第7話

「わわっ、ハルカ?」

クルのびっくりした声が聞こえる。


そういえば、この世界に来るたびに抱き着かれている気がするけれど、

私からは珍しいかも・・・って、今言いたいのはそんなことじゃない。


「遅かったじゃない。心配したんだから・・・!」

思ったよりも大きな声が出た。

ただ一人で待っている間、私の心はなかなかに追い込まれていたらしい。


こうしてクルの体温を感じて、安心したら涙が・・・

それはさすがに見られると恥ずかしいから、そっと手で拭った。



「ご、ごめん・・・一匹捕まえた後に、

 近くにもう一匹いるのが分かったから、そのまま獲りに行ってて・・・

 でも、ちゃんと二匹とも持って帰ってきたよ。」

「え・・・・・・」

謝るクルの言葉に顔を上げると、その手が示す先にあるのは、

紐にしっかりと括り付けられた、それなりに大きな・・・


「わっ! これ何?」

「あれ、さっき言わなかった? ウサギだよ。」


「これが、ウサギ・・・?」

言われてみれば、姿形は確かに、私が知っているウサギに似ている。

だけど、学校で飼われていたり、映像で見たりして、

頭に思い浮かぶものよりも二回りほど大きい。



「うん、ウサギだけど・・・?」

「あっ・・・! そうだよね。

 私がいるほうでよく見るウサギと、大きさが違うから、ちょっとびっくりしちゃった。」

「ふーん、そうなんだ。」

思い返して笑う私に、クルが不思議そうに言う。


そうだ、今のはきっと私のほうに原因がある。

そもそも、私が住んでいる世界だって、ちゃんと調べれば、

このくらい大きなウサギがいるかもしれないし、

ましてやここは、異世界と呼ぶべき場所なのだ。


『ウサギ』という私が知っている名前に引きずられて、

姿形や大きさまで、自分の想像を当てはめていたことが、今更ながらおかしく思えてくる。


この世界と私が住む世界とでは、共通する呼び名もあるけれど、

余計な先入観は捨てたほうが良いんだろうなと、

クルが捕まえてきた二匹の『ウサギ』を前に、しみじみと感じた。



「それじゃあ、ウサギも捕まえられたし、お家に帰ろうか。

 もう足音を抑えなくていいから、ハルカも乗っていく?」

「えっ・・・? だ、大丈夫だよ。

 私まで一緒に乗ると、運びにくいでしょ。」

既にクルの背には、紐で結ばれた大きなウサギが二匹もいる。

この上に私まで背負うのは、クルの力なら可能かもしれないけれど、

背中の荷物が多すぎて、簡単とは言えないだろう。


・・・それに、まだバタバタと動いてるのが見えるし、

ここに密着して時間を過ごすのは、私も少しばかり勇気が必要そうだ。



「それから、さっきは言いすぎちゃってごめんね。

 いつもありがとう。」

「えっ? う、うん。大丈夫だよ。」

急に謝った私に、クルがちょっぴり戸惑いつつも、笑顔で答えてくれる。


こちらの世界にいて、私が無事に過ごせているのは、

本当にクルがいてくれるおかげなんだなと、

狩りという、私にとっては殺伐とした時間に触れて、改めて感じた。


「それじゃあ、帰ろうか!」

「うん!」

行きと同じように、クルと手を繋いで並んで歩く。

そうしているだけで、私はとても温かくて、気持ちが安らぐのを感じていた。

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