第3話 ダンジョンボス討伐のため、知恵を絞る
ダンジョンから差し込む陽の光を浴びて、魔物が全貌を現す。一〇メートルくらいのクモだ。こんなヤツが、ダンジョンに。
「うわああああ!」
ボクは思わず、腰が引けてしまう。
「古くからの初心者向けダンジョンを、新顔が占拠したのか。これはいいな。フィオ、やっておしまい」
芝居がかった口調で、勇者シルヴィさんが指示を送る。
「ムチャですよ先生! あんなの勝てっこない!」
人間サイズのハチさえ、ああもお手軽に食べちゃうんだ。
ボクなんて、あっという間に殺されるよ。
「いや。わたしが装備を貸してやる。あれを倒してみせろ。結構なレベルに達するぞ。生きていればの話だが」
「ひいい」
シルヴィ先生って、結構鬼コーチぶりだな。
でも、ボクは強くならなければいけない。なぜなら。
装備品を借りて、ボクは立ち向かう。
「ギャイン!」
前足に剣を当てた瞬間、弾かれてしまった。カウンターを食らって、ボクのほうが吹っ飛んだのか。
「いつまでも、ゴリ押ししていてはダメだ。相手の弱点を突け。お前ならできる」
そうだ。これからいろんなモンスターと戦うために、戦い方を学ぶんだ。こんなところで、つまづいてなんていられない。
「変に力をつけると、たいていの奴は増長するんだ。しかし、お前は違う。自分が弱いとわかってる。だから力を与えても粋がらないと、わたしは判断した。力は貸す。思う存分やれ」
「はい!」
考えろフィオ、考えるんだ。奴を倒す方法を。
試しに、虫よけの煙玉を炊く。火炎魔法が使えるようになったから、火打ち石なんてもういらない。魔法の使用に慣れるためにも、魔法でできることは魔法を使う。
煙を炊いて相手の視界を潰しつつ、弱い魔法攻撃をクモに当てていく。雷の剣、氷の矢、土の槍など。
よし、あそこだ。頭と胴体の隙間を、しきりに守っている。あれだけデカい身体を維持するために、司令塔である脳は守らないとね。
「ソニックブレード!」
ボクは、勇者お得意のスキルを発動させた。風の魔法を足に集中させて空気の爆発を起こし、雷を帯びた剣で相手を切る。
憧れにしている、勇者の得意技だ。ホントは極振りするつもりだったが、色々と試せ先生にと言われた。スキルレベルは一しか振ってない。これから伸ばしていくつもりだ。
剣が、折れてしまった。敵の装甲に、装備が耐えられなかったのだろう。
でも、これでいい。
勇者シルヴィさんが、加勢に入ろうとする。
「待って。もう終わります」
ボクは敵の脳天に着地した。ここなら、攻撃も来ない。折れた剣を突き刺し、ありったけの魔法スキルを放つ。
エビのようにのけぞって、クモは絶命した。泡を吹いて、地面に頭を叩きつける。
大量の経験値が、ボクの体内に注ぎ込まれる。
ソニックブレードは、攻撃のために使ったんじゃない。移動のために使ったんだ。
「よく、ソニックブレードの使い道がわかったな」
「えへへ……へ?」
急激に、ボクの身体が痺れだす。何が起きたんだ?
答えは、足首にあった。ボクの足に、さっき食べられたハチのトゲが刺さっている。モンスターが倒れたときに、クモの身体を突き破ったんだ。
声も出せないから、治癒魔法も唱えられない。
「待ってろ!」
シルヴィさんが、ボクの足からトゲを抜く。
「あ、先生……」
先生が、ボクの足に噛みついた。ちゅうちゅうと、血を吸う。地面に血を吐き捨てて、アイテムボックスから袋に包んだ薬品を出した。
「後は薬草で」
薬草をすり潰した薬品を塗って、ボクの足に包帯を巻く。
「ありがとうございます」
「礼などいい。立てるか?」
ボクは、勇者に肩を借りる。勇者の肌は、柔らかい。
「今のお前の治癒魔法では、毒までは抜き出せない。ヘタに回復魔法を唱えたら傷がふさがって、毒が出てこなくなるところだった」
「すいません」
戦闘に勝ったのに、ミスをしてしまった。ボクは冒険者失格だ。
「よかった。生きててくれて」
「先生」
「これからも鍛えるからな。死ぬなよ」
「はい」
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