1-11【高低差の戦い】
「こいつら、殺る気満々だな……」
怒り狂ったような怖い形相でコボルト二匹が俺に向かって岩場の坂を駆け登って来る。
二匹とも手にはショートソードを握っていた。
刀身は錆び付いて刃がところどころへこむように欠けている。
ナマクラっぽいショートソードだが、俺が持っているボーンクラブよりはましな武器だろう。
俺は自分が持っているボーンクラブを横目でチラリと見てから呟いた。
「こんなんで戦えるかな……」
自信が持てない。
骨と鉄……。
ぶつかり合ったら勝負が見えている。
唾競り合いすら出来ないぞ。
でも、戦うしかない。
牙を剥いた相手は殺る気満々なんですもの。
俺も生き残るために戦わなくてはならない。
あいつらは俺を殺す気満々なのだ。
ならば俺も生き残るために全力を尽くすのが筋である。
何せ俺だって生きる気満々なのだ。
しかし、二対一では俺が不利だ。
だが、地形の位置では俺が有利である。
俺のほうが高低差で上を取っているからだ。
しかし、俺が有利なのは地形の位置だけだった。
ならば、それなりの戦いかたを取るしかないだろう。
「これが使えそうだな───」
俺は足元の岩をチラリと見た。
サッカーボールサイズの岩である。
「よし、これでも食らえ!」
俺は早くも地の利を生かして攻撃を仕掛ける。
「ていっ!」
そして、足元にあったサッカーボールぐらいの岩を蹴り落としたのだ。
まずは牽制攻撃である。
「行け!」
岩は景気良く転がった。
コボルト目掛けて岩が、ゴロンゴロンと転がり落ちて行く。
ゴツゴツした岩場のせいでランダムに跳ね上がって転がって行く岩の玉がコボルトを狙う。
これは牽制攻撃としては有効だろう。
コボルトは転がり来る岩を恐れて足を止めていたが、そのコボルトの脛に岩がジャストミートする。
バゴンっと生々しいぐらいの鈍い音が響く。
「牽制の積もりがクリーンヒットしちゃったよ。ラッキー!」
すると犬野郎は「キャン!」と叫んで前のめりに倒れ込んだ。
そのまま脛を押さえて踞る。
効いているぞ。
しかし、残りの一匹は俺の元までたどり着いた。
闇雲にショートソードを振るって来るが、狙いは脚ばかり。
高低差のために下半身にしか攻撃が届かないのだ。
「ガルッ、ガルッ!」
「よっ、よっ!」
繰り返されるコボルトの攻撃を、俺は容易く避けてまわる。
脚にしか届かないのだ、回避も容易い。
何せ片足を引くだけで攻撃を躱せるのだ。
そして俺も隙を見てボーンクラブで攻撃を仕掛ける。
ここでも高低差の有利が発揮された。
俺の攻撃は、コボルトとは対照的に、敵の頭ばかりを狙えた。
俺の下半身しか狙えないコボルトとは違って、俺の攻撃はすべてコボルトの頭だけを狙えたのだ。
完全に地の利が有利に働いている。
「それ、それっ!」
「ガル、ガルッ!」
俺が何回か攻撃を繰り出すと、二回だけコボルトの頭をボーンクラブでポカリポカリと叩けた。
しかし、どつかれたコボルトも怯んではいるが、致命傷にはなっていないのが表情から分かった。
ダメージが軽い。
所詮は骨の棍棒だ。
重さが少なく軽いせいか攻撃力が低いのだろう。
そして、ボーンクラブの三発目が敵の脳天にゴチンっと命中すると、コボルトが表情をしかめてよろめいた。
今度は効いたらしい。
コボルトがグラリと一歩退く。
その隙を俺は見逃さなかった。
「とーーーりゃ!」
俺はコボルトの顔面に長くてスマートな足をいかしてトーキックをぶち込んでやる。
「キャン!」
すると俺の爪先がコボルトの鼻先を突き飛ばすように蹴り飛ばした。
コボルトの頭は俺の腰の高さにあったから、身体の柔軟性が低い俺でも難なくコボルトの顔面を蹴れたのだ。
蹴られたコボルトは顔を押さえながら後方に倒れると、岩場の坂をゴロゴロと転がって行ってしまう。
そして、先程まで村を隠れながら見ていた大岩に、後頭部から激突して動かなくなる。
派手な音が俺のところまで届いていた。
「うわ~、痛そ~」
それから俺はしばらく転がり落ちたコボルトの様子を伺っていたが、コボルトはピクリとも動かなかった。
グッタリと俯きながら大股を開いて座り込んでいる。
「気絶したのかな?」
俺はゆっくりと坂を下る。
最初に転がる岩に脛をぶつけたコボルトは、まだ片足の脛を押さえながら倒れていた。
そのコボルトの元に俺は歩み寄る。
そいつは脛を両手で押さえながら、いまだに痛みに踞っていた。
苦しそうにガルガルと呻いて体を震わせている。
コボルトは足が相当に痛いのだろうか、俺が歩み寄ったことにすら気付いていない。
「うわ、変な方向にまがってる……」
どうやら足が折れて動けないようだった。
よくよく見てみると右足の脛から変な方向に曲がってやがる。
間接が一つ増えたかのようにくの字に曲がっていた。
もう、これだと立てないだろう。
残酷だと思ったが、俺はコボルトに止めを刺そうと、ボーンクラブで頭を狙って思いっきり強打を狙う。
「介錯でござる!」
自分の頭よりも高く振りかぶったボーンクラブを両手で力一杯に振り下ろす。
そして、俺が振り下ろしたボーンクラブの先端がコボルトの頭部を打ち叩いた。
でも───。
ボギっ!!
「ぁぁぁあああああ!!!」
ボーンクラブ+3が折れた!
フローネちゃんかレベッカさんの足が折れた!
ポッキリ折れただけでなく、叩いた先端は砕け散っていた。
「おーれーのー、ボーーーーンクラブがーーー!!!」
ボーンクラブが要らなくなったら呪いのパンティーと一緒に埋葬してやるって約束したのにさ!!!
その時であった。
【おめでとうございます。レベル3になりました!】
レベルが上がっちゃったよ!
「めでたくねぇぇええよっ。俺の主戦力のボーンクラブ+3を返しやがれ!」
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