第28話

「ふう・・・ハルカのご飯、美味しかった!」

「クルに楽しんでもらえて良かったよ。」

食事を終えて、簡単に洗い物を済ませ、部屋に戻る。


「ねえ、こちら側の話にはなるけど、

 ずっと遠くのほうまで分かるって言ったら、クルは見てみたい?」

「うん・・・? もし分かるなら、見てみたいな。」

クルがうなずいてくれたので、早速準備に入る。

さっきから、こちら側の文化を説明する時に、

自分で話していて、違和感を覚えてしまっていた。


『この辺』ってよく言うけれど、どれくらいの範囲か、

クルには伝わっていないのだから。



「これはね・・・『鳥の民』と同じように、

 空から地上を見られるものを使ったり、

 たくさんの人が、どこに何があるかを調べたりして作られた、

 『地図』っていうものだよ。私達が今いるのはここだね。」

「ええっ、そんなこと分かるの!?」

検索画面を開き、この辺りの地図を表示させると、

クルがすごく驚いた様子。まあ、無理もないか。


「うん。そして、こちら側に来る時、私達が出てきた山がここ。

 こういう道を歩いて来たんだよ。」

「た、確かに、そんな感じだったかも・・・」


「それでね・・・さっき、物を買うにはお金が必要って話をしたけど、

 私が普段持ってるのを使えるのは、この範囲。

 これが『国』と呼ばれてて・・・クルのところに合わせた言い方だと、

 大きな群れみたいなものなんだ。」

「えっ・・・これが群れ?

 多分だけど、すっごく大きいよね。」

うん、たった今説明した、クルの住む世界との境目がある山から、

私達がいる家までの距離なんて、この縮尺にすれば、見えなくなってしまう。



「そうだね。もちろんここに住んでいる人達が、

 実際に群れみたいに動くわけではないけど、

 この中で暮らすための、決まり事がたくさんあるんだ。

 例えばこのお家も、私のお父さんの持ち物で、

 住んでるのは私だって、ちゃんと記録されてるよ。」

「えええ・・・それって、群れの長とかいるってこと?」


「うん、いるよ。これくらいの範囲で、決まり事を決める人を選んで、

 そこで選ばれた人達が集まって、一番偉い人を選んで・・・

 実際には色々複雑だけど、簡単に言うとそんな風に決まってるかな。」

いや、色々省略しすぎなのは自分でも分かるけれど、

今のクルに伝わるように説明するのは、このくらいかな・・・


「す、すごいんだね、ハルカのところって・・・」

「まあ、こういうのも、すっごく長い時間をかけて、

 作られてきたやり方なんだけど・・・

 とりあえず、この中に私達はいて、いろんな決まり事があるって、

 分かってもらえればいいかな。」

少しだけでも、国の概念的なものを伝えられたところで、

本当に言いたかったことを説明する。


「それでね、さっきから畳とかお箸とか、

 こちら側でよく使われるものの話をしてきたけど、

 それって、細かいことを抜きにすれば、この範囲での話になるんだよ。

 別のところに行けば、そこでよく使われるものは違ってくるんだ。」

「ふんふん・・・すっごく広いけど、本当に群れみたいなんだね。」

正確には、一つの国だって地方によって文化も違うだろうけど、

それを言い出すと、クルを混乱させてしまいそうだから、今は省略させてもらう。


「あれ? それなら、私達のところってどうなんだろう。

 遠くに行けば、知らない民がたくさんいるのは分かるけど、

 どんな形をしてるのかな。」

「うん・・・もしかしたら、誰にも分からないかもしれないね。

 『鳥の民』なら、あちこち飛び回ったりしてるから、少しは知ってるのかな。」


「そうかも! 私ももっと、遠くのことを知りたいな。」

「うん、私もクルのところ、もう少し知りたい!」

実際にあちら側を調べるのは、簡単なことではないだろうけど、

二人でまだ見ぬものに思いを馳せて、笑い合った。



*****


近況ノートに「新作準備に伴う更新頻度変更のお知らせ」を掲載しました。

合わせてお読みいただければと思います。

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