第21話

「それじゃあ、そろそろ飲み物は終わりにして、

 私の部屋に案内するよ。」

「うん! ハルカの部屋、私も見てみたい!」

飲み物とカップを片付け・・・カップはひとまず流しに置いておいて、

クルのところに戻ってくる。


「私の部屋は、二階にあるの。こっちだよ。」

「二階! お家の上には登ったことがあるけど、

 部屋があるのは初めて!」

いや、二階という構造自体は初めてかもしれないけど、

あの屋根部分に登るほうが、難易度は高いからね、クル・・・



「そういえば、ここって広いけど、ハルカは一人で住んでるの?

 お父さんとお母さんは別のところだっけ?」

「うん。お父さんとお母さんは、ここからちょっと遠い場所・・・

 クルのところに、たまにしか来られなかった時のお家に、今でも住んでるよ。

 ここはね、元々おじいちゃんとおばあちゃんの家なの。

 今はもう亡くなってしまったから、私が一人で住んでるんだけど。」


「あっ・・・ご、ごめん。」

「ううん、気にしないで。もう三年くらい前のことだし、

 ここに一人で暮らすのも、私が決めたことだから。」


「そ、そっか・・・」

「うん。あ、えっと・・・」

気まずそうなクルに、こちらから言葉をかけようとしたけれど、

無意識のうちに合わせようとした話題が、無神経かもしれないことに気付いて、

慌てて飲み込んだ。


「あっ・・・ハルカも気にしないでね。」

もっとも、この親友にはすぐに気付かれてしまったようだけど。


「ハルカも知ってると思うけど、

 私の家におじいちゃんとおばあちゃんはいないし、会ったことも無いんだ。

 お父さんもお母さんも、少し離れたところから、独り立ちしたみたいだから。」

「独り立ち・・・『犬の民』って、みんなそうするものなの?」


「うーん・・・親の家や、その周りの狩場を代々継いでいくのと、

 住む場所を新しく探して旅に出るのと、両方あるかな。

 子供が何人もいる場合は、一人だけ残ることが多いみたいだよ。」

「ああ、その辺りはこちらのほうも、考え方が近いかな。

 私の両親も、生まれた場所から、お仕事が多いところに出てきたんだよ。

 それでも、連絡をする手段はいくつかあるから、

 旅に出てそれっきり・・・ってことは少ないと思うけどね。」


「えっ・・・それって、やっぱり私のところには無いものがあるの?

 聞かせてもらってもいい?」

「うん! 私の部屋で話そうか。

 ・・・他にも、見たことが無いものが色々あると思うけど。」


こちらの世界には、ずっと昔から手紙を送り合う文化があったし、

今では多くの人が携帯する端末で、会話も文章のやり取りも出来る。

だけど、クルのところには、まず文字が無いし、

どこに誰が住んでいるかなんて、ある程度離れてしまえば分からないよね。


・・・さて、これまではなんとか説明できていたけれど、

実のところ、クルに分かりやすく伝えられる自信の無いものが、たくさんある。


私の部屋に入れば、そういったものを目にすることになるのだけど・・・

クルにはこちらの世界を知って、できれば楽しんでほしいし、

自分が出来る限りのことはやってみよう。

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