第26話

「クル、実はね。こちらのほうでは、お米が大切にされてきたのも確かだけど、

 今では、お肉が好きって人もすごく多いんだ。」

「えっ、そうなの?」


「うん、まずは・・・この大きなものについて、簡単に話すね。

 これは『冷蔵庫』といって、中に入ってるものを冷たくする機械なんだ。

 電気で動くのは、炊飯器と同じだね。」

「ふえっ? ほ、本当に冷たい!

 川の深い所より、ずっと!」

そっか・・・クルにとっての『冷たい』の例えって、そうなるのか。

私が開けたところに、早速手を入れて体感する様子を見て、気が付く。


それはそうと、あまり長く開けているのは、

中のものにも電気代にも良くないので、早めに止めることにしよう。



「それでね、こうしておくと、お肉や野菜を少し長く保存できるんだ。

 狩ったばかりとまではいかないけど、ほら!」

「うわっ、大きいお肉!

 色も、本当に狩った時とそんなに変わらないね。」

クルのところにお泊りする前日、肉屋さんで少し奮発して買ってきたものを出す。

まずは良い反応をもらえて良かった。


「そうそう、これも牛のお肉だよ。」

「ああ、さっきお乳を飲んで、昨日も持ってきてくれたやつだよね。

 形は違う感じがするけど。」


「うん。牛は大きな動物だから、お肉を色々な形に切ることができるし、

 どの部分を食べるかによっても、味や柔らかさが違うんだ。」

「ふうん・・・! 私のところのウサギより、ずっと大きい?」


「そうだね。私やクルの身体が三人分くらい入るほど、大きいんじゃないかな。

 ああ、私達とは体の形が違うから、ぴったり数えられるものじゃないけど。」

「ええっ、そんなに!? じゃあ、これもほんの一部なんだね。」


「うん、一頭の牛からたくさんのお肉が取れるから、

 それが色々な場所に運ばれて、みんなのご飯になるんだよ。」

「・・・もし、それくらい大きな獲物を狩ることがあったら・・・」


「いや、こっちの牛は狩れないからね!?

 牧場の人達が、頑張って育てたやつだからね?」

・・・あっ、遠くの国の映像で、

猛獣が大きな牛の仲間を狩っている様子が、頭に浮かんだ。


クルに見せたら、なんとなく良くない気がするから、

テレビを見てみたいと言ってきた時は、選局に注意しよう・・・



それはそうと、冷蔵庫に入れていたお肉を、まずは常温に戻す。

その間に野菜を切ったり、調理道具の説明などしつつ、

お肉に少し切れ目を入れて、温めたフライパンの上へ。


料理が上手いとは、とても言えないけれど、

クルに美味しく食べてもらえるよう、最低限の心得はあるつもりだし、

焼き方の注意点も調べておいた。


味付けは、お肉そのものを楽しんでほしいし、

まずは飾らずに塩と胡椒だ。


「うわっ、その火が出るやつとか、

 持ちやすい石の器とか、すっごく便利そう!」

・・・うん、まずはそっちに興味がいくよね。

これはずるいと言われても仕方がないやつだ。


ガス台は無理だけど、フライパンくらいならお土産にしてもいいのだろうか。

あちらの世界の人達に、知られることがあると、すごく心配ではあるけれど。


「あっ、いい匂いがしてきた! そろそろ焼けたみたいだよ!」

「うん! ちょうどお米も炊けたみたいだし、ご飯にしようか!」

でも、まずは美味しいものを食べて、楽しく過ごすのが一番だよね。

火を止めて、盛り付けを済ませて、昼食の時間にしよう。

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