第23話

「クル、どうかな。聞こえる?」

「うん。ここからも、ハルカの声が聞こえるよ。」

クルが答えながら、自分の耳に当てた紙コップを示す。

そう、私達がやっているのは、どこか懐かしい気持ちになる糸電話である。


なお、クルの耳は、こちら側の人がよく知る犬と同じ形なので、

私が喋っている限り、正面を向き合ったままで大丈夫。

・・・これはちょっと便利。


「それじゃあ、その先にある糸を、指でほんの少しだけ触ってみて。

 私は声を出し続けるから。」

「うん・・・あっ、ちょっとぶるぶるしてる?」


「そうだね。次はその糸を、ぎゅっと強くつまんでみて。」

「えっ・・・? ああ、ハルカの声が、ここからは聞こえなくなったね。」

うん、クルのことだから、紙コップの外に洩れる、

私の声を拾うなんて簡単なことだろうけど、

今説明したいのは、別のことだ。



「うん、そうだよね。つまり・・・私の声が、

 この紙コップから糸を伝わってる間は、さっきのぶるぶるになって、

 またクルのところで、声になったんだよ。」

 

「そ、そういうことだよね・・・

 あれ、なんでこんな話になったんだっけ?」

「さっきクルが気にしてた、この大きい四角いのが、

 こっちの画面に映るものを、どうやって取ってきてるのか・・・ってところだね。

 今の糸電話では、声がぶるぶるに変わって、私とクルの間を伝わってたけど、

 これの場合は、目に見えない『電波』というもので、やり取りしてるんだよ。」

説明しながら、画面の隅のほうに出ている、

波が広がるようなマークをぽちりと押して、『切断』を選ぶ。


「今、電波を切る操作をしたから、

 そうすると、さっきと同じことをしても・・・」

「あっ、『画面』というのが白くなって、別の文字が出てきた。」


「うん、電波が無いから、糸をぎゅっとつまんだ時と同じで、

 別のところの情報を、取ってこられなくなったんだ。

 今出てきた文字は、それを伝えるためのものだね。」

「う、うん・・・すっごく難しそうだけど、

 この大きい四角いのが、遠いところの声みたいなものを、

 見えるようにしてくれるのは分かったよ。」


ふう・・・きっと聞かれるだろうなと思っていたから、

いわゆるPCでの検索とか、どう説明するか考えておいて良かった。

いや、これ自体が動く仕組みとか、私にも難しすぎて分からないことは、

もう伝えてあるけどね。


ちなみに、クルも『鳥の民』が物々交換に持ってくる道具とか、

使い方は分かっても、作り方が分からないことは時々あるから、

そういうところは実感できるようだ。



「ところで、ハルカ。さっきの画面をつけたやつ、

 すっごくたくさん押すところがあるけど、これも別の何かが動くの?」

・・・うん、それはテレビの選局とか、

録画したものを見る時のボタンだよ。


よし、今教えたばかりのPCで、テレビの仕組みを検索して、

さっきの糸電話と似たような仕組みで、映像を見るための電波を、

アンテナを通して受信してるってことを教えよう。


・・・待って、クルにアンテナの存在を教えたら、

屋根まで上がって確かめようとしないよね?

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