第6話
「ねえ、クル。それを狩りに持っていくの?」
準備をすると言って、草で編んだらしい紐を、
クルが身体に巻き付け始める。
「うん! 獲ったものをこれで持って帰るんだ。
そうそう、これは昨日、私が新しく作ったんだよ!」
楽しそうにぶんぶんと振る、その紐をよく見ると、
かなりの長さがあって、端から端まで乾いた草が丁寧に編み込まれている。
同じような作業をした経験の無い私には、
どれだけの労力をかけて作られたのか、知ることは出来ないけれど、
クルが一生懸命頑張って編み上げたんだということは、ひしひしと伝わってきた。
「それじゃあ、あまり音を立てないように歩いていくよ。」
「う、うん・・・!」
普段のように目的地まで駆けてゆくわけではなく、
獲物のいる場所へと、足音を忍ばせながらゆっくりと向かう。
いつもより真剣そうなクルを見るのは、ちょっと新鮮で、
それでも手を繋いで、ひそひそ話をしながら歩いてゆくのは、
この時間ならではの楽しさがあった。
「そろそろだよ、ハルカ。」
しばらく歩いたところで、クルが足を止めて小声で言う。
「もしかして、何かいるの?」
辺りを見渡せば、クルの家の近くよりも周りに伸びる草が増えて、
先のほうまで眺めることが出来なくなっていたけれど、
私に分かるのは、それくらいのものだ。
「うん。少し離れたところで、ウサギが草を食べてると思う。」
耳をぴんと立て、周囲を探るように動かしながら、
クルがこくりとうなずいた。
「私はこれから走って捕まえに行くけど、ハルカはここにいる?」
「う、うん。それが良いかも。」
「分かった。何かあったら呼んでね。」
そう言って、クルが凄い勢いで飛び出してゆく。いや、多分だけど足音をまだ抑えている。
全力で走るのは、獲物にもっと近付いた時なのだろうか。
無事に終わったら、そんな話も聞いてみたいな。
考えているうちに、クルの足音はどんどんと遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
そういえば、『少し離れたところ』って言っていたっけ。
私がこちらの世界にやって来ると、見えない程の距離から駆けつけてくる、
クルにとっての『離れた』って、どれくらいだろう?
いや、距離を示す単位が、私の住む世界と共通している気がしないから、
教えてもらうのは難しそうだけれど・・・
・・・・・・クルが帰ってこない。
狩りにかかる時間が、普段どのくらいなのかは、もちろん分からないけれど、
ウサギを捕まえて、あの紐で縛って戻るまでを考えると、さすがに遅い気がする。
獲物を捕まえられなくて、追いかけ回している?
紐で縛るだけじゃなくて、その場で下処理とか始めている?
・・・まさかとは思うけれど、何か想定外の事態でも起きている?
考えれば考えるほど、悪い出来事のほうが頭に浮かんで、不安が増してくる。
心臓がどきどきと、だいぶ速くなっていることに気付く。
早く帰ってきてよ、クル・・・
そうしてしばらく待っていると、がさがさという音が、少し先から聞こえ始める。
クル・・・!?
いや、もしも違ったらどうしよう。先程からの不安が、悪い可能性を頭に浮かべる。
こちらに害を成す生き物が近付いているのなら、一目散に逃げ出すべきだ。
流行りの物語で、異世界へ渡った登場人物達のように、戦う力なんて私には無いのだから。
足音はどんどん近付いてくる。逃げるなら早くしなければ。
いや、落ち着け、落ち着け。一つ深呼吸。
そもそも私が全力で走ったところで、この世界の生き物から逃げ切れるのか?
危ない時は、大声でクルに助けを求めることが、最善だろう。
・・・それに、私だって小さい頃から何度も耳にしてきた足音くらい、少しは聞き分けられる。
もし違うのなら、もっと身体が逃げたがるはずだよね。
「お待たせ、ハルカ!」
草をかき分けて、ずっと待ち望んでいた姿が現れる。
「クル!!」
ほっとしたのと嬉しくて、私は思わず飛び付いた。
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