第27話
「ねえ、クル。もし良かったら、私達の食べ方も試してみる?」
「ハルカのところの食べ方・・・?
うん、やってみようかな。」
昼食の調理を終えて、食卓に並べようという時に、
クルに尋ねてみる。
「よし、それじゃあ・・・!」
確認も取れたので、私と同じように並べてみる。
・・・いや、私のほうはいつも通りで、
クルのところだけ、手掴みに合わせた置き方にしてしまうと、
事情は分かっていても、見た目がなんだかね・・・
「何これ、木の棒が二本?」
「うん、これは『お箸』って言うんだ。
この間に、挟んで食べるんだよ。」
もちろん、外国からの旅行者も戸惑うことが多いと聞く、
これを体験してほしい気持ちも、あるのだけれど。
「ふえっ? こ、こんなの使って食べてるの?」
私がおかずをちょっと摘み上げてみせると、
予想はしていたけれど、クルが驚いた表情。
「慣れると、柔らかい食べ物を切り分けたりとか、
細かい使い方もいろいろ出来て、便利なんだよ。
それから、やっぱりご飯と相性が良い気はするかな。」
説明しながら、お茶碗の中のご飯を、少し持ち上げてみる。
「ほら。ご飯って粘り気があるから、
手で食べると、べとべとしちゃうんだ。
こういうのは、お箸が一番合ってる気がするよ。」
「あー・・・なるほどね。
私のところは、いつも手で食べてるから、こんなの考えもしなかったよ。」
「うん、この辺りに住んでいる人達も、ずっと昔は手で食べてたみたいだけど、
手が汚れるのが嫌な人が多かったのかもね。
食べた後、草とか編もうとするなら、手を洗わないとやりにくいでしょ?」
「そういえばそうかも!」
少し調べてみると、元々は神事に使われた、といった記述も出てくるけれど、
祭祀に関わる人達以外に、ここまで広く使われるようになったのは、
そんな理由もあったんじゃないかと思う。
「うーん・・・私にはやっぱり、使いにくいかな。」
「うん、難しそうなら、クルの慣れたやり方でいいんだよ。」
そして・・・私が生きるこの時代の家庭では、
手で食べると行儀が悪い、と教えられるだろうけど、
その価値観はきっと、クルには無いものだろう。
もし外食というものを体験してもらう時が来たら、
この辺も身に付けてもらったほうが良いのだろうけど、
もう少し、こちらの文化に詳しくなった頃に、伝えたほうが良いのかな。
「ハルカのところのお肉、柔らかくて美味しい!」
「良かった・・・!
そうそう、ここでお肉と一緒に、ご飯を少し食べてみると・・・」
「・・・! これ、すっごくいい!」
「そうでしょ? この食べ方、私は好きなの。」
「・・・あれ? それって、お箸があると便利なやつ?」
「あっ、そうだね。自分の好きな量を取る時、やりやすいと思うよ。」
お肉の後に、手でご飯を掴もうとしたクルが、
私のやり方と見比べてくる。
「うーん・・・ちょっと難しいけど、私もそれ、やってみる!」
「分かった。私の持ち方とか、指の動かし方とか、近くで見てみる?」
「うん、お願い!」
もしかすると、クルがお箸を習得するのは、意外と早いのかもしれない。
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