第7話 付近のダンジョン攻略

 今から二週間後の公務において、ボクがヴァンダ姫のボディガードを勤めることになった。


「ムリですよ、シルヴィ先生。一人でヴァンダ姫様を護衛なんて!」


「いいんだ、フィオ。いつまでも、わたしにオンブに抱っこというわけにはいかん。ソロでも戦えるようになっておけ。護衛がいる状態で」


 半ば強引に、ボクは護衛を任されてしまう。


「おそらく、この付近にあるダンジョンは複数だ。人工的な仕掛けも施されているだろう。まず我々は、そこを潰す」


「はい。そういう任務ならお安い御用です」


 魔剣の召還獣を、鍛える必要がある。ひとまず付近の安全を確保するため、ダンジョン攻略を優先した。


「召還獣って、ずっと出しておく必要があるのでしょう、かっ?」


 ダンジョン内のモンスターを撃退しながら、シルヴィ先生に尋ねる。


「ないぞ。お前が強くなれば、勝手に召還獣も強くなっていく」


「わかりました。てや!」


 数日かけてダンジョンに潜り、ボクは魔物を蹴散らしていった。しかし、経験値は魔剣にも吸われているようだ。先生を含めて、三等分となる。つまりボクは、三倍がんばらないと。


 戦ってみてわかったが、トドメを刺した者が、優先的に経験値ボーナスを貰えるようだ。ならば。


 ボクは魔剣から、召還獣を出す。


「ブラオ、ファイアボールだ!」


「にゃーん」


 召還獣が、火炎弾を放つ。


 ボクはコイツに、【ブラオ】と名前を付けた。


「フィオ、自分の経験値の取り分が減るが、いいのか?」


「いいんです。この子には、死んでほしくないので」


「死にはしないぞ。元の世界に帰るだけだ。傷も元に戻る」


「そうなんですね? でも、戦力は多いほうがいいので」


 名付けただけで、ブラオはやたら強くなっている。身体は小さいままだが。


「いい素材が落ちたぞ」


 貴重な魔法石が見つかったので、バルトザロの街に持ち帰った。ブッシュバウム伯に紹介状を書いてもらい、鍛冶屋に魔法石を見せる。


「いい素材を見つけたね」


 魔法石は、魔剣のパワーアップに使う。刀身に魔法石を混ぜて、より強度のある剣へと鍛え直す。


 魔剣がショートソードから、ロングソードへと変わった。戦法も片手剣と盾のスタイルから、ロングソードのみで攻防できるように変える。


「段々と、まともに戦えるようになってきたな」


「ありがとうございます。でも護衛のときは、ショートソードと大型の盾でカバーしようかと思います」


「うむ。いい判断だな」


 シルヴィ先生が、ダンジョンの壁をしきりに気にしていた。


「それにしても妙だな。二つほどダンジョンを潰しているが、敵が代わり映えしない」


「たしかに、変ですね?」


 さっきから倒しているモンスターは、イモムシやモグラなどばかりだ。


「敵のアジトでもなさそうだ。なんの仕掛けがあるのか」



「にゃおーん」



 ブラオがボクの足をかき分けて、壁の匂いをかぎ始める。カリカリと、壁で爪とぎを始めた。


 やがて、ボコッと壁に穴が開く。


「見てください。一度掘って、埋めた跡がありますね」


「なるほど。このダンジョンは、全部繋がっているのか」


 分散して攻略させるように、わざと道を閉ざしたようだ。


「でかしたぞブラオ」


 ボクは、ブラオをなでる。


「思っているより入り組んでいるようだな。しかし、仕組みはわかった」


 シルヴィ先生は、壁を蹴破った。一気に突入する。


 案の定、野盗共のアジトにたどり着く。


「げえっ、どうしてここがっ!?」


「構わねえ! やっちま――」


 不意をつかれつつも、野盗たちが構えた。


 先生が、銀色の風となる。


 野盗たちは、自分たちが倒されたことすらわからなかっただろう。


「すまんな。手早く仕留めさせてもらった」


「いいんです」


 アジトの中には、囚えられている人たちがたくさんいた。


 その後、ボクたちは応援を呼んだ。兵隊や他の冒険者に頼んで、野盗たちを連行してもらう。


「フィオさん、シルヴィさん、ありがとうございます」


「よかったです。これで安心して、公務に望めますね」


「だといいのだがな」


 やはり、先生は気になっているみたいだ。


 捕まえた野盗の中に、例の魔術師がいないことが。

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