第11話 ボクが強くなりたかったのは

 シルヴィ先生は以前、仲間の足を引っ張って自滅した街娘の話してくれた。


「まさか、その話って」


「わたしのことだ。今でもその街娘は、のうのうと生きているよ。仲間の死を悼んで、贖罪の旅をしている」


 ボクの話を肯定し、シルヴィ先生は悲しげな顔をする。


「勇者の資格を持たぬお前は、勇者の聖剣をムリヤリ扱っている。そのために、身体はボロボロのはずだ。今魔王を復活させたら、お前はどうなるかな?」


 ローブが弾け、術士が魔物としての姿を表す。


「我は、魔王様より力の一部をいただいている。一筋縄ではいかぬぞ!」


 鳥と猿が合わさったような怪物に、シルヴィ先生は剣を向けた。


 怪物のツメと、先生の剣がぶつかり合う。


「フィオ、お前は姫を守れ!」


「はい!」


 先生が戦ってくれている間に、祭壇からヴァンダ姫を開放する。


「ありがとうございます」


「いいから早く逃げて! ブラオ、姫様を守って!」


 ブラオに指示を出す。


「くそ、あと少しだったものを!」


「魔王は復活させぬ!」


 魔物と戦う先生の姿は、とても勇者の資格がない街のお嬢さんには見えない。


 ボクは、先生を見ているしかなかった。加勢できない。


 先生はかつて、愚かな街娘の話を教えてくれた。


 そのお嬢さんは、自分の街を焼いた魔王たちに復讐するために、勇者から剣術を学んだ。


 カトラリーより重いものを持ったことがなかったが、お嬢さんは気合と執念で乗り切ったという。


 だが、強くなりすぎた。そのため先行しすぎてパーティを半壊させてしまう事態に。


 お嬢さんはパーティを抜けたと先生は話していたけど、それは全部先生のことだったんだ。


「ぐう!」


 先生の剣が、飛んでいく。


 ボクの足元に、剣が突き刺さった。


「やはりな! 勇者でもないのにムリをして、聖剣なんぞを振るうからだ!」


 魔物は先生を煽っているが、先生は徒手空拳でも十分に強い。


 それでも、本気を出したアークデーモンは先生の力を上回る。


 先生がボロボロだというのは、本当のようだ。


「しぶとい! あのとき、おとなしく死んでおればよかったのだ!」


 アークデーモンの手刀が、先生の心臓を射抜こうとした。 


「先生は、勇者だ!」


 ボクは聖剣を抜き、アークデーモンの腕を切り落とす。


「なにい?」


「たしかに、先生は勇者としての適合力はないかもしれない。でも、人は誰だって強くなれるんだ!」


 それは、ボクが一番よく知っている。


「勇者は一人ぼっちだって、親から聞いた。全部一人で背負っているって」


 勇者の話を親から聞かされるたびに、ボクは勇者に対する思いが強くなった。


「貴様も、勇者にあこがれて強くなろうとした無謀なものか?」


「違う。ボクが身体を鍛えていたのは、そんな一人ぼっちの勇者を守るためだ!」

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