第10話

「あれ? ハルカ、急に袋の中を探してどうしたの?」

夕食の途中、そろそろ良い頃合かと思って、

用意してきたものを鞄から取り出そうとしたら、クルが尋ねてきた。


「今日はね、お菓子だけじゃなくて、お肉のお土産も持ってきたの。

 食事の時間なら、ちょうど良いかと思って。」

「えっ! ハルカのところのお肉? 食べてみたい、食べてみたい!」

すぐさま声を上げるクルに続いて、ご両親も了承してくれたので、

まずはどんなものか、見てもらうことに。


昨日、あちこちのお店を回って買ってきた、クル達からすれば別世界のお肉。

美味しく食べてもらえるといいな。



「これは、私の住むところにいる、牛という動物のお肉で・・・」

「ねえ、それ本当にお肉なの? あんまり匂いがしないんだけど。」

ご両親に説明していたら、横からクルの質問。

うん、お菓子は毎度すぐに気付かれるから、

こういう時まで知られずにいられるよう、包装がしっかりしたものを選んできたよ。


「そうだね。この袋でぴったり閉じられてるから、あまり匂いはしないと思う。

 でも、これを開ければ・・・」

「わっ! ちょっと変わってるけど、お肉の匂いだ!」

大騒ぎするクルの近くで、ご両親も興味を持っている様子。

恐い人達じゃないのは分かってるけど、こういうのは少し緊張するから、

最初から不評ではないようで、ほっとする。



「それじゃあ、早速食べてみよう!」

「あっ、待って。これだけはちゃんと説明させて。」

すぐにでも口に入れそうなクルを止めて、ご両親にもしっかりと伝わるように言う。


「これは、私の住むところの干し肉なんだけど、時間が経っても食べられるよう、

 塩分・・・ここの味付けに使う草なんかより濃いものが、多く入ってるの。

 それが、クル達の身体に合うものか、別のところから来た私には分からないから、

 急にいっぱい食べたりしないで、しっかり確かめてほしいの。」

「・・・うん、分かった!」

私の真剣な表情を見てくれたのか、クルが慎重に匂いを嗅ぎ始める。


「くんくんくん・・・ちょっと変わった感じはするけど、嫌な匂いはしないかな。

 お父さん、お母さん、そうだよね?」

続いてご両親も確かめてくれて、どうやら大丈夫そうだった。

色々調べて、添加物の少ないものを用意したつもりだけど、本当に良かった・・・!



「じゃあ、ちょっとだけ食べるね。

 もくっ・・・確かに濃い味! でも、これはこれで美味しいかも。」

「それなら良かった・・・あっ、でも気を付けてね。

 甘いものと同じで、塩辛いのも食べすぎると、体に悪いんだ。」


「そっかあ・・・気を付けるね。」

クルはちょっと残念そうだけど、これもちゃんと言っておかないといけない。


私が住む世界の保存食は、クル達の干し肉よりも長く食べられるだろうけど、

その分、含まれている塩分は大抵の場合多くなる。

クル達『犬の民』が、今日共にしたような食事で、ずっと生きてきたというのなら、

こちらの食べ物を多く摂りすぎるのは、きっと良くないのだ。



・・・本当はクルと初めて会ったばかりの頃、お菓子を持ってきたのも、

少し危ないことをしていたかもしれない。


その頃はクルも私も幼かったし、持って来られる量もたかが知れていたけれど、

ご両親が『食べ過ぎは良くない』と、ちゃんと教えてくれたのも良かったと思う。


今は少し大人になったから、こちらに持ち込むものは、

私がしっかり注意していくよ。



さて、持ってきた数種類の保存用のお肉を、クルとご両親に味わっていただき、

夕食もお開きになったけど、私とクルにはまだやることがある。


「クル、私のところに来てもらう時、気を付けることを話すね。」

「・・・! うん!」


そう、クル達が住むこの世界と、私が生まれた世界の違いは、食べ物だけじゃない。

今夜だけでは絶対に済みそうにないけれど、少しずつでも分かってもらわなくちゃ。

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