第12話 勇者を守る、村人A

 勇者はずっと、一人で戦っている。


 じゃあ、勇者を守ってくれる人は?


 ボクの中で、その疑問が膨らんでいった。


 実際のシルバー・ソニックと出会ったことで、ボクは確信する。


 やはり、勇者は孤独だったのだと。


 だから、ボクが勇者を守る。


「お前のような非力な村人なんぞに、なにができる?」


 腕を失って虫の息になりながらも、アークデーモンは余裕の表情を崩さない。聖剣で斬られて、再生能力さえ使えないというのに。


 実際にそうだ。アークデーモンの腕を切り落とした時点で、ボクは魔力が尽きかけていた。あと一撃、食らわせることができるかどうかだろう。


 正確に狙わなければならない。それでも勝てなければ、世界が終わる。


 もっと確実に、目の前にいる魔物を倒すには。


「聖剣を渡せ。それはお前には過ぎた代物だ。それは我々魔族が処分する」


 なるほど。魔王は、聖剣が怖いのか。


 シルヴィ先生は動けない。なんとしても、この場を切り抜けないと。


 手段なんか、考えている余裕はない。


「お前には、これが必要なんだろ?」


 ボクは、聖剣をアークデーモンに見せつけた。


「聖剣は、渡す! 勇者を開放しろ!」


「何を言うんだフィオ! 聖剣がなくなれば、世界は魔王に支配されてしまう!」


 シルヴィ先生の言葉を背に受けて、ボクは振り返る。


 先生は、ボクが何かを企んでいることを悟ったようだ。しかし、言葉には出さない。


「殊勝な心がけだ。命だけは助けてやろう」


 アークデーモンが、聖剣に手を伸ばす。


「いけ、ブラオ!」


 ボクは、「聖剣から」ブラオを召喚した。


 魔剣から呼び出せるなら、聖剣でもできるはずだ。


 そう確信して、ボクは試したのである。


「な、なんだこれは!?」


 アークデーモンが、うろたえた。


 聖剣から召喚されたブラオは、体毛こそ青いが、大きさが計り知れない。等の屋上にすら収まりきらない。天使のような羽さえ生えていた。


「おのれ!」


 半狂乱気味に、アークデーモンは魔法をブラオに放つ。


 だが、ブラオには傷一つつかない。


 ブラオの肉球つきの前足が、アークデーモンを掴む。


「やめろおおおお!」


 バカでかいブラオが、アークデーモンをパクっと食べてしまった。


 塔が姿を消して、禍々しい魔力は霧散していく。


 魔王は、今度こそ倒されたのだ。


 倒したのは、ブラオだけど。


「よくやったな。フィオ」


「そんな。やったのはブラオですよ」


「いや。お前の魔力は、それだけ大きくなっていたのだ」


 危機は去ったはずなのに、シルヴィ先生は起き上がってこない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る