第17話
「それじゃあ、クル。ここで靴を脱いでね。
私達のところでは、家の中に上がる時はこうするんだ。」
「うん・・・本当に、下に掘ってるんじゃないんだね。」
家に帰る道すがら、2階以上あるだろう建物を見上げては、
不思議そうにしているクルに、この辺りでは地下を掘って居間を作るんじゃなくて、
上に向かっていくほうが多いと話したのを、ようやく実感してもらえたようだ。
クル達が住む家の地上部分は、
どちらかといえば、屋根の役割が大きい気がするからね。
「これって、下も周りも全部木で出来てるの?」
玄関から上がってすぐに、
クルがきょろきょろと辺りを見回して、尋ねてくる。
確かに向こうの屋内はといえば、
周りはもちろん掘り下げられた土で、所々草を敷いたようなものだから、
木の素材があちこちに見えるのは、目を引くかもしれない。
「ああ、全部ってわけじゃなくて、土や石が元になったものもあるけど、
木は確かに多いかもね。」
・・・あっ、クルが床をじっと見つめている。
「これはね、こんな風に切った木を組み合わせて、
敷き詰めてるんだよ。」
床板の一枚を示しながら、出来るだけ分かりやすいように説明してみる。
いや、その下の構造物とか、言い出したら切りがないだろうけど、
まさか床板を剥がして見せるわけにはいかないからね・・・
「ふうん・・・それでも、すっごくたくさんの木を使ってるよね。
あの山から持ってきたの?」
「うーん・・・私もその場にいたわけじゃないけど、
こういうのは家を建てるお仕事の人がいるから、その人達が運んできたと思う。
家の材料にする木は、種類もある程度決まってて、
たくさん生えてる場所は他に色々あるから、そこから持ってきたのかな・・・」
昔ならいざ知らず、この辺りの住居に使う樹木を、
全て付近で賄っているとは、ちょっと考えにくい。
「家を建てるお仕事・・・ああ、人がたくさんいるから、
やることが分かれてるんだっけ?」
「そうそう。昨日の夜に話してたことだよ。」
うん、その会話で思い出すけれど、基本的に自給自足の生活をしているクルに、
職業とかお金のやり取りを教えるのは、少し時間がかかった。
まあ、『鳥の民』との物々交換があるから、
そういったものに全く触れていないわけではないし、
クルのお兄さん達が、こちらで言う集落を作ろうとしていることも、
いずれはそこに繋がってゆくかもしれない、ということを伝えたら、
少し分かってもらえた感があった。
貨幣については、歴史の書物を見ても色々あったそうだし、
私が生きているこの時代には、だいぶ複雑な仕組みになっているから、
しっかりと説明するのは難しいんだけどね・・・
ひとまずクルには、この国にいる限りは、
物々交換の代わりに、基準となるようなものだって、簡単に覚えてもらおう。
「私がお仕事っていうのをするなら、
やっぱりウサギとか動物を狩って、お肉や毛皮をお金にしようかな。」
うん、クルなら出来そうな気もするけど、
こっちの世界でやるなら、狩猟許可とか販路をどうするとか、簡単ではないからね。
でも、夢を壊すようなことはあまり言いたくないから、
狩りをするには許可がいるからね、ってことは教えておこう。
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