第8話
「さあ、ハルカ。始めるよ!」
「う、うん・・・」
クルが張り切った様子で笑いかけてくる。
私と同じ服を着ていたら、きっと腕まくりなどしていることだろう。
実際には、先程と同じように狩りで手に入れたものらしい、
動物の毛皮を必要なところに巻き付けたような格好なのだけど。
そんなクルの隣で、私は不安でいっぱい。
狩りに付いていく時も、同じような気持ちではあったけれど、
これから待ち受けているのは、また別の高い壁だろう。
「狩った獲物は、新鮮なうちに解体しなくちゃね!」
・・・うん、これから起こることを映像にするならば、年齢制限待ったなしだろうね。
「この石、前に『鳥の民』が交換に来た時、思い切って良いのにしたんだよ。
ほら、毛皮もお肉もこんなによく切れる!」
「う、うん、凄いね・・・」
・・・この世界には、包丁のような金属の加工品は、まだ無いらしい。
というわけで、クルが今手にしているのは、いわゆる石器なのだが、
それにも適した石の種類があるわけで、遠方で作られたものを物々交換で入手したらしい。
そうした遠隔地を結ぶ交易に携わっているのが、
群れを作って長距離を飛ぶことができる『鳥の民』で、この辺りにも時々やって来るようだ。
「じゃあ、中のものを取り出していくよ!」
「うっ・・・」
うん、まだ見ぬ『鳥の民』達に思いを馳せたところで、
なかなかに刺激的な光景が広がる現実を、頭から追い出すことはできない。
「あっ、ハルカ。この部分、そっちに置いてもらえる?」
「うん・・・・・・」
脂とか血とか色々混ざった何かが、私の手に初めての感触を残していく。
いや、全く料理をしないわけではないのだけれど、
ここまで生々しいのは、肉屋さんや魚屋さんで買ったものからは、そうそう感じないからね・・・
「はい、これで解体は終わりだよ。手伝ってくれてありがとう、ハルカ!」
「う、うん・・・」
「ねえ、ハルカ。さっきから元気無いんじゃない? 大丈夫?」
「うっ・・・こういうの初めてだから、ちょっと気持ち悪いかも・・・」
分かってはいる。クル達にとってはこれが日常で、
私が住む世界にだって、こういうことを当たり前にしている人達がいることを。
だけど、これまで約十八年、動物の解体なんて全く経験せずにきた身には、耐性が無いのだ。
「じゃあ、少し休む? 私はこれから、干し肉を作るけど。」
「ううん、まだ大丈夫だから、それも手伝ってみたいな。」
それでも、クル達と一緒に過ごす時間の中では、
こういう所からも、目を逸らさずにいたいと思うんだ。
「それじゃあ、こうやって結んで干していくよ。5日くらいすれば出来上がり。」
「うん、これなら私もちゃんと手伝えそう!」
クルの家の少し高くて、風通しの良い所に、紐で結んだお肉を吊るしてゆく。
食べ物は狩猟と採取で手に入れる日々の中で、やはり保存食は大切らしい。
さっきの刃物代わりの石と交換する対価にも、毛皮と一緒に干し肉を渡すことが多いそうだ。
解体の時よりは、私も手伝えることが多いけれど、
大きなウサギ2匹分のお肉を、切り分けて干してゆくのはそれなりに大変で、
やっと全部終わらせた後、二人で笑い合って伸びをした。
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