第4話 ブラウズの娘

 君が目を覚ますと、ドアの開く音と共に声がする。


「失礼します」


 部屋に入ってきた少女と目が合う。

 歳は12くらいだろうか。

 大人しそうな雰囲気の子が目の前で固まっている。


「起こしてしまいました。ごめんなさい」


 少女は深々と頭を下げている。

 そんなことはないと君は首を振って否定する。


 少女がじっと君を見つめていることに気付いた。

 そういえば少女の名を知らなかった。

 君は少女に名を尋ねると、礼儀正しい返答が返ってくる。


「私はブラウズの娘のシェルと言います。しばらくの間、あなたのお世話をさせていただきます」


 君は自分の名をアッシュだと伝える。

 そしてブラウズから名付けられたことを付け加えた。


「アッシュ……いい名ですね。でも、お父様が……?」


 君は自分の名前も他のことも、何も思い出せないことを伝える。

 シェルは少し驚いた様子だったが納得したようで頷いた。


「ごめんなさい。お父様が急いで出て行ったので、アッシュがどんな状態か分かりませんでした」


 君は気にしていないことを伝え、握手をしようと手を伸ばそうとする。

 手を前に出すこともできずに、動くことはなかった。

 腕に力が入らないのだ。

 頑張って力を入れても少し動くのが精一杯だった。


 シェルが君の様子がおかしいことに気付いて尋ねてくる。


「どうかしましたか?」


 さっきまではスープを飲むことができたはずなのに、今は力が入らなかった。

 腕に力が入らないことを伝えると、シェルは慌てて君の手を取った。


「大丈夫ですか? どこか身体を痛めてしまいましたか?」


 シェルは君の腕を見ると、特定の場所を指で押してくる。

 時には掴んで揉みほぐしてくれ、じんわりと腕が温かくなる。


「こうして、お父様がとても疲れているときは身体も解しています。アッシュの腕は本当に細くて骨を押しているような感じです。腕はどうでしょうか?」


 シェルに解してもらった腕が少しだけ動くようになった。

 君は感謝を伝えると、シェルは笑顔で応えてくれた。

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