第5話 襲われている貴族の馬車の救出は定番イベント

「フィオ、危なくなったらいつでも帰っておいで」


「ありがとう、おじさん。いってきます」


 村長である宿屋のおじさんに別れのあいさつを済ませて、ボクとシルヴィ先生は故郷の村を後にする。


「慕われていたんだな」


 一日目のキャンプで、シルヴィ先生がウサギ肉を振る舞ってくれた。ザッと切ってバッと炙っただけの料理である。なのにしっかり下ごしらえをしていて、おいしい。先生は、「肉質がいいだけ」と照れていたけど。


「雑用係として、ですよね」


「そんな応対ではなかった。フィオは村で大事に育ててもらっていたんだと思ったよ」


 だとしたら、うれしい。


「ああ、やっぱりフィオの料理のほうがうまい。キャンプめしすらうまいとか反則だろ。わたしの妻になれよ」


「ボクは、男ですよ。それに、シルヴィさんの料理、ボクは好きです」


 シルヴィ先生が焼いてくれたウサギの後ろ足に、ボクはかじりつく。


「ありがとう。でもなあ。ロクな花嫁修業もせずに、冒険者になってしまったからな」


 先生が、お酒を呑む。


「花嫁?」


「ああ。わたしは商家の生まれだったんだ」


 故郷の街を魔王に焼かれて、復讐のために冒険者となった。魔王の攻撃によって、仲間は全滅してしまったという。


「わたしだけが、生き残ってしまったんだ。遺族になんと言えばいいのか」


 それで、一人で旅をすることにしたらしい。



 三日目、もうすぐ次の街が見えてくる辺りで、事件は起きた。


「お、おあつらえむきのイベントではないか」


 貴族風の馬車が、野盗に追われている。


「フィオ、やってみせろ」


 これまで魔物やダンジョンは攻略してきたが、人間と戦ったことはない。


「相手は何人か殺している。やってしまっていいだろう」


 懲らしめる程度にセーブする必要はないと、先生から助言が来た。「殺すつもりで挑まないと、殺されるぞ」と。


 事実、馬車の周りには複数の死体が転がっていた。


 手の震えを抑えつつ、ボクは装備を握りしめる。


「んだこのガキは? ぶっ殺せ!」


「ソニック・ブレード!」


 勇者シルヴェーヌの得意とするスキルを、発動させた。足に風の魔法を施して速度を全身の速度をアップさせ、電流を帯びた剣を相手に叩き込む。


 三人は斬り捨てた。腕力による力比べでは、勝てっこない。奇襲による瞬殺しか方法がなかった。


 しかし、最後の一人で遮られる。こいつだけ、服装が野盗風ではない。術士か?


「まだこんな手練がいたか!」


 妖術士は、四本脚の魔物を召喚した。自分はさっと逃げていく。


 剣を抜き、シルヴィ先生が術士を斬ろうとした。


 が、足元の魔方陣から、術士はパッといなくなってしまう。


 目の前のモンスターを倒そう。


「ソニック・ブレード!」


 獣のような姿の相手には、このスキルが役立つ。

 体捌きだけでも、人間は獣タイプのモンスターには敵わない。消耗は激しいが、早く動いてスキを作らないと。


 一瞬だけ、ボクは動きを止める。「わざと」ヒザをついてみた。


 猛獣が、好機と見ている。噛みつきのために、魔物がタックルを仕掛けてきた。ここだ。


「ライトニング・アローッ!」


 矢をあてがうように、剣を構える。ヒザをついたのは、攻撃の助走をつけるため。


 魔物が口を開けたタイミングを狙って、魔物の口に向かって剣を突き刺す。


 断末魔の叫びを上げて、魔物は消滅した。


 ボクの剣は、刀身がドロドロに溶けてしまう。


「ごめんなさい。武器をダメにしました」


「ちょうどいいじゃないか。こいつを、ありがたく使わせてもらおう」


 カランカラン、と、魔物が武器をドロップする。


「どうやら、この武器を触媒にして魔物を召喚していたようだな」


 この剣は【魔剣】の類になるらしい。ボクが使っていた【魔法剣】の、数倍の威力があるという。


「あのモンスターも召喚できよう」


「へえ。やってみます。おりゃ」


 ボクは、剣を突き出す。


 ポン、という間の抜けた音とともに、青いネコみたいなモンスターが出現した。

 鳴き声まで「にゃあ」だし……。

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