第10話 悪党の塔を攻略せよ

 イザーク王子に化けていた術士と、さらわれたヴァンダ姫が、塔の中に吸い込まれていく。


 塔には特殊な障壁が張られていて、直接外壁をよじ登れなくなっていた。


「先生。どうしましょう?」


「焦るなフィオ。見ろ」


 幸い、入り口は開いている。シルヴィ先生によると、これほど巨大な塔は、どうしても入り口は開けておく必要があるらしい。魔力の流れを循環させるために、必要なのだとか。


「仕方ない。内側から入ることにするか」


 シルヴィ先生を先頭に、ボクたちは塔の中へ。


 さっそく、魔物たちがお出ましだ。


「ブラオ、手伝って」


「にゃーん」


 ボクはブラオを召喚したまま、魔物たちを迎え撃つ。


「召喚術を継続していたら、魔力を半分持っていかれるぞ。フィオ、いいのか?」


「構いません。手早く手下を片付ける方がいいです」


 とにかく、今は時間がない。どんな手を使っても、先へ進む。


「にゃーん」


 攻撃がねこパンチだけなのに、ブラオが一番敵を倒していた。ねこパンチを振り回すたびに、炎やら風やらの魔法を巻き起こす。いくらボクたちより大きくなっているからといって、強すぎるような気が。


「強い。追い抜かれそうです」


「いや違う。これは本来、お前がこなせるはずだった攻撃だからな。ネコの強さは、お前の強さだ」


 ボクが強くなれば、ボクのペットであるブラオも強くなる。おまけに、触媒である魔剣も強化してきた。それだけの理屈だと、シルヴィ先生は笑う。


 それにしても、強すぎじゃない?


 ボクの感想を知ってか知らずか、ブラオはサソリ型モンスターを頭からかじっている。モンスターを食べて、自分のエネルギーに変換しているんだって。


「でもブラオって元々、術士の召還獣なんですよね? 元の凶暴なモンスターに戻ったりは」


「しない。お前に名前をもらっているからな」


 術士に召喚されている状態では、ブラオは名無しの召還獣だった。相手の魔力だけを、食わせてもらっていた程度の関係である。今ではボクが専属で世話をしているから、信頼関係を結べているという。


「お前が死ぬまで、お前に付き従うだろう。よきパートナーを持ったな」


「わかりました。一緒に姫を助け出そう、ブラオ」


 ブラオもボクの言葉がわかるのか、「にゃーん」と返してきた。


 塔の最上階まで、到達する。


 祭壇の上に、ヴァンダ姫は眠らされていた。


 でも、魔王はまだ復活している様子はない。なんとか、間に合ったようである。


「このアークデーモンの塔を、攻略するとは」


「こんなシケた塔など、どれだけ攻め落としてきたか」


 シルヴィ先生が、余裕の顔を見せた。


「フン! 何が勇者だ。元は街娘だろうが!」


 え、そうだったの?


「本物の勇者は、お前をかばって死んだではないか」


 ウソだ。勇者シルバー・ソニックが、とっくに死んでいたなんて。


「デタラメを言うな! シルヴィ先生は本物の勇者だ! ですよね?」


「ヤツの言ったことは、本当だ。わたしは、本物のシルバー・ソニックではない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る