第18話

「クル、まずはこっちの部屋に来て。

 お客さんが来た時に入ってもらうところなんだ。」

「うん・・・! わっ、広いね。」


ここは元々、私の祖父母の家で、いわゆる田舎の一軒家である。

もう二人が亡くなってしまった今では、ご近所付き合いも途切れて、

そもそも住む人がいない家も、この辺で増えてきているらしいけれど、

この家が建てられた頃には、多めの人数がこの部屋に集まることも、

きっと想定されていたのだ。


今はもう広すぎる部屋ではあるけれど、せっかくクルが来るんだし、

ここも使ってもらおうと、昨日掃除はしておいた。


「あれ、これって草を編んだやつ?

 下にあるの、全部そうなの?」

「うん、これは私のところでも、好きって人が多いかな。

 『畳』っていうんだ。座ってみて。」

「うん! ・・・うわっ、すごくいいよ!」

私が住む国では、昔ながらのものであり、

現代では床も種類は様々にあるけれど、やはりこれが良いという人も多い。


クルのお家でも、地面に草を敷いていたし、

狩りの時にも、草で編んだ紐を持って行ったりと、関わりは深そうだから、

興味を持ってくれる気はしていたけれど、予想は当たったようだ。



・・・いや、本当にお客さんが来た時に、

畳だけに座らせるわけではないんだけどね。


「はい、座布団も持ってきたから、

 もしよかったら、この上に座ってみて。」

「ふえっ? 何これ。」


「うーん・・・色々使われてるけど、

 とある木から採れる、ふわふわした素材が主になってるかな。

 長い時間座っている時とか、この上にいたほうが楽なんだよ。

 ほら、こんな風に。」

クルの目の前で、二つ持ってきた座布団のうち、自分用のほうに座ってみせる。

うん、座り方は伝わったかな。


「わ、分かった・・・うわっ、沈む?

 本当に柔らかいんだね、これ。」

うん、腰を下ろした瞬間に良い反応。

初めてだから仕方ないよね。


「うん、なんだか・・・ちょっと高いところに座ってる気分。」

「あはは、確かにそうだね。

 ただ、ここにもう一つ持ってくるものがあるから、少し待ってて。」

クルにそう言って、客間の隅に立て掛けてある座卓のところへ。


「ちょっと失礼して・・・はい、こうやって木の台の周りを囲んで、

 話し合ったり、飲んだり食べたりすることがあるんだよ。」

「な、なるほど・・・ハルカのところでは、こんな風にするんだね。」

クルと私の座布団の間に、座卓を置いて向かい合う。

ちょっと戸惑っているようだけど、これも文化の違いだから、

折角こちらに来たのだし、体感してもらうのも良いだろう。



「じゃあ、せっかく机も置いたところだし、

 この上に置く、こっちの飲み物を持ってくるね。」

「ハルカのところの飲み物!? すっごく楽しみ!」


さて、座布団や机を用意したなら、お茶の一つでも出さなくちゃ。

そもそも、クルの家からここまで、ずっと移動していたわけだし・・・

こちらの世界の飲み物を、クルはどんな風に感じるかな。

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