第24話

「あの、クル・・・危ないから本当に止めてね?」

「大丈夫、このくらいの高さの木に登ったこともあるし、

 ちょっと覗くだけだから。」


「いや、耳とか見られても大変だって言ったよね?」

「あっ、帽子はちゃんと被るね。」

うん、これが何とかの回収というやつだろうか。

たった今教えたばかりの、テレビのアンテナを見てみようと、

クルが窓から身を乗り出す。


それでも、屋根の上まで行くのは断固として阻止。

一応、しっかりと私が体を押さえた上で、

視界に入れるだけに留めてもらった。



「ふう・・・何事もなくて本当に良かったよ。」

「あはは、ハルカは心配しすぎだって。

 落ちないように注意はしてるから、そんなにぎゅっとしなくても大丈夫だよ。」

「だって・・・・・・」

ようやく事が済んだところで、二人で窓から外を眺める。

もちろん、クルには帽子を被ったままでいてもらって。


「いい天気だね。私のところなら狩りに行くか、

 日当たりのいいところで、ごろんとしたい気分。」

「あはは、日向ぼっこは私も賛成だね・・・

 そうだ! 昨日はお泊りだったから出来てないし、お布団を干そうかな。」


「ん、お布団・・・?」

「私達が寝る時に使うものだよ。

 昨日の夜に使ってた、毛皮の代わりにくるまるんだ。

 ちゃんと干すと、すごく暖かいよ。」


「えっ! それなら試してみたいかな。

 お布団っていうの、一緒に干そう!」

「あっ、一応聞くけど、今日は泊まっていくんだよね?」


「もちろん! お父さんとお母さんにも、そのつもりだって言ってあるよ。」

「良かった! そのほうが私も嬉しいな。」

クルならそうするだろうと思ってはいたけれど、

こちらの世界に来るのを、すごく楽しみにしていた様子だったので、

ばたばたと身支度をして、あちらを出てきてしまったから、

ちゃんとご両親にも確認はしていたみたいで、ほっとする。


日中にしっかりと干したお布団の気持ち良さ、

クルにもぜひ味わってほしいな。



「これ、ふわふわしてる? 毛皮じゃないよね。」

「うん、これは綿が入ったお布団だね。

 ある植物から採れる、柔らかいものがたくさん入ってるんだ。

 あとで検索して見せてあげるね。」


二人で話しながら、掛け布団と敷布団を分担して、庭へと運んでゆく。

普段なら、一人で二つ分の往復をすることになるけれど、

今日はクルが一緒だから、体も気持ちも軽い。


お日様によく当たる場所で、物干し竿にぱさりと布団をかけたら、

そのまま縁側で、二人並んで座ってみる。

昨日はクルのところで、ちょっと刺激的な一日を過ごしたけれど、

こういう時間も、平和で良いな。



「あれ? 見たことのない蝶々がいる!」

「ああ・・・確かにこの種類は、クルのところでは見たこと無いね。

 こっちは花も多く咲いてるから、向こうより多くいると思うよ。」

季節は春、ここは田舎と呼ばれる場所だし、

自然だって身近なところに多くある。

お腹が空く頃まで、もうしばらくクルと一緒に、のんびりと過ごそうかな。

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