第12話
「ハルカ、おはよう! 起きて起きて。」
おそらくはウサギのものだろう、毛皮にくるまった私を、
クルがゆさゆさと揺らす。
「うーん・・・おはよう、クル。もう朝なの?」
正直言ってまだ眠い。昨日はいつ寝たんだっけ。
そうだ、クルが私の世界に来る時の注意点を教えていたはずだけど・・・
どこからか記憶が無い。
うん、思い返せば一日中動き回っていたわけだし、疲れには勝てなかったようだ。
長い夜にすると思っていたのに、耐えられなかったのは私のほうだったよ・・・
「まだちょっと早いけど、今日はハルカの住んでるところへ行くんでしょ?
だから、朝ご飯食べたらすぐ出発できるよう、準備しないと!」
・・・うん、もう少し寝かせてと言いたいところだけど、
譲ってくれそうにないね、これは。
聞いてみれば、私の住む世界に行くことについては、
ご両親にもとっくの昔に許可を取っていて、
私さえ大丈夫と言ってくれれば、すぐにでも出かけるつもりだったらしい。
それくらい楽しみにしてくれているのは、こちらにもひしひしと伝わってくるから、
私も必要なことはしっかり教えなきゃって、一生懸命になっちゃうんだけどね。
さて、朝食は水で戻した干し肉・・・というのが普段のことだそうだけど、
今日は私が持ってきた保存用のお肉を、水にさらしたもの。
塩気も少し抜けて、クル達にとって良い感じになるようだ。
・・・どちらにしても、朝からお肉単品というのは、
私にとっては少し重い食事になるけれど、
こちらの習慣を主張するつもりはもちろん無い。
そして、そのまま簡単に支度を済ませて、
クルの背に乗せられながら、世界の境目がある場所へ・・・
何か出てきてしまいそうだから、あんまり揺らさないで。
「さあ、早くしようよ。ハルカの世界に行く前に、準備がいるんでしょ?」
何とか耐えているうちに、目的地に着いて、
クルが待ちきれないといった様子で、私の顔を覗き込む。
「も、もう少しだけ待って・・・」
いつものように、回復するまでクルの膝枕が必要そうだ。
「・・・そういえば、クルは最初に私が帰る時、ここを通ったことがあったよね。
あれから、こっちに来たことはある?」
私が初めて迷い込んで、クル達に見送られながら帰る時、
クルがちょっとだけ付いてきて、辺りの景色を見るくらいはしたことがある。
「ううん。ハルカからは、こっちと全然違うところだって聞いてたし、
何かあっても、お父さん達は連れ戻せないからって、止められてたんだ。
私達も、まだ小さい子供だったしね。」
「そういえば、不思議だよね。この境目に触れられるのは、私とクルだけ。
クルのお母さんはぼんやりと見えるくらいで、
お父さんとお兄さんは何も感じられないんだっけ。」
「うん、なんでか分からないけど、そうみたい。」
少なくとも、この境目は誰でも通れるわけではなくて、
クルのお母さんが体験したことを考えると、
適性は1か0かという単純なものでもないようだ。
このことを本気で調べようとしたら、たくさんの人達をここへ連れてきて、
見える人と見えない人、あるいはその中間の人も割り出した後、
遺伝子の特定の箇所が条件を満たしていると・・・なんて話になるのだろうか。
もちろん、それを実現するには大変な労力がかかるし、
異世界へ繋がる場所なんて、知られたら大変なことになるので、するつもりもない。
この場所は当分の間、余程のことが無い限りはずっと、私達だけの秘密だ。
もしも、この境目が誰でも通れる場所だったなら、
私達の住む世界とクル達の世界は、もっと前から交流があって、
当たり前のように、両方の場所に両方の種族がいたりしたのだろうか。
考え出すと、想像は尽きないけれど、
今はクルがこちらに来るための準備である。
やっと気分も良くなってきたので、立ち上がる。
「お待たせ。それじゃあ、向こうに行く前に、
クルにも私達の服を着てもらうね。」
「うん!」
さあ、クルのファッションショー・・・
いや、そんなに種類は持ってきていないから、真面目な変装の検討会の始まりだ。
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