第20話

「そうそう、この牛のお乳っていうのも、

 少し変わってたけど、美味しかったな。

 そういうのを飲むってことも、少しびっくりしたけど。」

そろそろ飲み物を片付けようかという時に、

クルが紙パックに視線を向けて言う。


「ああ、ここではたくさんの人が飲んでるから、当たり前に思うけど、

 そういう習慣が無いと、確かに驚くことかもね。」

生きている時代の感覚とか、刻み込まれてきた『常識』といったものに、

私達は影響されるのだろうけど、違う文化に生きる視点からの反応は新鮮でもある。


「私が聞いたことがあるのは、動物って食べたらいなくなっちゃうけど、

 お乳をもらって飲んだり使ったりするなら、長い間続けられるから、

 食べ物や、動物自体が少ないところでは、そうしてたって話かな。

 この辺にまで、その習慣が伝わってきたのは、後になってのことらしいけど。」

「そ、そうなんだ・・・食べ物が無いなら、確かに飲もうとするかもね。」

説明していると、クルがちょっと戸惑いつつも、うなずいてくる。

うん、食べ物が無いと、生きていけないもんね。



「そういえば、このお乳をもらう『牛』って、

 ハルカが昨日持ってきたお肉、同じ動物のだよね。」

「うん。同じ牛といっても、種類は違うかもだけど、

 お肉も食べるし、お乳も飲んだり、他の食べ物を作る元になったりするし、

 たくさんの人がお世話になってる動物かな。」


「そんなにこっちの人達が食べるってことは、

 どこかに牛がたくさんいて、それを狩ってる人も多いの?」

「ううん、牛の数は確かに多いだろうけど、

 狩るんじゃなくて、育ててるよ。」


「え・・・?」

あっ、クルの目が点になった。

うん、確かに私が今まで向こうに行っている間、

農業とか牧畜が行われている様子は無かったよね。



「えっとね・・・クルのところに合わせて言うと、

 ウサギを多めに捕まえてきて、逃げられないように柵で囲った所に入れるの。

 そこにはウサギが好きな草もいっぱい用意してね。

 それで、子供が生まれて増えていけば、まずは成功かな。」

「あー・・・それで、増えたウサギを・・・

 子供とか若いのは除いて、食べるってこと?」


「そうそう! こっちで牛を育てるには、もっと色々やることがあると思うけど、

 すごく簡単に話すと、そういうやり方になるかな。」

「うーん・・・ただ、そんなに広いところで、

 私達だけでウサギをいっぱい持ってたら、いろんなところから狙われそう・・・」


「ああ・・・クルのところだと、そういう問題があるのか。」

うん、私が向こうで見た範囲に、

法律とか警察とか、どう考えても存在しないもんね・・・


「それに、私はやっぱり狩りが好きだから、

 それが無くなっちゃうのは、ちょっと寂しいかな。」

「ああ・・・た、確かに自分の気持ちは大事だよね。」

うん、私の親友には、野生の本能的なものがしっかりあるようだ。



「あっ、でもお兄ちゃんのところなら、

 人が多いみたいだから、そういうのもできるかも。」

「そうだね! ウルさんのほうでやってみたら、

 上手くいけば便利になるかもしれないよ。」

・・・この話がいつか、クルからお兄さんのところに伝わったら、

一つのきっかけになったりするのだろうか。

それはまだ分からないけれど、どこかで続きが聞けるといいな。

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