第19話

「クル、お待たせ! 飲み物を持ってきたよ。」

「ありがとう! ・・・って、いっぱいある?」


「うん、クルには初めてのものばかりだろうし、

 どれが口に合うか分からないから、色々準備してみたんだ。」

「えっ、嬉しい! どんなのがあるの?」


「そうだね・・・まずはクルのところに似てると思うけど、

 こちらに生えてる植物をもとに淹れたお茶、これは果物の搾り汁が入ったもの、

 あとは、クルには珍しいかもしれないけど、動物のお乳もあるよ。」

「ふんふん・・・えっ、お乳ってあの!?」

クルがたまに驚いたりするけれど、

一つ一つ説明しながら、まずは少しずつ飲んでもらう。


こちらの世界の犬が摂取してはいけないものや、

クルが食べていたものから、ある程度は絞っているけれど、

そもそもクルの食生活だって、こちらの犬とはそもそも違うのだから、

気を付けるに越したことはない。


「うん、この果物を絞ったのが、一番美味しい!」

「あはは、やっぱり甘いものがいいか。

 でも、お菓子や果物自体と一緒で、

 これもたくさん飲みすぎると、体に良くないよ。」

「うっ、やっぱりそうかあ・・・」

うん、私だってこういうの、もっと食べたり飲んだりしたい時もあるよ。

でも、それで自分ばかりか、異世界の友達が病気になってはいけないからね。



「植物を使った飲み物も、私のところより濃い感じだよね。

 葉っぱの種類もたくさんあるの?」

「うん、本当にいろんな植物・・・それも葉っぱだけじゃなくて、

 実とか種からも、飲み物が作られてるね。

 それに作り方も、それぞれに合ったやり方があるみたいだよ。」


「作り方? 葉っぱの量とか?」

「それもそうだし、葉っぱならまず火にかけて、ぱらぱらにしたり、

 お湯の温度・・・ちょっと熱いか、すごく熱いかでも違うから、

 どのくらい熱くするかが、細かく決まってるのは聞いたことがあるよ。」

「うわあ・・・覚えきれないくらいすごいのは、分かった気がする。」

あっ、クルが思考を放棄した顔してる。

・・・いや、詳しく語れと言われたら、私だって無理なんだけどね。



「でも、そんなにいっぱい飲み物や作り方があるなんて、

 ハルカのところ、みんな作るのが大好きなの?」

「うーん・・・皆が皆ではないけど、

 もっと便利にしたい、もっと良いものを作りたいって人は、確かに多いと思う。

 あとは・・・選ばれるため、もあるかな。」


「選ばれるため?」

「うん。さっきもお仕事やお金の話をしたけど・・・

 私は一昨日、今ここにある飲み物を、お金を使って買ってきたんだ。

 ここにあるよりも、ずっとずっとたくさんの種類の中から。」


「えっ・・・!」

「もちろん、全部の種類なんて買ったら、重くて持てないし、

 そもそも飲みきれないから、買う側は『選ぶ』ことになるんだ。

 美味しいもの、体に良いものとか、自分なりの基準でね。」


「それって・・・もし、誰にも選ばれなかったら?」

「作る人は、お金をもらえないね。

 そして、売るものを作るためにもお金は必要だから・・・」


「お金が、無くなっちゃう?」

「うん。だから、そうなる前に作ることを止めて、

 別のお仕事を探すことになるかな。」


「な、なんだか急に、ハルカのところ、大変に思えてきた・・・」

「そうだね・・・でも、そうやってたくさんの人が頑張るから、

 美味しい飲み物がたくさん生まれる、って考え方もあるんだ。」


「そ、それはそうかも・・・」

「多分ね、人がいっぱいで物もたくさんあるって、

 良いことも悪いこともあるんだよ。

 それを全部どうにか出来るわけじゃないから・・・

 今はもう少し、美味しいものを飲もうか。」

「そ、そうだね!」

思いがけず重い話になってしまったけれど、

私が今住んでいる場所が、そういう風に動いているのも本当だ。

・・・いや、まだ学生の私が、満足に説明できているかは分からないのだけど。


それはともかく、クルと一緒に座って、

お互いの一番好きなものを飲んで、美味しいねと笑い合う。

その時間が楽しいものであることは、間違いないんだ。

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