第30話

「あれ? もう日が沈んできてるかな。」

「あっ、本当だ!」

私の部屋にあるものや、検索画面を通して、

こちらの世界について話していたら、あっという間に夕暮れ。


もちろん、今日こちらに来たばかりのクルに、

伝えきれていないことは、いくらでもあるし、

まだ学生の身である私自身も、知らないことはきっと多くて、

クルと一緒にいるからこそ、見えてくるものだってあるのだろう。


「じゃあ、そろそろするの?

 さっき言ってたやつ。」

そわそわした様子で、クルが聞いてくる。


「うん、そうしようか!」

手早く準備を整えると、初めてのクルに一つ一つ教えながら、

少し恥ずかしいけれど、着ていたものを脱いでいった。




「うわあ! これが、温かい水浴びなの!?」

「うん、お風呂って言うんだよ。」

少し前に湯船の準備をする時、どういうものか簡単に話すと、

クルはすごく楽しみにしている様子だったので、

ここまであえて見せずにおいたけど、正解だったようだ。


あちらの世界では仕方ないことだけど、

川辺で済ませるか、もしくは水を汲んできて・・・という手段しか無いからね。


「あっ、クル。さっき言った通り、まずはこれで身体を洗ってね。」

「うん! わっ、いい匂い!」

クルが身体中を泡でいっぱいにしながら、楽しそうにしている。


「水がここからいっぱい出てくるなんて、本当に不思議!」

水道の仕組みはさっき教えたばかりだけど、

声を上げながら、洗面器に溜めたお湯を頭からばしゃりとかぶった。

うん、はしゃいでるね・・・クル。



「ふう・・・やっぱり湯船に浸かると落ち着くなあ。」

「あっ・・・これ、すごくいい!」

こういう文化が無い地域の人には、驚かれるという話も聞くけれど、

どうやらクルには適性があったようだ。

二人並んで、のんびりと入浴を楽しむことにする。


「ハルカの体って、すべすべしてるよね。」

まじまじと私のほうを見て、クルが言う。


「えっ・・・そ、そうなの?」

いや、『犬の民』の肌と比較してのことなのは分かるけど、

その言い方は、なんだか嬉しくなってしまう。


「クルの体も、すごく引き締まってて綺麗だよね。

 運動してるんだなって感じがするよ。」

「そ、そう? 嬉しい!」

あれだけ広い草原を毎日駆け回っていれば、

自然とそうなるのかもしれないけど・・・うっすら見える筋肉とか、すごい。

少し触ってみたくなるくらいに。


「その、ハルカ、ちょっと触ってみていい?」

「う、うん・・・私もいい?」

どうやらクルも同じことを考えていたらしい。

普段から移動中に背負ってもらったりしているのに、

こういう場のせいか、なんだか恥ずかしくなってしまう。

いや、結局はお互い、肌を触り合ったりするのだけど・・・



「それじゃあ、おやすみ。」

「うん、おやすみ!」

一日の終わり、二人で干した布団に一緒に入って、眠りにつく。


日中はよく晴れていて、暖かい布団が心地よかったけれど、

気が付いたら二人でくっつきながら寝ていて、

その時間もすごく温かかった。



「ハルカのところ、すっごく楽しかった! また来たいな。」

「うん! まだ紹介できてないものもたくさんあるから、ぜひ来てね!

 私も、クルのところにまた行きたいな。」

「うんっ! いつでも来てね!」


そうは言っても、クルやご両親だって毎日の生活があるし、

私も大学生として、勉強をおろそかにするわけにはいかない。

互いのところを行き来するのは、毎週末・・・

といっても、クルのほうに曜日の概念は無いので、次は5日後に会う約束をした。


「じゃあ、またね!」

「うん、またね!」

手を振り合って、クルがあちらの世界に帰ってゆくのを見守る。

そういえば、これまではずっと私が見送られる側だったから、少し新鮮な気持ちだ。


こんな風に、少しずつ新しいことを知りながら、

私とクルは世界を飛び越えた仲を続けてゆくのだろう。

次に会う日を楽しみにしながら、帰り道を歩き出した。



*****


近況ノートに記載しました通り、次回から週1回程度の更新とさせていただきます。

また、新作も近日公開予定ですので、そちらもお楽しみいただけましたら幸いです。

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