第14話
「ハルカのところ、久し振り!」
こちらの世界へとやって来てすぐに、
クルが辺りを見渡して、楽しそうに言う。
「あはは、あの時クルが付いてきちゃって、びっくりしたのを思い出すなあ。」
「だって、見てみたかったんだもん!」
うん、やっと帰れたと思ったら、助けてくれた子が後ろから出てきたなんて、
子供ながらに、ぽかんとしたよね。
だけど、そもそも私があちらに迷い込んで、
もう帰れないんじゃないかと泣いていたわけだから、
何かあったら大変だって、慌てて戻るよう説得したんだっけ。
そもそも、私が帰る時にはご両親とお兄さんもその場にいたのに・・・
あのまま、勢いでクルを連れて帰っていたら・・・大騒ぎだっただろうなあ。
10年くらい前の私、冷静になれて良かった。
「この辺りの木、嗅いだこと無い匂い! あっ、この実って食べられるの?」
「待って、その実は食べたことが無いから、今は止めておいて!」
うん、予想はしていたけれど、来て間もない今の時点で、クルは大騒ぎである。
向こうの世界と繋がってるのがうちの私有地で、本当に良かったと思う・・・
さて、小さい頃に祖父母から聞いた、
この山に生えている草木の情報を思い出して、これからの質問攻めに応えなくては。
ただね、クル。こちらでは専門家でもいないと、
そこら中の草木の実について、食べられるかどうかは判断できないんだよ・・・
「はあ、楽しかった!
私のところでは、高い山なんて『鳥の民』の話でしか聞いたことが無いから、
見られて良かったよ!」
「そっか。クルのところに森はあっても、
ほとんどが草原で、ここまでの山は無いもんね。」
いや、この山だって、小さい頃の私でも歩き回れてしまうくらいに、
大した高さがあるわけではないのだけれど、クルにとっては珍しいものなのだろう。
そういえば、あちらとこちらで地形も違うようだし、
二つの世界がどんな仕組みで繋がっているのか、想像もつかない。
いつか私がそれを解き明かす・・・というのは大それているかもしれないけど、
少しでも明らかにできることがあるといいな。
大学の講義、参考になりそうなものを受けてみよう。
「ねえ、そろそろハルカのお家に行きたいな。
どっちのほうにあるの?」
「うん! 方向はあっちだけど、その前に・・・」
近くの茂みに隠しておいた、大きめの袋を出す。
いや、私有地だから大丈夫だとは思うけど、念のために。
これも向こうに持っていくと、さすがに大荷物かなと思って、
置いてきたものだけど、見せるなら今がちょうど良い。
「ここから先は、山道で滑ったり、
裸足で踏むと危ないものがあるかもしれないんだ。
だから、クルも靴を履いたほうがいいと思う。」
「あっ・・・ハルカもしてるやつだよね。
私のところと、そんなに違うの?」
「うん。この先に行くと分かると思うけど、
今のうちに慣れておいたほうがいいよ。」
「分かった! ・・・あれ、たくさんある?」
そう、ぴっちりした靴はクルが嫌がるかもしれないと思って、
緩めのサンダルも含めて、何種類か用意しておいた。
何度かの試着の末、クルが選んだのは、動きやすい運動靴だったけれど。
「それじゃあ、ハルカのお家に行こうか!」
「うん! それから、さっきも言った通り、
この山を下りたら、知らない人と会うかもしれないから・・・」
「・・・! 分かった。
大きい声を出さないよう、気を付けるね。」
「うん、お願い。あとは急に駆け出したりしないでね。
私がこうしてるから。」
遠くへ行ってしまわないように、クルの手をぎゅっと握る。
「うんっ!」
私よりも強い力で、クルが握り返してくれた。
・・・あっ、本気で走られたら、
この力でずるずると引きずられる私が想像できる。
でも、こうしているのは、向こうでもこちらでも温かくて、
きっと大丈夫という気持ちになりながら、一緒に歩き出した。
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