手すりゃあ、装備とすら呼べないかも……。


だが、こっちが上に居て、あっちは足場の悪い岩場の坂を上らなくてはならない。


高低差で圧倒的に、こっちが有利だ。


どんな戦いも高いところを陣取った守り手が、攻め手よりも有利なものである。


立地の優劣──。


戦国時代の籠城戦を見ているかぎり、歴史的にも高いところを陣取った軍のほうが有利となっている。


この法則は、遥か戦国時代から近代科学を有する現代の戦場でも変わらない。


上を取ってるほうが有利──。


即ち、高い位置に居る俺のほうが勝てる可能性は高いんだ!


きっとそうだ!


勝てるぞ、俺!!


頑張れ、俺!!


ってな感じで、自分に言い聞かせました。


俺、死ぬ気で頑張ります!


死にたくはないからね。



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