第15話

「ねえ、ハルカ。なんだか変な匂いがしない?」

山道を下り、平地が近づいてきたところで、

クルが声をかけてくる。


「うーん、心当たりはいくつかあるけど、

 どっちのほうから?」

「くんくん・・・・・・多分、あっちかな。

 あっ! でも、そっちからも別の匂いがするかも。」


「あー・・・あっちのほうは少し歩くから、また今度見せるね。

 もう一つは、もうすぐ分かると思う。」

クルが『あっち』といったほうは、多分電車がちょうど来たんだろう。

あるいは、そう多くはないけど駅の周りの自動車かも。


そして、『そっち』は・・・山の出口があるほうだよね。

風向きもあるかもしれないけど、なんとなく分かる気はするよ。



「あっ、変な匂いの一つはこれかな。

 地面が・・・私のところと違うよね?」

クルが先のほうに見えてきた、舗装された道を指差している。

うん、私も向こうの世界から戻ると、これに違和感を覚える時があるから、

クルなら尚更かもしれない。


「そうだね。あの地面は土じゃなくて・・・

 石を砕いたものとか、地面の深いところから採れる、どろっとしたものとか・・・

 いくつかのものを混ぜて、固めて出来てるんだよ。」

「石を砕く・・・? 固める・・・?

 なんでそんなことするんだろう。」


「うーん・・・私の足でも、でこぼこがひどい道よりは、歩きやすいんだけど、

 一番はきっと、乗り物が通りやすくするためだと思う。」

「乗り物・・・?」

うん、こればかりは実物を見てもらわないと、うまく説明できる気がしない。

・・・そう思っていたら、少し離れた所をちょうど良いものが横切ってゆく。



「あっ、クル。あれを見て。」

「えっ・・・? ハルカと似た格好の人が、何かに乗ってる?」


「そう、あれは自転車っていうんだ。

 あんな風に乗って足を動かすと、前と後ろの丸いものが回って、

 速く前に進めるんだよ。」

「うん・・・? 私のほうが速く走れると思うけど。」


「いや、クル達『犬の民』はそうかもしれないけど、

 私と同じ民・・・? は、あれに乗ったほうがずっと速いからね?」

「あはは、そうだったね。」

うん、そもそもの体力や筋力が全然違いそうだし、

同じ物差しで考えるのは、無理があるところだろう。



「それで、話を戻すとね・・・

 ああいう乗り物は、でこぼこした土の上だと走るのが大変なの。

 だから、クルには嫌な臭いかもしれないけど、

 こっちでは、地面を固めてるところも多いんだよ。」

「そうなんだ・・・!」

説明していたら、小さい頃に自転車で畑に突っ込んだことを思い出した。

急に前に進まなくなって、そのまま横倒しになって、恐かったなあ・・・


「それから、こういう地面は裸足で歩くと痛かったり、

 夏になると熱くなるから、靴は履いておいたほうがいいよ。」

・・・まあ、裸足で歩いているのを見られると、

変に注目を集めそうという理由もあるのだけれど。



「うん! これは足に着けておくよう、気を付けるね!」

答えるクルと一緒に、今度こそ私の家へと歩き出す。


「あっ! あれってこっちのお家なの?

 私のところより大きいし、変わった形!」

「そ、そうだけど、びっくりされるから、もう少し声を小さくして・・・!」

・・・その足は、目新しいものを見つけるたび、すぐに止まってしまうのだけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る