第2話 弟子一号、奮闘します

 ボクの冒険者登録は、あっさり終了する。規定年齢である一五歳になったから、当たり前なんだけど。


 それでも村のみんなは、「ガキに何ができる」と陰口を叩くけど。


「いいか、フィオ。手始めに、あのダンジョンを攻略しようか」


「はい。シルヴェーヌ先生」


「シルヴィでいい」


「は、はい。シルヴィ先生」


 シルヴィ先生に案内されたのは、最近できたという例のダンジョンだ。


 ダンジョンとは、そこらじゅうの悪い気配が集まってモンスター化して、巣を作ってしまう現象のことをいう。

 放置しておくと、次々と強いモンスターが棲み着く。ダンジョンのコアを破壊しない限り。


 冒険者は、ダンジョンを浄化する役目を持っているのだ。


 魔王が去ったとはいえ、その残滓はまだ消えない。


「いきなりですか? 死んじゃわないですか?」


「誰かを守るんじゃないのか?」


 とにかく、潜りなさいとのことだ。


 だよね。ここでへこたれてなんか、いられない。


「装備は貸してやる」


 ボクは、ショートソードとシールド、胸当てにシューズを与えられた。鉄製で小型ながら、そこそこの威力はありそうだ。


 ダンジョンに入ると、さっそくスライムの大群が。


「武器にスキルを振ってある。攻撃してみろ」


「はい。そりゃ!」


 ボクは剣を、横に振るった。


 刃から炎の衝撃波が飛んでいき、スライムたちを焼き尽くす。


「やりました。スライムがあっという間に全滅しました」 


 喜んだのも束の間、ボクはガクッとヒザから崩れ落ちた。


「魔力を使い果たしたんだ。ほれ」


 シルヴィ先生が、ポーションをくれる。


 一気に飲み干すと、魔力が回復した。


「ありがとうございます」


 レベルも上がったみたいだ。さっきの魔法がなくても、弱いモンスターの群れくらいならなんとかなりそうである。


「なんだか、強くなった気がします」


「経験値が増えたんだ」


 経験値とは、倒した魔物の魔力をいう。魔物の遺した魔力の一部は、倒した相手の力となるのだ。


 そうやってモンスターを倒して、冒険者は強くなっていく。


 人智を超えた力を得ることも、冒険者なら可能だ。

 相手の力を奪うから、強くなるのに年齢も関係ない。とはいえ、寿命には勝てないが。


「ホントはこういったサポート付きの品物より、ちゃんと身体を鍛えて身の丈に合った物を身につける方がいい」


「はい」


 ボクは、肩を落とす。


「とはいえ、わたしについて来たいなら、それなりに強くなってもらう必要がある」


「わかりました」


「まずは、その装備に慣れろ。動きは、そいつが教えてくれる」


 ダンジョンを潜る。


 先生は、ボクを見守るだけ。戦闘には参加しない。


「どうして戦わないんです?」


「戦ってはいないが、パーティを組んでいるわたしにも少しだけ経験値が入る」


 分け前が減れば、レベルを上げるための戦闘が増える。


「パワーレベリング、の逆ですね?」


 レベルの高いパーティと組んで、強い魔物を倒して経験値の分け前をもらう行為を、パワーレベリングという。


「飲み込みが早いな。かつて、パワーレベリングで強くなった小娘がいた。そいつは戦闘経験が足らなかった。パーティに頼りきりだったにも関わらず、自分の強さを過信した」


 結果、そのパーティは半壊してしまった。


「その少女は、どうなったんです?」


「さあな。引退してくれていたらいいけどな。それか、どこかで野垂れ死んでいくれていれば。自分の犯した罪の重さもわからずに」


 シルヴィ先生が、冷たく言い放つ。


「だからわたしは、パワーレベリングはやらない。素の強さを重視する」


「はい」


 ボクは早々と、装備を変えた。ゴブリンが落とした棍棒とヨロイに切り替える。


 眼前に、ゴブリンの集団が現れた。その数は、五〇匹を超える。


 武器が弱体化したから、敵は完全に油断しきっていた。


 剣の衝撃波なんか、なくていい。ゴブリン程度なら、軽く叩きのめす。


「やりました」


「油断するな。大物が来るぞ」


 ダンジョンのコアの前まで来た。


 コアの前に居座るモンスターを倒せば、ダンジョンを破壊できる。


 だがそのモンスターは、シルヴィ先生と初めて会ったときに遭遇した巨大ハチ……を頭から食べていた。

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