第6話 貴族からの依頼

 ボクの困惑を知ってか知らずか、召還獣のネコはあくび混じりで炎を吐く。威力は温風程度で、草さえ焼き払えやしない。


「アッハハ! 召還獣の姿は使い手の精神を反映させるってのは、本当なんだな!」


「笑わないでくださいよ、シルヴィ先生っ」


 ボクは先生に詰め寄ろうとした。しかし、青いネコがボクの胸に飛び込んでくる。


「すまんすまん。フィオはきっと、優しい子なんだって、こいつもわかったんだろう。大事にしろよ」


 だといいが。青ネコの頭をなでながら、ボクはふてくされる。


「あの、危ないところをありがとうございます」


 そうだった。貴族様を助けたんだよね。


「私は、ヴェンデルガルト・ブッシュバウムと言います。この近くにある小国、バルトザロの王女です。ヴァンダとお呼びください」


「わたしはシルヴィ。旅の者だ」


 ボクも、「弟子の、フィオです」と、先生にならう。


「バルトザロか。あそこの伯爵には、世話になった」


 先生は、身分を明かした。知り合いだからと。


「父をご存知なのですね? 私はその伯爵の娘です。よろしければ、お屋敷までどうぞ」


 お礼がしたいので、屋敷まで来てほしいとのこと。


「どうしましょう、先生?」


「ありがたくお受けしよう。バルトザロの伯爵にも、わたしの無事を話しておきたい」


 ヴァンダ姫の馬車に、乗せてもらう。歩き通しだったから、実に楽ちんだ。後ろの荷馬車に、戦死者のご遺体を乗せていなかったらだけど。


「どうして襲われていた? といっても、金目のもの以外で見当はつかないが」


「私をさらいに来たのです」


 どうも、魔物がこのあたりにダンジョンを作って、魔王復活の儀式をしようとしているらしい。


「それに、空の荷馬車も連れているではないか」


「公務で帰還中のところを、襲われました」


 戦災孤児に、物資と寄付金を渡しに行った帰りだそうだ。マジメな人なんだな。


「だから、荷馬車を連れていたのか」


「あさはかでした。父は危ないから自分が行くと言ってくれましたが、子どもたちは私を待ってくれているので」


「いや。あなたの行いは立派だ。また公務があれば、わたしたちを呼べばよい。護衛になろう」


「ありがとうございます。どの道を通っても野盗たちに遭遇するので、王都どころか各国との流通ルートも確保できず」


 話を聞きながら、先生は「なるほど」と、アゴに手を当てた。


「そうやって、バルトザロを疲弊させようとしているのだろう。魔物がやりそうな手口だ」


 会話の途中で、小国バルトザロに到着した。


 お屋敷は目立つところにあって、遠くからでもよく見える。


「おお、よく無事で……とはいかなかったようだな」


 伯爵は娘に大事がないことを喜んだが、そのために犠牲者が出たことに表情を変えた。


「こちらの方たちが、助けて下さいました」


「お主は、シルバー・ソニックか! ささ、入ってくれ!」


 伯爵に招かれ、豪華な食事にありつく。


「まずは、娘のために戦ってくれて礼を言う。少ないが取っておいてくれ」


 少ないなんてとんでもない。数年は遊んで暮らせるほどの額を、伯爵からいただいた。


「生活費と弟子の装備代だけ受け取って、あとは別の依頼に回そう」


 大量の金貨から、シルヴィ先生は数枚だけを抜き取る。


「気づいていたか」


「ああ。こんな額は、おそらく前金だろ?」


「まったく、シルバー・ソニックにはかなわん。そのとおりだ。魔物たちのダンジョンを、探し出してほしい。見つけてくれたら、我々で対処する」


「いや。ダンジョンもろともわたしたちに任せてもらいたい」


 先生は、ダンジョン攻略もすべて自分たちで行うという。


「そこまで、世話にはなれない」


「なっておいた方がいい。で、この金で兵隊を増強して、姫を守れ」


 袋に入ったお金を、先生は伯爵に返した。


「ダンジョンなら、わたしが潰しに行こう。姫には、我が弟子を護衛に付ける。姫よ、安心なさい」


 そうそう姫様。安心なさってってええええええええーっ!?

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