第8話 ソロで護衛任務

 今日は、ヴァンダ姫の公務が行われる。王都で演説だ。


 馬車の護衛は、滞りなく済んだ。ボクらが、ダンジョンを潰して回ったためだろう。


「では、よろしくおねがいします。フィオさん」


「こちらこそ。がんばってくださいね」


 念のため、召還獣のブラオをこっそりそばに置いた。ボクとブラオの二重の目で、敵を探す。


 シルヴィ先生は、まだダンジョンを探索中だ。


 野盗たちは尋問の際に、「演説の時を狙うと言われていた」と話している。だが、具体的な襲撃方法は聞いていないらしい。


 彼らはおとりだったのでは、と、先生は分析した。ダンジョンにまだ手がかりがあるかもしれないと、引き続き調査を進めている。


 あの魔術師に、ボクは勝てるだろうか? 先生でさえ逃してしまった相手に、どう立ち向かえば。


 演説は、戦災孤児へ寄付を募る内容だ。


「以上です。ありがとうございました」


 無事に、演説が終わったみたいである。


 拍手の中、ヴァンダ姫が壇上を降りようとしていたときだった。


「にゃあーん」


 姫の足元にいたブラオが、会場に響き渡るほどの鳴き声を上げる。


 ボクを含めて、会場の人たちが全員耳をふさいだ。


 ただ一人、直立不動の人間がいる。あの魔術師だ。灰色のフードを目深に被り、素顔が見えない。


「例のあいつです! みんな下がって!」


 ボクは大盾を構えて姫を守りつつ、術士を警戒する。


「曲者!」


 三人の護衛が、魔術師を取り押さえにかかった。


 だが、術士は何もしない。杖でカン、と地面を叩く。


 剣士の一人が、血を吹き出して倒れた。あれはかまいたち、風の魔法か。


 巨漢が、術士にハンマーを振り下ろす。


 だがハンマーは、術士の手前で止まった。支柱も折れ曲がっている。


 術士が放った氷の矢で、巨漢は串刺しに。


 残った魔法使いが、術士の魔法を封じようと呪文を唱える。


 術士は呪いを反射し、相手のノドを締め上げた。


 呼吸ができなくなり、魔法使いは絶命する。


 いずれも手練のはずなのに、一瞬で倒してしまった。


 迷わず、術士がヴァンダ姫に襲いかかる。


 術士の放つ魔法を、ボクは大盾で防ぐ。これでは、攻撃ができない。


「にゃーん」


 ブラオが、術士に飛びかかった。


 術士が、炎の矢を飛ばす。


 まともに命中するかと思いきや、なんとブラオは矢を足場にして軌道を変える。


 ブラオは敵のフードに、爪を立てた。


「くっ」


 若い男性の声で、術士がうめく。


 また、姿を消してしまった。


 ブラオの前足に、血がついている。ケガをしたのかと思ったが、敵の頬を引っ掻いた跡だった。


「よくやった。えらいぞ」


 ボクが頭をなでると、ブラオは「にゃーん」と鳴く。


「ありがとうございます。フィオさん」


「いえ。お礼なら、ブラオに言ってあげてください」


「はい。よくがんばりましたね。ブラオちゃん」


 ヴァンダ姫が、ブラオの首筋をくすぐった。


 ブラオがゴロゴロとノドを鳴らす。




 夜は、王都でパーティとなった。ボクも護衛を担当するため、燕尾服で側に仕える。さすがに、ブラオは連れていない。魔剣の中で眠ってもらっている。


「姫。ヴァンダ姫。よくご無事で」


 背の高い男性が、ヴァンダ姫に近づいてきた。


「イザーク王子。お気遣いありがとうございます」


 ヴァンダ姫が、王子とあいさつをかわす。


 バルトザロの隣にあるミュルロー国の王子で、ヴァンダ姫の婚約者だという。


「キミが守ってくれたんだってね。ありがとう、少年」


 ボクにさえ気兼ねなく話しかけてきて、イザーク王子には嫌味がない。が……。


「お顔の傷は、どうされたので?」


「ああ、ちょっと魔物に襲撃されてね」


 イザーク王子が、頬を掻く。


「大事ないですか?」


「ああ。気にしないで。それより、少し夜風に当たらないか? 人混みは苦手なんだ」


「ご一緒します」


 姫とイザーク王子が、二人だけでテラスまで向かおうとしていたときだった。 


「イザーク王子、姫の襲撃犯はお前だ!」


 シルヴィ先生が、窓から現れたのである。

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