第3話 住み着くエクソシスト

 エクソシストと言うものがクソの役にも立たない事が分かると、ジェームズ他、警察の面々はエイプリルを無視して捜査を続けることにした。

 なにやらギャーギャー言っていたが、こちらにもこちらの仕事というものがある。


 分かった事がある。


 まず、女性の身元は彼女が持っていた身分証ですぐに割れた。

 ジュリアン・プラット、24歳。

 すぐさま勤め先の会社に警察が向かい、聞き込みを行った。同僚の話によると、受付の仕事をしている明るい女性だったと言う。


 死因は出血多量によるショック死だ。

 暴行された形跡はなく、外傷は首のキズのみ。どのような手を使ったのかは知らないが、そこから血を抜き取っているのは、今までの手口と同様に確実な事実であった。


 犯人の目撃情報、今のところなし。


「最初は山中や市街地から離れた場所での犯行だったが、手慣れてきたのか随分と大胆になっているな」


 ジェームズは隣にいる後輩に向かって呟いた。


「だけど、全身の血を抜くまでの間、誰にも目撃されないなんてありますか? やっぱ、人間じゃない者の仕業なんじゃ……」


 後輩はそう言って、まだ現場をウロウロしているエイプリルをチラリと見た。


「冗談じゃねえよ」


 ジェームズはピシャリとそう言った。


 そうだ、冗談じゃない。

 エクソシストなんて、生涯関わり合いになりたくない人種だ。


 そう思っていると、エイプリルは何故かこちらに向かって歩いて来る。そして言い放ったのだ。


「ねえ、ジェームズ・アーカーってどの人?」


「……俺ですが、何か」


 答えたくはないが、ジェームズは名乗る。

 エイプリルはそうなの、と言ってから恐ろしい事を言い出した。


「ポール警部があなたの家に泊まれって。一人暮らし、2LDKだから」


 何の理由にもなってねえ!


 ジェームズが声にならない悲鳴をあげると、じゃ、よろしくね、と言ってエイプリルはまた調べ始めたのだった。



「何よこのジュース! 腐ってるわ!」


 勝手に取り出したジュースを勝手に飲んだエイプリルは、それを勝手に流しに捨てた。

 赤い飲み物がみるみる流れて行く。


「何してんだよお嬢ちゃん! 勝手に捨てないでくれ! ジュースじゃねえよ! 何年ものだと思ってるんだ!」


 ジェームズが怒っても、空っぽになったビンをゴミ箱にぽいっと捨ててからエイプリルは悪びれる様子もなく言った。


「ジュースだかワインだか知らないけど、変な味がしたんだもの」


 ジェームズは、ビンを燃えるゴミの袋から、資源ゴミの袋に移し替えながら深いため息をつく。


 今日まで真面目に生きてきた。

 何でこんな目に遭わなけりゃならんのだ。


 内心で毒づきながらゴミを片付け終わるとジェームズはソファーで寛いでいるエイプリルに話しかけた。


「なあお嬢ちゃん」


「お嬢ちゃんじゃないわ、エイプリルよ」


 ジェームズはエイプリルを無視して尋ねる。


「お嬢ちゃん、いつまで泊まる気なんだ?」


「いつまでって、決まってるじゃない。吸血鬼を捕まえるまでよ」


 事も無げに、エイプリルは言ったのだった。

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