第12話 クライマックス
エイプリルは、そっと両肩を掴まれるのを感じた。
ガブリと首筋に歯を立てられる感触がある。
プツリとエイプリルの中に牙が侵入する。
そして、体を流れる血が、後ろから噛み付く吸血鬼に吸われていく。
……後ろから……?
違和感を覚え、目を開ける。
目の前には、目を見開いて自分の後ろを見つめるポール。そして後ろには……
すっと立ち上がったのは、ジェームズ・アーカーだった。
「クソガキなんて俺の趣味じゃねぇが。背に腹は変えられねえ」
ポキポキと手を鳴らす彼は、先程までぐったりとしていたとは思えないほど力がみなぎっている。
「な、なんで……」
エイプリルが彼に掴みかかろうとするが、くらっとし、足から地面に崩れる。
「貧血だ、無理するな」
ジェームズはエイプリルにそう声をかけ、ポールとの間に割って入るように立ち塞がった。
「ポール警部。ああ、俺はあんたを信頼していたさ。残念だ」
「君も……吸血鬼だったのか……!?」
ポールは、信じられないような表情でジェームズを見ている。
「新米のあんたとは年季が違うぜ。あんたはまるで飢えた犬のようだが、俺はもうちょい美学がある」
昨日エイプリルが言ったフレーズが気に入ったのか、ジェームズは得意げに使った。
「……は、はは、はははは! 君も、私と一緒なら、一緒に人間を襲おうじゃないか! そうだ! 好都合だ!! 君と二人なら、何でもできる!!」
ポール警部は良いことを思い付いたかのように興奮してそう言うが、ジェームズは、ピクリとも表情を動かさない。
「あんたの様な下品な奴を見ると虫酸が走るんだよ」
それを聞いた瞬間に、ポール警部は牙をむき出しにしてジェームズに襲いかかる。
その素早い動きにエイプリルはビクッとする。
「危ない!! ジェームズ!」
しかし、ジェームズはポール警部にカウンターパンチを食らわすと、すぐさま胸ぐらを掴み、持ち上げ、橋の外側にひょいと出す。
「や、止めてくれ!! 警察の仲間じゃないか!!」
出鼻をくじかれたポール警部は喚く。
ジェームズが次に何をするかわからないが、きっと自分に良くないことが起きるに違いない。
ジェームズは、怯えるポール警部の顔をじっくりと見ながら言った。
「俺が刑事になったのは、長い人生の暇つぶしの一つだ。仲間なんていねえよ」
そして、左手でポール警部の胸ぐらを持ち、ポケットから取り出した銀色のナイフを右手で握る。
(純銀製だわ……)
エイプリルはそれを見てすぐにわかった。
純銀は吸血鬼が苦手とするもので、触るだけで激痛だと言うが、ジェームズはしっかりとそのナイフを握りしめ、言った。
「何も、弾丸だけじゃないんだぜ。吸血鬼の弱点は純銀だ。これを食らえば、あんたも終わりだな」
ポール警部は目を見開く。
「や、止めろ……! そ、そんなものを食らったら、ただの人間だって死んでしまうだろ!!」
その言葉に、ジェームズは思わず笑ってしまう。
「こんな時に、常識的なことを言ってんじゃねえ!」
そして、ナイフをポール警部の頭蓋めがけて突き立てると、パッと手を離す。
ポール警部の体からは力が抜け、ポチャリと川に落ち、流れて行った。
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