第5話 動かない身体

「アッシュはどうして記憶が無くなったのでしょうか」


 君はシェルに言われて、思い出そうと頑張るが何も出てこない。

 それでも懸命に思い出そうとしている姿を見てシェルは止めた。


「ごめんなさい。ここまで症状が酷いものとは思いませんでした」


 シェルは申し訳なさそうな顏をしていた。

 君は平気だと頷くが、内心は少し不安になっていた。


 頭の中に思い出せるような記憶がな無い。

 記憶の糸を手繰り寄せても何一つ出てこないのだ。

 少し怖くなり、思い出す行為をしばらくはやめようと思った。



 ◇◇◇◇



 そんなシェルの看護も虚しく、数日経っても君の状態はあまりよくならなかった。シェルは君を心配してくれているのは分かるが、症状の変化のなさに気まずい日々が続いた。

 

 食事をしても身体に行き渡っている感覚がまったくないのだ。

 日々、少しずつ弱っていく自覚はあった。


 ブラウズも久しぶりに帰ってきて君の様子を見に来た。


「大丈夫かアッシュ。あまり良くなっていないとシェルから聞いたのだが」


 君はシェルが一生懸命に自分の世話をしてくれているのを伝えた。

 シェルが頑張っていないと思われないように。


「お父様、どうしましょう。このままだとアッシュが骨だけになるかもしれません」


 シェルの言葉に君はぎょっとする。

 骨だけになった自分を想像して血の気が引いた。


「こらこら、アッシュが青ざめているじゃないか。ただの栄養不足じゃないのか? 今日からは俺も一緒に診るからそれでも変わらなかったら医者に行こうか」


 医者という単語を聞いた途端に、シェルは部屋から逃げるように出て行ってしまった。

 君が不思議そうにシェルの出て行った方を見ていると、ブラウズは苦笑する。


「ああ、シェルは医者が嫌いなんだよ。小さい頃は身体が弱くてな、苦い薬が受け付けないみたいなんだ」

 

 それほどに薬とは苦いものなのだろうか。

 そう考えると君は気が重くなった。

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